【中編小説】ウサギとカメ 1学期:「どうして そんなに のろいのか」

【中編小説】ウサギとカメ 1学期:「どうして そんなに のろいのか」

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今日は久々に小説を上げるよー」

 

 

 




 

 

 

ウサギとカメ

 

 

 

 

1学期:「どうして そんなに のろいのか」

 

 

 

 

「ウサギ~」
幼馴染みが私を呼ぶ。
もちろん、”ウサギ”というのは私の本名じゃない。あだ名だ。
私の本当の名前は宇佐美 早苗。苗字からもじって、ウサギというわけだ。
小さい頃はよくそれでからかわれたけど、中学3年生となった今ではあだ名として定着していた。
「何よ、カメ」
そして私の名前を呼んだこの男の名は亀井 万太郎。通称、カメ。
私のあだ名と同じく苗字から付けられたわけだけど、それに加えてこいつの場合何をやるにも遅いから言いえて妙だ。
「ウサギ、宿題見せて~」
「またそれ? 3年生になって何度目よ?」
両手を合わせて申し訳なさそうに頼むカメに、私は毒づく。
「それが、自分でやろうとはしたんだけど、最後まで終わらなくて~」
「あんたは何やっても遅いんだから、次はもっと早く手をつけなさいよ。はい、これ」
「わかった~。ありがと~」
なんだかんだで結局私はいつも宿題を見せてしまう。カメはわかったとは言ったものの、どうせまた宿題を見せてもらうために来ることだろう。
「相変わらずウサギったら亀井君に優しいねー」
「そりゃあ、長い付き合いだから」
何度も感謝の言葉を言いながら離れていくカメと入れ替わりに、私の友達である滝沢 ひかりがやって来た。
「長い付き合い、ねー。さすがウサギと」
「ウサギとカメ、って? 馬鹿馬鹿しい」
私はひかりの言葉を先取りした。私が小さい頃”ウサギ”とよくからかわれたのはあだ名そのものだけではない。
むしろあいつ――カメとセットで”ウサギとカメ”としてよくからかわれたのだ。
「先に言われちゃったー。でも二人って、ホントによくお似合いだと思うよー」
「やめてよ。私、あいつの遅いところ見てるとイライラしてくるんだから」
カメは、何をするにも遅い。
歩くのも走るのも遅い。宿題をするのも遅い。ご飯を食べるのだって、お風呂に入るのだって、何もかもが遅い。
あ、いや、最後の二つは一緒に遊んでいた小さい頃の話だから今はわからないけど。でもどうせ変わっていないだろう。
「でも亀井君っていいと思うけどなー。優しいしー」
「あんなとろいやつ、どこがいいのよ」
幼稚園の時も、小学校の時も、あいつはいつも私の後ろを着いてきた。
何をやるにしても私に頼りっきり、そんな男のどこに魅力が感じられるというのか。
「うわー、ウサギさんったら手厳しいですねー。亀井君がかわいそー」
「そんなにカメがよければどうぞ」
でもなぜか、カメは女子に人気がある。それが私には全くもってさっぱりわからない。
「いやー、私には雷斗がいるからー」
「はいはい、のろけ話は聞きたくありません。さようなら」
「ウサギ、冷たい・・・・・・」

 

 

ある日の下校時間。陸上部の部活を終えた私は、手っ取り早く着替えて学校を出た。
家までは歩いて10分。ちなみに私の足では、だ。一般的な早さで歩けば倍近くはかかるだろう。
私は同級生たちと比べてかなり歩くのが早い。
というのも、移動時間なんてものは無駄な時間だと考えているから、削れば家で他の事に時間を充てられるからだ。
「あ」
学校と家の中間地点くらいのところで、私は見慣れた背中を発見した。
そしてその背中との距離は、別に私が歩みを早くしたわけではないのにみるみる縮まって行く。私は彼にほどなく追いつくと
「カメ、あんたこんなところで何してるの?」
カメの1歩前から話しかけた。カメはゆっくりと私の方を向くと
「あ、ウサギじゃん。今帰り~?」
「見ればわかるでしょう。それより私の質問に答えなさい」
「えっと、質問なんだったっけ~?」
あぁ、もう。カメと話しているとイライラする。だったら話しかけなきゃいいのだけど、幼馴染だから放ってはおけない。
「だから、ここで何してるの?」
「帰ってる途中だよ~」
「え? だってカメ、あんた部活やってないでしょう?」
カメは部活をやっていないから、とっくの前に学校を出ているはずだ。
いくら歩くのが遅いカメだからって、いくらなんでも家まで帰るのに何時間もかかるとは思えない。
「そうだけど~。でも田中さん家の」
「田中さんって誰よ」
「えっと、山田さん家の横に住んでる人」
「・・・山田さんって誰よ」
「えっと・・・・・・・」
「もういいわ。それで田中さんがどうしたって?」
話が進まないので、私は質問を元に戻した。
「あ、うん。田中さん家が庭で犬を飼っててね~、その犬」
「その犬と遊んでたの!? 今さっきまで!?」
「うん、そう~」
私はこめかみを押さえた。こいつは何で帰り道でのんきに油を売ってるのか。
「カメ、あんたね、ただでさえ人より宿題やるの遅いのに、何ゆっくり帰ってんの? 明日は宿題が多いんだから、急いで帰ってやりなさい!」
「そうだね~。そうする~」
カメはそう言いつつ、さっきまでと同じペースでのんびり歩く。
「もっと早く歩きなさい!」
「え~、でもこれが僕にとって普通の」
「つべこべ言わない!」
「・・・わかった~」

 

 

「あんた、ところで高校は決めたの?」
引き続き帰り道、私はカメを急かして歩かせるものの、私のいつもの歩くスピードよりはかなり遅い。
だったらほっておいて帰ればいいのだけど、そうしないのは何故だろう。
「高校~? ・・・あ~」
「なに、まだ決めてないの? いい? こういうのは早めに計画を立てて行動を開始したものが勝つのよ?」
予想通りの答えが返って来たので、私は幼馴染みとして忠告してやる。すると、カメが怪訝そうな顔をした。
「何よ、その顔は! なんか文句でもあるの?」
「ち、違うよ~。ただ」
「ただ、何よ!?」
こっちが善意で忠告してあげたのに、何か言いたげなカメに腹が立って、私はつい口調が荒くなる。
「いや、ウサギが昔言ってたことと、違うな~って」
「昔? 私が何て言ったのよ?」
「ゆっくりでもいいから、頑張ってれば最後に勝てるって言ってた」
私は自分の脳味噌をひっくり返してその言葉の記憶を探してみる。しかし、思い当たらない。
そもそも私が「ゆっくりでもいいから」なんて台詞を吐くなんて思えないのだけど。とりあえず訊いてみた方が手っ取り早い。
「そんなの記憶にないんだけど。いつの話よ?」
「えっと、幼稚園」
「幼稚園!?」
私は頭が痛くなってきた。
「あんたそれ何年前の話よ? そんな昔のこと忘れなさい」
「・・・・・・」
「返事は?」
わかった。そういう答えが返ってくるのだとばかり思っていたのだけど。
「・・・・・・いやだ」
「は?」
「いやだ。忘れたくない」
珍しくカメが私の言ったことに反論してきたので、私は怒鳴りつけようかと思ったけど、できなかった。
カメが、いつものんびりで気楽そうなカメが、その時は真剣な表情をしていたから。
「・・・勝手にしなさい。最後にどうなっても知らないから」
私はそう言い残して、いつもの歩くスピードに戻すことにした。
カメが視界の隅から消える。私は一人で家に帰った。

 

 

「ふぅ・・・・・・」
その日の夜。夕食後、学校の宿題を手早く終えて、私はお風呂に入っていた。
湯船につかりながらふと、今日一日のことを思い出してみる。
「カメ、なんであんなこと言ったんだろ」
思い浮かんだのは今日の帰り道、幼稚園の話を持ち出したカメに対して私が忘れろと言ったあの時。
昔から私の後ろばっかりついてきたあいつが、なぜか私にノーをつきつけた。
「なによ、カメのくせに」
私はあいつのためを思って言ってやったのに。でも、一体なぜなんだろう。
「ゆっくりでもいいから、頑張ってれば最後に勝てる、か」
カメ曰く、それはかつて私が言っていた言葉らしい。さっきは思い出せなかったけど、幼稚園というヒントを加えてもう一度記憶をたどってみる。

ゆっくりでもいいから

頑張ってれば

最後に勝てるわよ

「・・・・・・あ」
なんだか頭の中に引っかかるものがあった。確かに、ずっと前だけどそんなことを言ったような気がする。
私の目の前でしゃがんで泣いている、幼稚園の頃のカメの姿。
そんなカメを見ている、腰に両手を当てて胸を張っている私。
えっと、あれはなんの時だっけ?
「熱い」
しかし、それ以上私は考える事が出来なかった。湯船につかりすぎてのぼせてきたからだ。
「って、もう23分もお風呂にいるじゃない! もったいない、この時間があれば単語覚えられたのに!」
普段からお風呂も手早くすませる私なのに、今日はだいぶ時間をかけてしまった。
「もう! これも全部カメのせいよ!」
私はそこにいないカメに八つ当たりをして、少しくらくらする頭を押さえながらお風呂場を出た。

 

 

 

 

続く

 



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