【中篇小説】メリークライシス! -4. Why haven’t I done?-

【中篇小説】メリークライシス! -4. Why haven’t I done?-

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今日でこの小説は完結!」

もうすぐ冬休みだから、そしたら通常更新もできるようになると思うなの!

 

※ 前回までの話はこちら。

 




 

 

 

メリークライシス!

 

 

 

 

メリークライシス!
-4. Why haven’t I done?-

 

 

 

 

「あのー・・・・・・」
「翼ー!!」
交番に入るやいなや、俺は猛烈な勢いでタックルされた。
「うわ!」
俺はよろめくがなんとか踏みとどまる。そして
「ごめんね翼! すっごく遅れちゃったよね! 寒かったでしょ? ホントにごめんね!」
ものすごい近距離から、マシンガンのようにノンストップで言葉が飛んでくる。
「ちょ、ストップ! いったん、落ち着け。な?」
俺は制止をかけるが、葵は止まらない。
「でも、すっごく遅刻しちゃったし、なんて言えばいいか、ってごめんなさいに決まってるよね、でも」
「わかった。わかったから落ち着いてくれ」
俺は葵の両肩に手を置いて、葵をなんとか宥める。
「俺は葵が無事ならそれでいいから」
「で、でも・・・・・・」
「とりあえず、続きは歩きながらにしようぜ?」
葵の頭越しに見える警官が面白そうに俺たちを見ていたので、逃げたくなった俺は葵の手を取る。
「えっと、いろいろとご迷惑おかけしました!」
「ありがとうございましたー!」
「いえいえ、お気をつけて」
俺たちは交番から出た。すぐに葵の口から
「翼、ホントにごめんね! 今何時? ・・・はわわ、もうこんな時間! ごめんね、翼!」
また言葉の嵐が生まれる。俺は葵の方を向くと
「いいから、俺は全然怒ってないからさ」
実際そうだった。葵が無事だったと言うだけで、俺は十分だ。
「で、でも・・・・・・。この埋め合わせはなんでもするから、だから命だけはお助けを・・・・・・・」
「ちょっと待て。なんで俺が命を取らなきゃいけねぇんだよ」
混乱のあまりわけのわからないことを言い出す葵。
「はわわ、そうだった。間違えた・・・・・・」
「どうやったら間違えられんだよ」
俺は苦笑した。それと同時に俺の頭に「なんでもするから」という言葉が思い出される。

一瞬。

一瞬だけ、俺の頭の中にいろいろな光景が思い浮かんだ。欲望、欲求。
だけどそれらをすぐに消し去った。そして猛烈に自己嫌悪に陥る。弱みに付け込むなんて、最低じゃないか。
「・・・・・・結局俺は、昔の俺と変わってないのかもな」
「はへ?」
つい思った事が言葉に出てしまって、葵が訊き返す。
「あ、いや、なんでもない」
「そう? でも、えっと、上手く言えないけど・・・・・・」
葵は一度言葉を切ると、何やらいろいろと考え始めた。ほどなくして
「あのね、昔の翼のことは知らないけど、ボクは今の翼が大スキだよ」
「・・・・・・」
時々思う。葵はなんでこんな台詞をさらっと言うことができるのだろうか。
目の前でにこにこしている葵を見て、俺はたまらなく愛おしさを感じた。
「えっと、じゃあその、とりあえず飯でも食いに行くか」
葵の顔を直視できない。俺は顔をそむけると早足で歩き出した。
こんなに寒い日なのに、顔だけ異常に熱いじゃねぇか。くそっ。

 

 

 

イタリアンレストランで夕食を取り、そして先程見ることができなかったツリー前に二人で行った。
この巨大なクリスマスツリー以外にも、そこら中に電飾をまとった木々が並んでいる。
完全に日も暮れたのでイルミネーションが一層映えて、とても美しい。
「すっごくキレイだねー!」
「おぅ」
イルミネーションの明かりを受けた葵の笑顔は、イルミネーションよりも輝いていてとても眩しかった。
・・・・・・おい、そこ。クサイって言うな。
夜なのに明るい通りを、二人でゆっくりと歩く。
俺が葵の方を見ると、葵も俺の方を向いてにこっと笑う。その度に俺は抱きしめたくなる衝動に駆られる。
さすがにこんな公衆の面前ではしないけどな。あそこには人目もはばからずにキスしているカップルがいるけど。
「・・・・・・あ」
そのカップルの女性に俺は見覚えがあった。
「どーしたの?」
「いや」
俺はそいつから逃げようと思ったが、目が合ってしまった。
すると俺に気付いたその女は彼氏の手を引いて、一直線に俺たちの方へ歩いてきた。
「久しぶりね」
そして声をかけられる。刺々しい声。
「・・・・・・なんだよ」
葵が俺の方を向いた。
「翼、知ってる人ー?」
「・・・・・・まぁな」
その女は中学の時の同級生。そして
「まぁな、だなんてそっけないわね。はじめまして、翼の新しい彼女さん。私は優香、翼の元カノよ。何人前になるのかしら、ねぇ?」
「・・・・・・」
“元カノ”の部分を強調して、優香は俺の方を向いて言った。笑顔を浮かべてはいるが、目は全く笑っていない。俺は目を逸らした。
「元カノ・・・・・・」
隣で葵が呟いていた。優香が今度は葵に向かって言う。
「あら、可愛い彼女さん。知らなかった? この人はね、たくさんの女の人と付き合ってきたのよ?」
「優香、やめろよ・・・・・・」
優香の彼氏が優香を止めようとするが、構わず優香は続ける。
「悪いことは言わないわ、新しい彼女さん。早く別れた方がいいわよ。この人は浮気も二股も平気でするんだから。ねぇ?」
「・・・・・・俺は、変わったんだ」
「変わった? 何が? 結局こうやってまた可愛い女の子に手を出してるわけでしょ? 昔と同じじゃない」
違う。
そう言いたかった。しかし俺は、さっき葵に「なんでもするから」と言われた時の自分を思い出した。
あの時俺の心の中に欲望が渦巻いた。それは昔の俺と何ら変わりない。結局俺は、変われていないのかもしれない。
「ほら、黙っちゃって。あなたにとって彼女なんて、自分の欲を満たすための道具にすぎないんでしょ?」
「違う!」
否定の言葉。それは俺の口から出たものではなかった。
「違うよ! 翼はそんな人じゃない! 翼は優しくて、素敵な人だもん!」
俺は初めて見る光景に驚いた。
葵が、怒っていた。
あの温厚な葵が、いつも笑顔を浮かべている葵が、怒っていた。
優香は一瞬たじろいだが、すぐに強気を取り戻して反撃する。
「あなたは騙されているのよ。この人は狡猾なんだから。ホントはスキだなんて思われていないかもよ?」
「違うもん! 騙されてなんかないもん!」
「それはどうかしら? 翼はね、私と付き合っていた時、何度も浮気したのよ。私はそれをずっと我慢していたのに、最後は一方的に別れをつきつけて――」
「やめてくれ」
俺は、ようやく声を絞り出した。しかしそんなことでやめる優香ではない。
「私は事実を言っているだけよ。これは全てあなたがしてきたことなんだから」
そう、これは事実。俺が過去に犯してきた罪。例え自分が変わっても、過去を変えることはできない。
それならば。俺のとるべき行動は一つ。
「・・・・・・悪かった!」
俺は深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっと・・・・・・どういうつもりよ」
優香が驚いた声を出す。隣で葵も驚いているようだった。
「あの時は、たくさん傷付けて、本当に悪かった!」
「謝れば許されると思ってるの? 私は――」
「もちろん許されるなんて思ってない。でも、マジで悪かった!」
俺はひたすら謝り続ける。
「俺は最低だった。たくさん傷付けた」
「な、何よ今更・・・・・・。彼女の前だからってかっこつけてるんでしょ?」
「違う。俺は変わったんだ。そして今の俺は、あの時のことを申し訳なく思ってる」
「・・・・・・」
俺は頭を上げた。そして優香の彼氏を見る。
「優香の彼氏さん。俺は昔こいつを傷付けました。だから、俺なんかが言えることじゃないけど、だけど優香を大切にしてあげて下さい。お願いします」
俺は今度は彼氏に向かって頭を下げた。優香が言う。
「何なのよ・・・・・・。もういいわ、行きましょ!」
優香が彼氏の手を引いて離れていく。俺は頭を下げ続けていた。
通りは喧噪にあふれているはずなのに、俺の耳には入らない。静寂が支配していた。
「・・・・・・翼」
その静寂を、葵が破った。俺は、怖かった。
葵に自分の過去を話したことはあった。でも、実際に元カノに会うのは初めてだった。
優香が言っていたことは全て本当のことだし、俺は葵に軽蔑されても仕方がない。
俺は恐る恐る顔を上げた。少し俯いている葵の顔。葵の言葉を聞くのが怖い俺は、自分から畳みかけるように話す。
「最悪だよな、俺って。どれだけ変わったって言っても、昔やったことがなくなるわけじゃないしな」
葵は何も言わない。
「さっきので俺のこと、軽蔑しただろ? 葵みたいな純粋なやつには、俺は汚すぎるんだよ」
「――とない」
葵が小さく何か言って、聞き取れなかった俺は訊き返す。
「え?」
「そんなことない」
葵は俺の顔を見上げた。力強い目。
「翼は汚くなんかない。ボクにとって翼は、素敵な彼氏だもん。さっきの翼、男らしくてかっこよかった」
「かっこ、よかった・・・・・・?」
「うん。自分のやったことを認めて、ちゃんと謝ってた。それって簡単にできることじゃないと思う」
・・・・・・つくづく俺は、葵のことをすごいと思った。
葵は、女たらしだった俺が元カノに頭を下げる姿を見て、かっこよかったと言った。
「ボクは今の翼がスキ。でもね」
しかしそこで葵の表情が急に曇って、俺は不安になる。
「優香さんに言われる前から、一つ不安に思っていることがあるんだ」
「何・・・?」
「翼、夏祭りの後にスキだって言ってくれた時から、一度もスキって言ってくれてないんだ」
「あれ? そうだったっけ・・・?」
「それにね」
葵は続ける。
「まだ、き、キスもしてくれないでしょ?」
そう言うと、葵は恥ずかしそうに俯いた。
「・・・え?」
「あやめちゃんがね、いつも『まだキスしてないの~?』って訊いてくるんだ。だから、遅いのかなって」
まったく、上田め。余計なこと言いやがって。
「・・・・・・上田の言うことは気にすんな。ただ冷やかしたいだけだから」
「そーなの? でもボク付き合うの初めてだし、キスもしたことないから、よくわかんなくて・・・・・・」
段々声が小さくなっていく葵。目をあっちこっちに泳がせている。俺はため息をついた。
「はぁ・・・・・・。まさか、そんな風に思われていたなんてな」
女たらしだった過去の自分から変わりたくて、安易に「好き」だなんて言わないようにしていた。
キスにしても同じ。そりゃずっとしたかったけど、葵に軽い人間だと思われるのが怖かったから控えていた。
それなのに、な。
「葵」
愛しい人の名を呼ぶ。公衆の面前で抱き合うなんて、恥ずかしいことだと思っていた。でも。
「なに・・・・・・うわ!!」
恋人たちにとって特別な今日という日くらいは、いいかもしれない。俺は葵を強く抱きしめた。俺より少し背の低い葵が、肩の辺りで呟く。
「なんか、は、恥ずかしいね・・・・・・」
「あぁ、そうだな」
葵が俺の背中に手を回す。
「でも、こうしてると、温かいね」
「・・・・・・あぁ、そうだな」
12月24日。今日は特に冷え込みが厳しい日だけど、今の俺は確かに暖かかった。
ずっとその温もりにまどろんでいたかったけれど、俺は次にするべきことのために葵から体を離す。
葵の顔を見ると、真っ赤になっていた。そして葵は俺の顔を見て
「翼の顔、真っ赤っか!」
そう言って笑う。顔から火が出るほど恥ずかしいけど、どこか心地よい。
「そう言う葵も真っ赤だぞ」
「はへ!? ほ、ホント?」
両頬に手を当ててあたふたとする葵。右に左に忙しく首を回して、そして上を向いた。
「あ、見て! 雪!」
葵が上空を指差して、俺もつられて上を向く。街明かりが眩しすぎて星の見えない真っ黒な空をバックに、イルミネーションの光を浴びて空中で突然生まれる雪。
幻想的なその光景に、街行く人々も足を止める。
鳥の羽のようにふわりと落ちてきた一粒の雪を、葵は両手を使い胸の前でそっと受け止めた。
手の平の上、体温で溶ける小さな雪。その一部始終を見届けると、葵は俺を見て笑う。
「葵」
俺はもう一度、ゆっくりと名前を呼んだ。そして両肩に手を置く。
「は、はい!」
緊張して少し見開かれた葵の瞳が、イルミネーションで輝いている。
「俺は」
「う、うん」
葵の瞳をしっかりと見て、俺は言葉を紡ぐ。
自分の想いを、相手に伝えるために。

 

「葵のことを、愛してる」

 

俺は顔を、目の前にある葵の顔へと、さらに近付けた。
葵の瞳の中に自分の顔が映る。そして、

 

 

 

Fin

 

 



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