【中編小説】ウサギとカメ 3学期:「うさぎ おいし かのやま」

【中編小説】ウサギとカメ 3学期:「うさぎ おいし かのやま」

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今回は小説を載せるよー」

 

※ 前回までの話はこちら。

 




 

 

 

ウサギとカメ

 

 

 

 

 

3学期:「うさぎ おいし かのやま」

 

 

 

 

3学期になった。
1月末の入試で、私は公立組より一足早く私立の青陽学園高校の受験に合格した。
それなりに真面目に授業を受けてきた私だけど、合格直後で残りの授業は消化試合ということもあって、最近はあまり授業に身が入らない。
では私は授業中にどうしているかというと、カメのことを見ていた。
カメが朝日ヶ丘高校を受験すると言ったあの日以来、私は度々カメの方を見るようになっていた。
ひかりが言った通り、カメは一生懸命ノートをとっているし、授業が終わると先生のところへ質問しに行っている。
2学期の期末テストではついに6位まで上がったらしい。
「・・・・・・カメのくせに」
そしてあの日から私は、なんとなくカメと話すことができないでいた。
教室で話すこともなくなったし、下校中にのんびりと帰るカメの背中を見つけても、私は違う道に逸れた。
あいつの後ろを通ることが悔しい。カメはいつも私の後ろについてきていたのに。
「・・・・・・カメのくせに」
そして公立高校の受験まであと1週間となった。カメにとって追い込みの時期だ。
そんな時、カメが風邪で学校を休んだ。

 

 

 

「なんで私が届けなくちゃいけないのかしら・・・・・・」
北風吹きつける帰り道を、私はいつものように早足で歩く。
今日の放課後、担任の先生が
「宇佐美、お前亀井の家の近くだろ。悪いがこのプリント届けてやってくれ」
と言って私にプリントを渡した。
「確かに家は近いけれど・・・・・・」
学校から歩いて10分。私はカメの家の前に着いた。
家は近い、というのは間違いではない。カメの家は私の家族が住む同じマンションにあり、1つ下のフロアだ。
マンションの玄関には、入居者の郵便受けが並んでいる場所がある。もちろん、カメの家の郵便受けもそこにある。しかし、
「先生が急ぎでって言ってたし、直接届けた方がいいわよね」
しばらくカメと話していないからなんとなく顔を合わせづらいけれど、やはり部屋まで届けに行った方がいいだろう。
「まったく、なんで私が届けなくちゃいけないのかしら・・・・・・」
私は一人悪態をつきながらエレベーターに乗り、自分の家のあるフロアの一つ下、カメの家のフロアのボタンを押す。
体がふわっと浮き上がる感触がして、エレベーターが上階へと昇っていく。
それは毎日体験していることなのに、なぜか緊張している自分がいることに気付く。
カメに会ったら何を話せばいいのだろう。いや、話すも何も私は先生に頼まれてきただけなんだから、用事だけ済ませてすぐに帰ればいいじゃないか。
だけど、幼馴染みとして、無謀にも朝日ヶ丘高校を受けるカメに激励の言葉くらいはかけてやっても罰は当たらないかもしれない。
そんなことを考えていると、今度は体が重くなる感覚とともに、エレベーターの扉が開いた。
用事。そう、これは用事だ。何も難しいことはない。なのに―――なぜ私は緊張しているの?
私には珍しいくらいゆっくりと歩いて、カメの部屋の前についた。震える指で玄関チャイムを押す。
ぴんぽーん。
気の抜けた音が響いて、少し毒気が抜かれる。しかし、部屋からは誰も出てこない。留守なら新聞受けにプリントを入れようかと思ったその時、ドアが開いて
「はい~・・・。あ、ウサギ~」
カメが直接玄関に現れた。いつもの学ラン姿ではなく、パジャマ姿。
「ちょっとカメ、あなた風邪ひいてるんでしょう!? なんで外へ出てきているのよ!?」
「だってお父さんもお母さんも仕事で、ゲホッゲホッ」
「わかったから中に入りなさい!」
私はカメの肩を押して屋内へ戻す。少し気が引けたが私も一緒に入った。
「わざわざ家まで来て、ゲホッ」
「しゃべらなくていい。布団で寝てなさい」
私はカメを部屋まで押していく。もう何年も前のことだけど、昔はカメの家によく行っていたから部屋の場所はわかっていた。
開け放たれたままになっていたカメの部屋に入る。数年ぶりに入ったカメの部屋は、昔とは大違いだった。
勉強机にはたくさんの参考書や辞書が並び、カメが自宅でも勉強を頑張っているのが一目でわかる。
私がカメの部屋を観察していると、カメは私の言うままに布団へ潜り込んで
「それで、わざわざ家まで来てどうしたの?」
私を見上げた。私はカメの目を見るのがなんだか恥ずかしくて、目を逸らした。
「あ、あの、プリントを持ってきてあげたの。感謝しなさいよ?」
言いながら私は自分のカバンから、先生から預かったプリントを押しつけるようにして手渡す。
「そ、それじゃあ私は帰るから」
「ありがと~。よっこいしょっと」
カメが布団から出た。私は慌てて留める。
「見送りなんていいからあなたは寝てなさい」
「大丈夫だよ~。それにちょうど喉が渇いたから冷蔵庫に、ゲホッ!」
大丈夫とは言っているが、体調はずいぶん悪そうだ。見ていられない。
「じゃあ私が飲み物持ってきてあげるから、布団に戻りなさい!」
「・・・・・・わかった~」
のそのそとカメが布団に戻る。まったく、世話が焼ける。
「カメ、タオルはどこにある?」
「タオル? なんで~?」
「なんでも! いいから答えなさい!」
「タオルなら、洗面所の上の棚に入ってるけど~」
私はカメの部屋から出て、まずは洗面所へ向かった。そしてタオルを取り出す。
そして次に台所へ行き、冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを、そして先程のタオルを
「まったく、世話が焼けるんだから・・・・・・」
流し台で濡らし、固く絞った。さっきの部屋の様子ではカメはただ横になっているだけのようだったから、頭にタオルを乗せるためだ。
カメの部屋へ戻ると、カメはもらったプリントを熱心に見ていた。私はペットボトルの蓋を開けてカメに渡す。
「はい、これ飲み物」
「ありがと~」
プリントから顔を上げて、柔らかい笑みでカメが受け取った。なぜか直視できない。カメがペットボトルから数口飲んで横になるのを待って
「それとこれ、タオル」
私はタオルをカメの頭の上に乗せた。
「わぁ、助かるな~」
おそらくカメは今も笑顔で私を見ているのだろうけど、私は目線を合わさない。否、合わせられない。
「じゃあ私はこれで帰るから。もういいわよね?」
「うん。もうだいじょ」
グゥ~~~。
静かな部屋に大きな音が響いた。私が発した音ではない。
「あ、あはは・・・・・・」
カメが苦笑いする。私は訊いた。
「最後に食べたのは?」
「・・・・・・今朝」
「お米の場所は?」
「・・・・・・流しの下」

 

 

 

ここまで来たら乗りかかった船だ。
私は人の家の台所でおかゆを作ることにする。
「カメのために作ってやるんだから、調味料を使ってもいいわよね」
病気の人の胃に優しいように、薄味に調整する。
できあがったおかゆを部屋に持っていくと、カメはプリントをじっと見ていた。
「そんなに一心不乱に見て、何のプリント?」
「これはね、僕って電圧と抵抗の問題が苦手だから、理科の先生に頼んでまとめておいてもらったんだ~」
「受験まで日にちが少ないから頑張りたい気持ちはわかるけど、ちゃんと休まないと治らないわよ?」
「そうだね、ごめん~」
申し訳なさそうに謝るカメを見ると、いたたまれなくなってくる。
「いや、私に謝らなくてもいいんだけど・・・・・・そ、それよりおかゆ作ってきたから」
「ほんとに悪いね~」
「別にいいわよ。私は受験が終わって暇だから」
カメはゆっくり上半身だけ起き上がって器を受け取った。
「そういえば、ウサギと話すの久しぶりだね~。最近は帰り道でも会わないし~」
「そ、そうだっけ?」
私が避けてるから、なんて言えなくて私は言葉を濁す。
「あ、あとは自分でやるからもう帰っても大丈夫だよ。ありがとうね」
「そうはいかないわよ。あなたのことだからどうせ食べ終わったら洗い物する気でしょう?」
「ウサギにはお見通しか~」
「そうよ。カメのことなんて何でもわか――」
わかるんだから。そう言おうとして私は思いとどまった。
本当にそうだろうか? カメが一生懸命勉強していたことも知らなかったのに?
いつも私の後ろにいたカメが、いつの間にか私の前を歩いていたことに気付いていなかったのに?
「あれ? どうしたの、ウサギ?」
急に黙ってしまった私を不思議に思ったのか、カメが尋ねる。
私はまた誤魔化そうと思ったけど、カメとばっちり目が合ってしまった。
真っ直ぐ私の方を見るカメ。
「・・・・・・カメのくせに」
「え?」
「カメのくせに、なんで朝日ヶ丘高校に行こうとするのよ」
その時、私の中で何かが切れた。
「なんで? カメはいつも私の後ろをついてきたじゃない。私を頼ってきたじゃない。それなのになんで? なんで前に行こうとするの?」
「ウサギ」
「幼稚園でも、小学校でも、中学校でも一緒だったのに、どうして?」
「ウサギ!」
カメが大きな声を出して、私は驚いて止まった。
「な、何よ。カメのくせに大声出して」
「ウサギ、どうして泣いてるの?」
「え? 何言ってるの、泣いてなんか・・・・・・」
頬に手を当てて、私はまた驚いた。知らないうちに、私の目から涙が流れていた。
「なんで・・・? どうして・・・?」
それはカメにあてたものなのか、それとも自分にあてたものなのか、私は疑問詞を呟き続ける。
「・・・・・・ウサギ。僕は前に行こうとなんてしないよ」
まるで赤子をあやすかのように、ゆっくり優しく語りかけるカメ。その声がとても心地よい。
「で、でも」
「聞いて。僕はウサギの前に行くんじゃない、ウサギと別の道に行くだけなんだ」
「別の道だなんて・・・・・・そしたら、離れ離れになっちゃうじゃない」
私は気付いた。私は安心していたのだ。私の後ろには常にカメがいるって。私がどこへ行っても、カメはついてきてくれるって。
だからその心の支えが失われそうになった時、私はこんなにも脆いのだ。
「カメがいなかったら、私は・・・・・・」
「大丈夫だよ、ウサギは強いから」
「私は強くなんか、ない。知らないの? ウサギって・・・・・・寂しくなると、死んじゃうんだよ?」
私がそう言うと、カメは黙ってしまった。カメを見ると、困ったような表情を浮かべている。
「ごめんね、受験前なのにこんなこと言って。忘れて」
「いや、うん。その・・・・・・」
「それじゃあ食べ終わったら器を洗って帰るから」
「・・・・・・」
カメは無言で再び食べ始めた。ゆっくりと、ゆっくりと。
カメは何をするにも遅い。食べ終わるまでの時間が、すごく長く感じられる。
「・・・・・・ご馳走さま」
実際にはそんなに経っていないだろうけど、私にとっては永遠にも感じられるような時間が過ぎて、カメがスプーンを置いた。
「じゃあお皿」
「ウサギ」
私がお皿をもらおうとすると、カメが私を呼ぶ。
「何・・・?」
「少し話をしない?」
「でも、カメは風邪ひいてるし、受験前だし」
私はこの場から立ち去りたかった。カメの前で弱いところを見せてしまったことがとても恥ずかしかった。けれど
「ううん、今、ウサギに聞いてほしいんだ」
カメの口調は決して強くないのに、有無を言わせない力があった。私は素直に頷く。
「・・・・・・わかった。でも、布団に入って。それで話って?」
カメは私に言われた通り布団の中に戻って、そして天井を見上げながら話し始めた。
「うん。話って言うのはね―――」

 

 

 

 

続く

 



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