【単発小説】ある日のラーメン屋台

【単発小説】ある日のラーメン屋台

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。土曜日は小説の日~」

10月中旬のぴったりのお話なの!

 

 




 

 

 

ある日のラーメン屋台

 

 

 

 

 

「大将!」
俺は行きつけのラーメン屋の屋台の暖簾をくぐると、カウンターの奥に立つ人物へ声をかけた。
10月の中旬。衣替えも終わったけどまだ少し暑くて、けれどたまに突然寒い日が訪れる、そんな季節。
今日はまさにその”たまに突然寒い日”だった。
「おう、翼君じゃないか。いらっしゃい! いつものでいいかい?」
この屋台の主、青年と呼ぶには歳を取っているけど中年と呼ぶにはまだ早い男――大将は俺の姿を認めると、麺を手に取った。
「いつものでいいんだけど、今日は二つちょうだい」
「二つ?」
大将が不思議そうに聞き返してきた。俺はわけを説明する。
「あぁ、今日は連れがいるんだ。葵、そんなとこに立ってないで入れよ」
「はへ? あ、うん。あの、えっと、いらっしゃいませー」
「・・・・・・いや葵、それ大将の台詞だから」
俺の連れ、葵はおかしなことを言いながら暖簾をくぐった。
落ち着かない感じで、きょろきょろと360度見回している。
「はっはっは、面白い子だね! やあ、いらっしゃい! ほら、そこに座りな」
大将は椅子を指し示した。座るところが赤い円形で背もたれのない、4本足の簡単な椅子。
「あ、はい。失礼しまります」
呂律が回っていない葵が腰を下ろした。俺は可笑しくなって笑いながら葵の隣の席に座る。
大将は麺を2玉鍋に入れると
「ひょっとしてこの子が、翼君が前に言っていたコレかい?」
立てた小指を見せて俺に訊いた。いや、大将。このご時勢にその合図、古いって。
とはいえそれが意味するものは事実なので俺は肯定した。
「紹介するよ。大将、こいつが俺の彼女の日向 葵。葵、この人が俺の行きつけのラーメン屋の大将だ」
「よろしくね、葵ちゃん。以後ご贔屓に!」
「は、はい。よろしくつかまつります」
未だに緊張したままの葵。相変わらず人見知りなやつだ。
今でこそ俺とは自然に話せるようになったけど、出会った最初の頃は会話が全然成立しなかったっけ。
こいつ――日向 葵は俺の彼女だ。2ヶ月前にあった夏祭りの夜、俺たちは付き合い始めた。
俺の過去、女癖が悪い人間だったということを話した直後に告白したから絶対断られると思ってたんだけど、なんとOKをもらってしまった。
それについては『キミと夏の終わり』の幕間・壱から参に載ってるらしい・・・・・・って作者! キャラに宣伝させるな!
「翼君、葵ちゃんは過去の翼君を知ったのに付き合ったんだったよね?」
寸胴の中のスープをお玉で混ぜながら、大将が俺に聞く。
大将には俺と葵が付き合うまでの一部始終を少し前に話したことがある。
「あぁ、そうだよ」
「それでよくOKしたねえ、葵ちゃん。ひどい人つかまされたかもしれないよ?」
「言うなぁ、大将」
俺はぼやいたが、でも確かにその通りだ。よく俺なんかと付き合うことを承諾してくれたもんだ。今でもそう思う。
「え、あ、でも翼は、その・・・・・・す、すごくいい人です!」
嬉しいことを言ってくれる葵。でも「翼は」と「すごくいい人」の間が開いているせいで、フォローっぽく聞こえてしまうのが少し悲しい。
「でもまあ翼君から聞いた話じゃ、翼君ももう変わったようだしな。・・・・・・よっと」
大将は鍋から麺を掬い上げると、湯切りをする。慣れた手つき、いつ見ても妙技だ。
俺はこの屋台に結構前から通っている。初めて来たのは中学に入った直後だから、もう3年半になるのか。
中学校からの帰り道にこの屋台はあったから、存在そのものは入学した日から知っていた。
けれど屋台から5分も歩けば家に着くし、うちはお世辞にも裕福な家計とは言えないからあまり買い食いする余裕もない。
でもある日、とあるきっかけからこの屋台のラーメンを食べることがあって、この味の虜になってしまった。
だから俺はたとえお小遣いが少なくても、この屋台が家の近くにあっても、高校生になった今もよく食べに来ている。
「しかし翼君がうちに誰かを連れてくるの、初めてだよなあ」
大将は麺の入った丼にスープを入れると、話しながら器用に具を盛り付けていく。
そう、大将の言う通り、3年以上ここに通っているのに誰かと一緒に来るのは初めてだ。
「はい、ラーメン2丁お待ちどう!」
大将がもわっと白い湯気の立つ丼を俺たちの前に並べた。
豚骨スープのにおいが立ち込める。
「わー! おいしそー!」
葵が幸せそうな声を出した。横顔を見ると、目が爛々と輝いている。葵はいつも自分の感情に正直だ。
俺は机の上にある容器から割り箸を2膳取り出すと、一つを葵に渡す。
葵はありがと、と言ってそれを受け取ると、勢いよくそれを割り――
「あー、失敗しちゃったー・・・・・・」
割り損ねた。割り箸は途中の部分で割れてしまったため、それぞれの長さがバラバラだ。
「まったく、何やってんだよ」
俺は苦笑いしながら、自分の割り箸をきれいに割ると葵のそれと交換した。葵は驚いて
「はへ? はわわ、い、いいよ翼、ボクこっち使うから!」
そう言って俺が取り替えた割り箸を取り戻そうとする。だけど
「気にすんなって。それより早く食べようぜ」
俺は葵の手を制した。葵は申し訳なさそうな顔をして謝る。
「翼、ごめんね・・・・・・」
「違うだろ。こういう時は『ありがとう』って言うんだぜ」
「あ、そっか。ありがと、翼!」
葵は一転にこやかな顔をしてそう言った。うん、やっぱり葵は笑顔の方が何十倍も可愛い。
「おいおいお二人さん、ラーメンよりアツアツなとこ悪いが、早く食べないとのびちゃうよ」
「ラーメンは熱くても、大将のコメントは寒いよ」
大将がにやにや笑いながら口をはさんで、俺はささやかな反撃をする。そして葵は
「はわわ、そうだった、いただきまーす!」
慌ててラーメンをすすって、そして
「あち!」
葵は悲鳴を上げた。
「やると思った」
俺は感想を述べた。
そして逆さまに置いてあるプラスチックのコップを一つ手に取ると、その横にあるピッチャーで水を注ぎ葵に渡す。
葵はコップの半分ほどの水を一気にあおって、そして
「翼、ごめ・・・じゃなかった、ありがと!」
さっきと同じように申し訳そうな顔をしながら、でもさっきとは違う言葉を言った。
「おぅ」
俺は相槌を打つと、改めて自分のラーメンを眺めた。
白濁色の豚骨スープ。浮いた油が、屋台の裸電球に反射して光っている。
そしてその上に乗るネギやメンマ、煮卵にチャーシュー・・・・・・ってあれ?
「大将、なんかチャーシューいつもより多くない?」
俺は違和感を感じた。いつも頼むラーメンには、こんなにチャーシューはなかったはずだ。
「ああ、サービスさ。翼君にはいつもお世話になっているし、新しいお客さんも連れてきてくれたからね」
そう言って大将は葵の方を見て、ウインクをした。・・・・・・だからこのご時勢にそれは古いって。しかもうまくできてないから両目つぶっちゃってるし。
「あ、あの、ありがとうございます!」
葵がぺこりと頭を下げた。下げ過ぎて髪の毛がスープに入りそうだったが、葵はショートヘアなのでぎりぎり大丈夫だった。
「礼儀正しい子だねえ。よし、特別大サービス! 煮卵もう一個つけちゃおう!」
大将は大きな両手をぽん、と打ち合わせると、具材が置いてある場所から煮卵をつかんで葵の丼に入れる。
「はわわ、あ、あ・・・」
「あれ? 煮卵は嫌いだったかな?」
「ちちち違います! 嫌いじゃな、というかス、スキです! あの、ありがとうございます!」
両手を体の前に出してばたばたさせる葵。いや、いくらなんでも慌て過ぎだろ。大将はそれをにこやかに見ている。・・・・・・もしかして。
「・・・・・・大将、葵が慌てるの見て楽しんでない?」
「あ、バレちゃった?」
・・・やっぱり。俺は小さくため息をつく。
「あんまりいじめないでくれよな。それより俺には煮卵はくれないの?」
「え? なんで翼君にまであげないといけないんだい?」
「うわ、ひどい。差別だ。もうこんな屋台二度と来ねぇ」
「ははは、嘘だよ。仕方ないなあ」
大将は俺より一回り以上年上だけど、こんな冗談が言える仲だ。
だから俺は今日、葵をここに連れてきた。
前に葵は、自分の人見知りな性格を変えたいと言っていた。
それに協力してやりたい俺が思い付いたのは至って単純、慣れってやつだ。
ただ、家族に会わせるのもハードル高いだろうし、かといって俺の中学時代のダチと言ったら・・・・・・昔の俺のようなやつばっかりだし。
そんな時に思い付いたのが、俺の行きつけであるラーメン屋の屋台の大将だった。
「ほらよ!」
大将が俺のどんぶりにも煮卵を入れる。
「サンキュ!」
俺が笑顔で礼を言うと、大将も笑い返した。
大将はすごく気さくな人だ。だから俺は母親に言えない悩みを、ここでこぼしたこともあった。
葵と付き合うようになった経緯なども全て話したぐらいだ。
父親のいない俺にとって、親父のような存在・・・・・・いや、さすがにそこまで老けてないから少し年の離れた兄貴か?
まぁとにかく、大将は俺が最も信頼している人物の一人だ。そんな大将の人柄こそ、俺がここの常連になった一番の理由だろう。
この屋台は俺にとって唯一心が安らぐオアシスであり、だからこそ今まで何人たりともここへ誘ったことがなかったのだった。
「・・・っていい加減俺もそろそろ食べ始めないとな」
俺は脇にある胡椒の缶を取って、ラーメンの上で何度か振る。
そのまま葵のラーメンの上に缶を持っていって、ラーメンをすすっている葵へ視線を送った。
葵がそれに気付いてこくんと頷いたので、俺は葵のラーメンの上に胡椒を振りかけた。
口にラーメンが入っているので喋れない葵は、微笑むことで俺に感謝の意を表す。
「んじゃ改めて、いただきます!」
胡椒の缶を元の位置に戻した俺一度両手を合わせて、そして箸で麺をつかんだ。腰のある縮れ麺。
適量の麺を何度か空中で上下させて少し冷ました後、ずるずる! っという音と共に一気にすする。
スープが少し飛び散るけど、豪快に食べるのがラーメンの正しい食べ方だと俺は思う。蓮華でスープを一口流し込んで、そして
「おいしー!」
味の感想を隣にいる葵が言った。葵の口にあったようでよかった。
「だろ? さあ、どんどん食べな!」
「大将さん、これホントに美味しいです!」
輝く笑顔で言う葵。そういえば葵が大将相手に滑らかに話すのはこれが最初じゃないだろうか。
どうやら美味しいものには、性格を変える力もあるらしい。
「いや、やっぱり大将のラーメンはいつ来ても旨いや」
俺も負けじとラーメンを絶賛した。何度食べても旨いものは旨い。
「やっぱりこの豚骨スープのダシが深みを出してるからかな、うん」
なんとなくそれっぽいコメントをしてみた。え? なんとなくだよ、なんとなく。別に葵の前だからとかじゃないぞ。
大将は俺のラーメン講評を聞くと、急ににやっとした。
「な、なんだよ大将、いきなりにやけて」
俺はてっきり自分の考えを見透かされたかと思って慌てた。しかし
「思い出したんだよ。前に翼君の豚骨ラーメンが塩味になったことを」
「へ? そんなことあったっけ?」
大将が意味不明な発言をしたので、俺は首をひねる。豚骨ラーメンが塩味になった? なんだそりゃ?
「あれだよ。翼君が初めてここに来た時、泣きながら―――」
「うわああああ!! 大将! ストップ! その話はダメ!」
俺は思わず立ち上がって大声を出した。でも葵は冒頭の部分が聞こえていたみたいだ。
「はへ? 翼が泣いてた? 大将さん、それどんな話なんですかー?」
興味津々といった顔つきで、葵が大将に聞く。人見知りな性格はどこへやらだ。
「いや、マジでやめてくれ大将。それは禁断の過去なんだから・・・・・・」
「でも翼君、葵ちゃんには過去を知ってもらいたいって前に言ってたじゃないか」
「それは、その、言ったけど、そういうことじゃなくて・・・・・・」
口ごもってしまう俺。あぁ、かっこわりぃ。
「翼、ボク翼のこと、全部知りたいな」
葵が俺を見た。まっすぐな瞳。そして思い出す。
そうだ、俺は夏祭りの夜、葵に隠し事はしないって誓ったじゃないか。
「・・・・・・わかったよ。でも俺は話したくないから・・・・・・大将」
俺は大将の方を見やる。大将は大きく頷いた。
「よし、任せときな! どこか間違ってるところがあったら言ってくれ。じゃあ始めるな。あれは今から3年ちょっと前―――」
俺は自分のラーメンに視線を落とした。音を立てず慎ましやかにラーメンをすする。
口に運んだ脂の乗ったチャーシューが、舌の上で溶けた。

 

 

 

 



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何のメリハリもない日常のお話だったなの。

こっけ~:「『阪急電車』とか『詩羽のいる街』とか、日常ハッピー系が大好きなんです」

 

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