【中編小説】ウサギとカメ 最終話:「Love-it Heart」

【中編小説】ウサギとカメ 最終話:「Love-it Heart」

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今回は小説を載せるよー」

 

※ 前回までの話はこちら。

 




 

 

 

ウサギとカメ

 

 

 

 

 

最終話:「Love-it Heart」

 

 

 

 

あれは、ウサギと僕が幼稚園に通っていた頃の話だ。
ウサギと僕は同じマンションに住んでいたから、幼稚園のバスは同じ所から乗り降りしていた。
そのせいか親同士の付き合いもあって、幼稚園の中でも外でも僕たちはよく一緒にいたよね。
ウサギは園庭で走り回るのも、ジャングルジムに登るのも、毎月の歌を覚えるのも、昔から何をやっても早かった。
その反対に、僕はお弁当を食べるのも、道具箱を片付けるのも、服を着替えるのも、昔から何をやっても遅かった。
だから、クラスの他の子たちにいつもからかわれていた。
「カメはほんとにおそいな!」
「おとこのくせに、おんなのウサギにまけてばっかだな!」
それでその頃の僕はそれがとても悔しくて、だけど何も言い返すことができなくて、泣いてばかりいた。

 

 

「でもそんなある日、からかわれている僕の前にウサギが立って、いじめっ子たちに何て言ったか覚えてる?」
カメは布団の中から私を見て、問いかけてきた。私は記憶を辿るが何も思い出せない。
「何て言ったの?」
私が訊くと、カメは楽しそうに続きを話し始める。

 

 

「あんたたち、またカメをいじめてるの!?」
「げ、ウサギのやつがきたぞ」
「おまえだって、カメのことおそいっておもってるだろ!」
「あんたたち『ウサギとカメ』ってはなし、しらないの? カメはね、あるくのはおそいけど、さいごにはウサギにかつのよ!」
その後もいじめっ子たちはいろいろ言ってきたけど、当時から口が達者なウサギはそんなのを一蹴したんだ。
いじめっ子たちを追い払った後、泣いていじけていた僕にウサギは振り返ってこう言った。
「カメ!」
「ぐすん、えっぐ、な、なに?」
「いつまでないてんの!」
「だって、ぼく、なにやっても、いつも、おそくて~・・・・・・」
「それでもいいの! カメだって、ゆっくりでもいいからがんばってればさいごにかてるわよ」

 

 

カメがそこまで話し終えて、私はその時のことを思い出した。
当時のカメがあまりにも泣いているものだから、私は幼いなりにも励ましてやろうとそんなことを言った。
でも、まさかそれをカメがずっと覚えていただなんて。
「ウサギ、今の話覚えてた~?」
「忘れてたけど、今思い出したわ」
「そっか。・・・・・・ウサギにとっては何気なしに言ったことかもしれないけど、僕にとってはすっごく嬉しかったんだ~」
再び天井を見ながら、カメは訥々と話す。
「何をやっても遅くて落ち込んでる僕に、ウサギは教えてくれた。こんな僕でも、諦めずに一生懸命やればなんだってできるって」
私は一学期のやり取りを思い出した。カメは私が「頑張ってれば最後に勝てる」と幼稚園の頃に言った話を持ち出して、私はそれを忘れなさいと言った。
だけどカメは頑として忘れたくないと言い通した。それは、この言葉がカメにとってずっと指標になっていたからだろう。
「けど正直言うとね、去年までは何も頑張っていなかったんだ。テストの成績もいつもよくなかったし、部活だってやってなかった」
「そうね」
「だけど3年生になってウサギと同じクラスになって、勉強も部活も頑張ってるウサギを見て、小さい頃ずっとウサギに憧れていた気持ちを思い出したんだ~」
「え、私に憧れていたの・・・?」
私が尋ねると、カメは照れくさそうに頷いた。
「うん。それで、僕も頑張ってみようと思ったんだ。ウサギが言ってくれた言葉が本当だって信じたくて」
それでカメはこの数ヶ月、あんなに一生懸命勉強していたのか。
「カメ・・・・・・あなた、ホントにバカね」
「うん、自分でもそう思うよ」
あっけらかんというカメ。私はもう一つ尋ねる。
「それにしてもなんで勝手に決めちゃうのよ。私に一言言ってくれてもいいじゃない」
「だってそのままウサギに話したら『バカじゃないの!?』って怒られそうで~」
「そんなこと言うわけ・・・・・・いや、言うかもしれないわね」
「あはは、でしょ~?」
カメは屈託のない笑顔で笑って、私もつられて笑ってしまう。少し笑ったおかげで、さっきは取り乱してしまった心も落ち着きを取り戻した。
「あと1週間で受験だけど、大丈夫なの?」
「うん、頑張る」
「もし合格しても、授業についていくのきっと大変よ?」
「うん、頑張る」
「あれだけ寝坊ばっかりしてたのにもっと早く起きないといけないわよ?」
「う・・・頑張る」
「高校別々になったら、私が一緒にいなくなるのよ・・・?」
「・・・・・・」
この質問に、カメは私から視線を外して逡巡していた。
そして、しばらくしてカメは私に視線を戻すと、力強く言い切った。

「死ぬ気で、頑張る!」

「な、何よそれ。バッカじゃないの」
今度は私が目を逸らした。なぜだかわからないけど、顔が熱い。なんとなく理由はわかるけど、深くは考えたくない。
「せ、せいぜい頑張りなさい」
「うん、頑張る」
カメは頑張るという言葉を連呼しているけど、その全てが本気の物であることは伝わってきた。
「それじゃ長居してもよくないし帰るわね。見送りはいいから」
私はカメの方を見ないまま、立ち上がった。そしてドアの方へ向かう。
「うん。いろいろとありがとね」
背後からカメの声が聞こえる。私はドアノブに手をかけて、これを訊こうかどうか迷って、そして

「カメにとって私は・・・・・・何?」

やはりカメの方を見ないまま尋ねた。
後々家に帰って思ったけど、なんで私はあんなことを聞いてしまったんだろう。
きっとカメの風邪がうつって、私も少しおかしかったんだ。そうに違いない。
カメは私の問いに数秒程の間をおいて、そしてはっきりと答えた。

「ウサギは、今でも僕の憧れだよ」

それがどういう意味か私は深く考えるより先に、カメの部屋を飛び出た。
後ろ手にドアをバタンと閉めて、ドアにもたれかかる。
なぜだかわからないけど、さっきよりももっと顔が熱い。きっと顔は真っ赤になっているだろう。
このまま家に帰ったらお母さんに変な顔をされてしまうから、少し落ち着かなくては。
私は大きく深呼吸をする。その時
「ウサギに一つお願いがあるんだけど~」
ドアの向こう側からカメの声が聞こえて、私は心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。でも、それを気取られないよう
「聞こえてるわよ。何?」
平静を装って答える。カメは私がまだここにいることが分かっていたようだった。
胸の鼓動が未だに収まらない。自分が自分でないような感覚。
「合格発表が3月25日にあるんだけどね~」
「それが何?」
そのつもりはなくとも、自然と口調が刺々しいものになってしまう。でもカメは意に介していないように続ける。
「合格発表の掲示を、一緒に見に行ってほしいんだ」
意外な誘いを受けて、私は戸惑った。別に、何かを期待していたわけではないけど。決して。
「何よ、一人だと心細いの?」
「ううん。そうじゃなくてね・・・・・・」
カメは一度言葉を切る。自分の心臓の音がうるさい。
「幼稚園の頃のウサギの言葉は嘘じゃなかったって、ウサギの目の前で証明したいんだ」
それはつまり、天下の朝日ヶ丘高校に対して、堂々の合格宣言。
「・・・・・・へぇ、言うじゃない。そこまで言うならわかったわ。一緒に行ってあげてもいいわ」
「うん、ありがと~」
「それじゃ、お大事に」
私はカメの部屋の前を去った。玄関まできて、そして自分では鍵を閉められないことに気付く。
「カメ? 家の鍵どうする?」
「あ~、そのままでいいよ~」
「何よ、不用心ね」
「だってウサギ、今僕と顔を合わせられないでしょ~?」
「うるさい!」
私は玄関を飛び出し、思いっきり閉めた。ばたんと大きな音がする。
飛び出した勢いのまま非常階段まで走り、自分の家のある1つ上の階へ行こうとして階段の踊り場で立ち止まった。
心臓の鼓動がこんなに早いのは、たった今走ったせいだ。それ以外にありえない。
「・・・・・・カメのくせに!」
そう吐き捨てた私の心は、この上ないほど晴れやかだった。

 

 

 

 

 



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