【単発小説】ある日のコンビニバイト

【単発小説】ある日のコンビニバイト

 

鬼は外なの! モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今日は小説を載せるよー」

2009年に書いたから、もう10年も前に作ったお話なの!

 

 

 

 

 

ある日のコンビニバイト

 

 

 

 

 

 

「あざしたあ」
自動ドアから出て行った客の背中に向かって俺は言った。
コンビニのアルバイトを始めて4ヶ月、一通りの仕事はできるようになった。
最初こそ全てに全力で働いていた俺だけど、徐々に手の抜いていいところもわかってきた。
特に俺みたいな深夜のシフトだと店長もいないし、店員も少ない。
それにその店員も、俺と同じでいかに楽をするかということを考えていたりするから非常に楽だ。
「いや~、それにしても暇ね」
店内を巡回、もとい暇つぶしにぶらぶらしていた先輩が俺に言った。
「そうっすね」
先輩は俺より半年ほど前に入ったらしくて、アルバイトの入れ替わりが多いこのコンビニでは長く続けてる部類に入る。
俺と同じシフトに入ることが多くて、今ではしょうもない話で盛り上がる仲だ。
「明るいし暖房効いてるのに全然お客来ないし、24時間営業なんてやめちゃえばいいのにね~」
「でもそしたら俺ら働き場所失っちゃいますよ」
「あ、それもそっか~、ははは」
あっけらかんとした表情で先輩は笑った。
・・・こんなに美人なのに彼氏がいないなんてなぁ。やっぱりこのざっくりしすぎた性格のせいなんだろうか。
顔のパーツはすごく整ってるのに、すごいもったいない。
“女性らしさ”という面では確かに欠けるけど、十分魅力的な人だと思う。
「・・・あ、今井君、今私のこと女性らしくないとか考えてるでしょ」
「そ、そんなことないっす!」
そして、先輩は妙に鋭い。人が考えていることを、すぐ看破してしまう。
俺も人間観察はけっこう好きだけど、先輩の観察眼はもはや超能力の域だ。

例えば、先月はこんなことがあった。
かなり若い3人組が騒々しく店内に入ってきた時のこと。
「あちゃ~・・・今井君、後始末はよろしく」
先輩はいきなりそんなことを言うと、お店の裏からモップとバケツを持ってきた。
「え? 一体なんすか?」
俺がそう訊いた次の瞬間―――
「お、おい佐藤! 大丈夫か!?」
「う・・・・・・お、おぇ~・・・」
大学生の一人は店内で嘔吐した。
他の2人が頭を下げて帰り、俺がいやいや掃除をした後、
「先輩、あぁなることわかってたんすか?」
「うん」
見事に掃除の間だけ姿をくらませていた先輩は何事もなかったかのように答える。
「なんでっすか?」
「え? だってそんなの簡単じゃん。一人だけ口数少なかったし、顔が引きつってたもん」
「・・・はぁ。それだけで?」
「後はアルコール臭かな。彼ら、相当飲んでたはずだもん。しかも見た目的にかなり若そうだったから、お酒の飲み方もまだ知らなそうだしね~」

――とまぁ、こんなことが前にあった。
他にもいろいろあるけど・・・・・・それはまぁ別の機会に。
「今井くぅ~ん? 私に嘘は付けないぞ~?」
目の前の先輩は急に甘い声を出した。しかしその目には有無を言わせぬ圧迫感が含まれている。
「・・・すいませんでした」
「正直でよろしい」
腰に手をあてる先輩。
「・・・怒らないんすか?」
「え~、事実を言われて怒るわけないじゃん」
そしてあっはっは! と大声で笑う。
「え、先輩はそこ否定しないんすか?」
「だって女性らしさなんて1%たりとも発したことないもん。私、男性に媚びるの嫌いだから」
先輩は自由人だ。自分らしさを変えることなく、常にまっすぐに生きている。
「先輩、かっこいいっす!」
「あっはっは! 褒めても何も出ないぞ~」
ぴんぽーん。
その時、自動ドアが開いたことを示す電子音がして、客が入ってきた。
長身でガリガリ、根暗な雰囲気の眼鏡の男。
客の前で雑談しているわけにもいかないので、レジの裏で俺と先輩は無言になる。
新たな客はレジを一目見ると窓際の通路へ行き、雑誌コーナーの前で足の間に手提げかばんを置く。そしておもむろに漫画の立ち読みを始めた。
・・・・・・あぁいう客は長居するパターンだ。
ぴんぽーん。
また客が入ってきた。この時間帯に続けてくるとは珍しい。俺は入口の方を見る。
「・・・う」
俺は思わず唸った。新たな客は野球帽にサングラス、そしてマスク。
超不審者だ。
そいつはまず俺と先輩を、そして店内を一望して他に客が一人いるのを見渡した後、店内をぶらつく。
うわぁ・・・・・・。これ、もしかしてヤバいパターンじゃねぇか?
準・コンビニ強盗は何も買う様子はない。そしてそのままトイレに入った。
「・・・先輩」
俺は横の先輩に小声で囁く」
「ん、どうした?」
「あの客、気をつけた方がいいっすね」
「・・・そうだね」
しばらくして、トイレから奴が出てきた。そして立ち読み客を一度見る。
周囲を警戒しているのだろう。目撃者は少ないほど、強盗はやりやすい。
その時、奴はレジにまっすぐと歩いてきた。
立ち読み客がなかなか帰らなそうだと思ったから、もう行動を起こすつもりなんだろうか。
奴は俺の前に立った。サングラスで目は見えないが、額にしわが寄って険しい表情をしている。
「・・・おい」
奴は低くドスの利いた声で言った。俺は緊張しながら答える。
「はい、なんでしょうか?」
すると奴は机をばん! っと叩いて、そして

「トイレのちり紙が切れてるじゃねぇか!」

「・・・へ?」
俺はつい間抜けな声を出した。横から先輩が適切な対応をする。
「申し訳ありません。すぐに補充して参ります」
レジを離れて、先輩はトイレに言った。
「おぅ、すまねぇな姉ちゃん」
準・コンビニ強盗改め、ただの柄の悪いおっちゃんはその後に続いた。先輩がトイレに一度入る。
ぴんぽーん。
電子音がしたので反射的にドアを見ると、いつの間にか立ち読みを終えた客が店を出て行った。
しばらくして、先輩がトイレから出てきた。
「大変お待たせしました」
「次から気をつけろよ」
柄の悪いおっちゃんは、意外に優しい人物だった。彼はトイレに入る。
先輩は雑誌コーナーの列を通り、漫画のコーナーを見た。
そしてやや駆け足で、俺のもとに戻る。少し険しい顔。
「先輩、どうかしましたか?」
「さっきの立ち読みしてた客、何か買っていった?」
俺の質問に答えず、先輩は訊いてきた。
「いえ、何も」
俺がそう答えた瞬間
「今井君」
先輩は間髪いれず俺の名前を呼んだ。
「は、はい?」
「さっきの客、捕まえてきて」
「・・・へ?」
先輩が俺の体を無理やり引っ張った。
「あいつ、万引きよ!」
「えぇ!? マジっすか?」
「早くして!」
俺はわけもわからないまま先輩に突き動かされた。
真偽のほどはわからないけれど、俺は先輩を信じて自動ドアを出て走った。
目の前の横断歩道の前で、まだあの客は信号待ちしていた。コンビニから出てきた俺を見てぎょっとしている。
「・・・あの、すいません」
俺は声をかけた。けれど、万引きをしたのを見たわけじゃないから、あまり強気には言えなかった。
「・・・は、はい? なんですか?」
準・万引きが答える。
「すいませんが、いったんお店に戻ってもらえないですか?」
“万引き”という言葉を使う勇気のない俺は、とりあえずそう言った。次の瞬間
「・・・・・・!」
横断歩道の信号が青になって、準・万引きは逃げ出した。
「あ、こら! 待て!」
俺は反射的に追いかける。準・万引きは逃げる割にはそんなに早くない。
俺は横断歩道を渡り切った直後に、そいつに追いついた。
「待てって・・・言ってるだろ!」
俺はそいつの左肩をつかんで思いっきり引っ張る。
後方にバランスを崩したそいつの前に回り込むと反対側の肩もつかんで、そのまま投げ技をかけた。
「うぎゃ!」
背中からアスファルトに打ちつけられ、準・万引きは情けない声を出す。
「・・・なんで逃げんだよ」
俺ができるだけ凄味を利かせてそう言うと
「すすすすいません! ごめんなさい! もう二度と万引きなんかしないですから!」
奴は勝手に自白した。そして手提げかばんの中から漫画を取り出す。
俺は受け取ってそれを見た。女性が肌を露出させた、18禁のやつ。
「・・・チッ、こんなもの盗りやがって」
「ごめんなさい、警察や両親には言わないで・・・」
「・・・もう二度としねぇか?」
「しません! 絶対しません! だからどうか・・・」
必死に懇願する”純”・万引きに俺は
「わかった。もうこんなことすんなよ」
そいつを解放した。
「あ、ありがとうございます!」
純・万引きは俺に向かって何度も頭を下げると早足にその場を去って行った。

「ただいまっす」
俺は職場に戻って、先輩にあいさつした。
「今井君お疲れ~」
「・・・あれ? なんであいつがここにいないとか訊かないんすか?」
「え~、だってもう本を取り戻してきたじゃん」
先輩は俺の持ってる18禁の漫画を指差す。
「でも犯人いないっすよ」
「今井君なら解放してあげると思ってたから」
「お、俺って先輩にはそんな善人に見えますか?」
「ううん、めんどくさいことは嫌いだから逃がしたんだろうって」
・・・・・・図星だ。
俺は一度咳払いをして、その後先輩に訊いた。
「でも先輩、なんであの客が万引きしたってわかったんすか?」
すると先輩は怪訝そうな顔をした。
「え? 今井君もさっき『あの客、気をつけた方がいいっすね』って言ってたからわかってたと思ったのに」
「それはあのマスクしてた超不審者に対してっすよ」
「あの人は全然怪しくないよ~」
「なんでっすか! もろ不審者じゃないですか!」
「どこが?」
「だって野球帽にマスクとか、見た目めっちゃ怪しかったし!」
「野球帽は、ポケットから出てたケータイのストラップが同じ球団のだったから、純粋なファンなんだよ。今はインフルエンザが発生してるから、マスクしててもおかしくないし」
論理的に説明する先輩。それでも納得できない俺は、第二の矢を放つ。
「だけど店内でもサングラスしてて、店に入ったらぐるっと周囲を見渡すなんて怪しいじゃないっすか」
「あのサングラス、けっこう分厚かったから強めに度が入ってたと思うよ。それに目が悪い人は普段から周りに注意を払う人が多いから」
全ての反論を潰されて、俺は白旗を上げた。そして、改めてもう一度なんで万引きがわかったかを訊く。
「それで、なんで万引きはわかったんすか?」
先輩は、そうだねー、と一度呟いて
「まずは、立ち位置。漫画を立ち読みしてるのに、雑誌コーナーの前にいたじゃんか~」
「それがどうしたんですか?」
「あの人、ちらちらと目線を18禁コーナーの雑誌に送ってたじゃんか~」
まるでそれが当たり前かのように先輩は言った。
「そ、そんなのわからないっすよ」
「そう? 窓ガラスに反射してたからわかりやすかったよ。漫画を持つ位置も明らかに高くて不自然だったしね」
「・・・はぁ」
俺はまったく気付かなかった。
「つまりあのお客さんは18禁が気になるけど、手に取る勇気がないってわけ。次に、あの人の持ち物」
「持ち物って・・・あの手提げっすか?」
「そう。足の間に置いたときに、必要以上に丁寧に置いたんだよ。すぐに物を入れられる位置にね」
確かに入れやすいだろうけど・・・・・・。
「そして18禁に興味があるけど勇気のない人が、トイレットペーパーの補充で店員が1人になった店内。さらに、その一人は他の客の対応中。となると」
「万引き、ってことっすね・・・」
俺は先輩の推理力に舌を巻いた。
「でもよくすぐに気付きましたね、トイレにいたからその場を目撃したわけでもないのに」
「あの手提げだと雑誌は入れにくいだろうから、あらかじめ18禁の漫画に絞って数を数えといたんだよ」
そうか、だからトイレから戻ってきた後すぐに棚をチェックしてたのか。
「でも今井君が捕まえてくれてよかったよ」
「え? 俺犯人連れてきてないっすよ?」
理由のわからない俺が首を傾げると
「だって万引きされて本が足りないと、在庫管理の時の書類がめんどくさくなるし、それに――」
「それに?」
俺が先を促すと、先輩は意味ありげな目をして、そして
「犯人連れてきて警察とか呼んじゃったら、もっとめんどくさいしね~」
「なんすかそれ! 先輩どんなけめんどくさがりなんすか!」
「あっはっは! 今井君に言われたくないな~」

コンビニは深夜のシフトは店長もいないし、店員も少ない。
それにその店員も、俺と同じでいかに楽をするかということを考えていたりするから非常に楽だ。
これだから深夜シフトはやめられねぇな。

 

 

 

 



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