「世界は、思い通りにいかないから面白いんだと思います」

「世界は、思い通りにいかないから面白いんだと思います」

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今回は小説だよー」

新作スタートなの!

 

 

 

 

 

屋上

 

 

 

 

「世界は、思い通りにいかないから面白いんだと思います」

 

 

 

放課後の屋上、いつものように昼寝をしていた俺に向かって女はそう言った。
いや、正確に言えば女だと思われる声がした、だろう。
なぜなら俺は目をつぶって無視を決め込んでいるから、そいつの姿を確認したことがない。
名前は・・・・・・前に名乗っていた気がするけど、興味がないから忘れた。
あいつは先週のある日屋上に現れると、それから毎日来るようになった。
別に屋上は自分の私有地だとは思わないのであいつを邪険に追い払うことはしなかったが、無駄な慣れ合いを嫌う俺は
「どうしていつも屋上で寝てるんですか?」
「家での睡眠時間、足りてます?」
「っていうか私の言ってること、聞こえてます?」
何度も話しかけてくるあいつに対して無反応を貫いていた。
無視され続けたら普通の人間なら諦めそうなものだが、なぜか毎日あいつは屋上へ来て、毎日俺に話しかける。
そして何日目かの今日、あいつが放った言葉が最初の
「世界は、思い通りにいかないから面白いんだと思います」
だ。一体どういうつもりなのかわからないが。かといって別に知りたいとも思わないが。

「なんでもかんでも自分の望む通りに動く世界なんて、つまらなくないですか?」

だから理由を知りたいなんて思っていないというのに。
俺は表情を何一つ変えず、いつものように目を開くことすらしないまま聞き流す。
けれどあいつは独演を続けた。
「人ってたくさんのものを欲しがるじゃないですか」
俺の耳に上履きの足音が聞こえる。どうやら歩きながら話しているみたいだ。
「愛、お金、名声、地位、物、寿命、宝石、子孫、経験―――。言い出したらきりがないですよね」
よくも一気に言えるなと思うくらい、一息であいつは欲望の対象を羅列した。
「人はそれらを手に入れようとします。時にはお金で。時には努力で。時には犯罪で」
さらっと物騒なことをいう奴だ。
「そして上手くいけば、人は欲望の対象をを手に入れることができます。でも」
あいつは一旦言葉を止めた。それと同時に足音も俺の頭の近くで止まる。
「もし欲望の対象を簡単に手に入れることができたとしたら、それは果たして幸福なのでしょうか?」
・・・・・・今日のあいつの話はいつもより長い。これじゃ昼寝もできやしないじゃねぇか。
俺は表面上は無関心を装ったまま、耳だけあいつの言葉に傾ける。
「簡単に莫大な財産を手に入れられたら、簡単に出世することができたら、簡単に人の愛を手に入れることができたら―――」
そこであいつは再び言葉を止めた。俺は話の続きを待ったが、いくら経っても何も聞こえない。
・・・・・・もしかしたら屋上からいなくなったんだろうか?
静かになったのでようやく昼寝をすることができそうだが、中途半端なところで演説が終わったので夢見が悪い。
俺はずっと閉じていた目を開いた。すると
「やっと、こっちを見てくれましたね」
見上げた空に、あいつがいた。ちっ、俺が動くまであいつずっと頭上で見下ろしていたのか。
初めてみた、あいつの姿。制服のリボンの色を見ると、1年生だ。2つ下の学年に、俺の知り合いはいない。
一度目が合ったのに逸らしたらなんだか負けた気がするので、俺はそのままあいつに尋ねた。
「楽して金稼いだり、偉くなったり、人気者になれるなんて夢みたいな話じゃねぇか。それの何がいけねぇんだ?」
俺の言葉に、あいつはにっこりと微笑んだ。それなりに可愛い。
「案外、ちゃんと話を聞いてくれていたんですね」
訂正。性格は全然可愛くない。
「楽して手に入れたら、価値が急激に失われると思いませんか?」
「バイトして稼いだ1万円だろうが、そこらで拾った1万円だろうが、どっちも同じ1万円だろ」
「そういうことではなくてですね―――」
あいつは困ったように眉をひそめると、まるで赤子に語りかけるような口調で言う。俺の方が2つ年上だというのに。
「例えば恋人にプレゼントを贈る時、バイトで稼いだお金を使うのと、拾ったお金を使うのでは価値は同じでしょうか?」
なんとなくあいつの言いたいことが見えてきた気がする。
「他の例をあげましょう。ここに魔法の惚れ薬があるとして、それを使って誰かに好きになってもらうことに意味はあるのでしょうか?」
「・・・・・・それは、虚しいな」
「ですね」
あいつはまたふんわりとほほ笑む。
「私、思うんです。本当に大切なのは欲望の対象を手に入れることではなく、そこに至るまでの過程なんじゃないかと」
「・・・・・・なるほどな」
そして俺は再び目を閉じた。話は解決したことだし、これ以上あいつと関わる理由もないだろう。おやすみ。
俺が目を閉じたのに気付いたのだろう、あいつは少しだけ声を張り上げる。
「つまり、私が何を言いたかったというとですね―――」
なんだろう、先程の言葉が結論ではなかったのだろうか。俺が疑問に思った直後、あいつは言った。

「例え先輩の気持ちが簡単に思い通りにならなくても、私は頑張りますから」

軽い足音がだんだん小さくなっていく。離れたところで屋上の重い扉がバタンと閉まる音がした。
ようやく訪れた静寂。しかし
「・・・・・・どういうことだよ、全く」
これじゃ昼寝もできやしないじゃねぇか。
俺は諦めてまぶたを開け、空に浮く雲を見つめた。

 

 

 

 

続く

 

 



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