【中篇小説】メリークライシス! -2. What should I do?-

【中篇小説】メリークライシス! -2. What should I do?-

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今日は小説!」

先週のクリスマスのお話の続きなの!

 

※ 前回の話はこちら。

 

 

 

 

 

メリークライシス!

 

 

 

 

メリークライシス!
-2. What should I do?-

 

 

 

 

12月24日。今日はクリスマスイブ!
それだけで私は幸せな気分になる。街のイルミネーションや、サンタやトナカイの飾り付けを見るだけで、なんだか楽しくなる。
いつの年からか、プレゼントをくれる相手がサンタさんからお父さんに変わったけれど、それでもクリスマスはワクワクする日だ。
毎年クリスマスの日は妹の瑞希と、入院しているお母さんの病院へ行ってプレゼントを渡していた。
でも今年は違う。明日、25日はお母さんのお見舞いへ行った後、午後からトモダチとパーティーを開くし、今日、クリスマスイブは翼とデートをする約束だ。
「ふんふふーん♪」
自分の部屋で鼻歌を歌いながら、私は持ち物を整える。よし、準備完了!
「楽しみだなー!」
私はドアを開けて自分の部屋から出る。すると、久しぶりの休みでゆっくり起きたお父さんとはち合わせた。
「ん、どうしたんだ葵。楽しそうだな」
「うん! 今日はこれからお出かけなんだー」
「そ、そうか。うん、気をつけてな」
「ありがとー!」
お父さんと私は階段を下りる。私は玄関で靴を履くと、床に落ちていた新聞を拾ってお父さんに手渡した。
するとお父さんが何か言いたそうな目で私を見ていた。
「はへ? お父さん、どうかした?」
「いや、何でもない。なるべく早く帰ってくるんだぞ。夜は危険だからな」
「ダイジョブダイジョブ♪ じゃあ行ってきまーす!」
私はお父さんに笑顔で手を振ると、玄関の扉を開けて外に出た。
冬の冷たい空気が肌を刺す。
「寒ー!!」
私は自分の体を抱きしめるが、露出した首元を冷気が襲う。先日マフラーをなくしてしまったけど、買いなおした方がよさそうだ。
こんなに寒いのだから、今日こそは遅刻しないようにしないといけない。私は歩みを早くする。
今日の待ち合わせ場所は、いつもの場所ではない。
少し前までは最寄りの桜町駅前で待ち合わせて、そして翼の自転車の後ろに乗ってデートに行っていたのだけど、さすがに冬になってからは寒いので現地集合するようになった。
確かに冬に自転車に乗るのは寒いんだけど、でも私は翼の自転車の後ろに乗るのがスキなので少し寂しい。
話は戻って、今日の待ち合わせ場所は坂江のクリスマスツリー前。前にあやめちゃんと行ったから場所は覚えている・・・・・・多分。
翼を待たせないように、私は急ぎ足で桜町駅へと向かった。

 

 

 

桜町駅から地下鉄に乗って、坂江駅を目指す。坂江までは一度乗り換えが必要だ。
乗った時は空いていたので席に座ることができたが、今日はお休みの日だからだろうか、駅に停まるごとに乗客は増えていく。
そしてついに座席は埋まり、立って乗る人が増えてきた頃。
「・・・・・・あ」
地下鉄が駅に停まって乗り込んでくる乗客の中に、腰の曲がったおばあさんがいた。重そうな風呂敷包みの荷物を持っている。
おばあさんは列車内を一度見渡したけれど席は開いていなくて、ドア近くの棒につかまって立った。
私はちらりと優先席の人を見たけれど、誰も席を譲る様子はない。というか、おばあさんが乗ってきたことに気付いてもいなさそうだ。
(席を、譲らなきゃ・・・・・・)
私はそう思ったけれど、初対面の人と話すのが苦手なので躊躇する。その時。
ゴトン。
電車が揺れて、おばあさんがよろめいた。そして近くの男の人にぶつかる。男の人が無言でおばあさんを睨んで
「ごめんなさいねぇ・・・・・・」
おばあさんは頭を下げた。やっぱり席を、譲らなきゃ・・・!
「あ、あの!」
私は勇気を出して立ちあがると、おばあさんに話しかけた。おばあさんが私を向く。
「はい?」
「あ、あの、ボクの席どうぞつか、使ってください!」
少し詰まりながらも、私は言い切った。おばあさんは
「ありがとうねぇ」
笑顔でお礼を言う。私はそれを見てすごく嬉しくなった。そして
「じゃあこの席・・・・・・」
自分の席を振り返って、そして驚いた。
私がついさっきまで座っていた席には何食わぬ顔でおばさんが座っていた。こちらを見ず、真正面を向いている。私はおばさんの前に立って
「あ、あの・・・・・・」
話しかけたが、おばさんは露骨に嫌そうな顔をして私を見て
「何」
そっけなく答えた。
「えっと、あの、そこの席はおばあさんに譲ろうとしたんですけど・・・・・・」
「何。ここが空いてたから座ったんだけど。何か文句ある?」
「あ、えっと、その・・・・・・ないです」
おばさんの迫力に押されてしまい、私はすごすごと退散した。そしておばあさんに向き直ると
「あの、ごめんなさい・・・・・・」
私は謝った。おばあさんは顔の前で手を振る。
「いえいえ、あなたが謝ることなんてないのよ。ありがとう、お嬢ちゃん」
「でも、席を譲ることができなくて・・・・・・」
「いいのよ、その気持ちだけで嬉しいから」
「あの、よかったらどうぞ」
その時、近くから澄んだ声がした。そちらを向くと、私より少し年上のお姉さんが立っていた。
「この席、どうぞ使ってください」
「あらあら、いいのかしら?」
「えぇ。取られないうちにどうぞ」
お姉さんはさっきのおばさんの方をちらりと見ながらそう言った。おばさんは苦々しい表情になって、同じ車内にいる人からは苦笑が漏れる。
「ありがとうねぇ。それじゃあ座らせてもらうわ」
おばあさんはお姉さんの席に座った。ほっとした私は嬉しくなる。すると
「ねぇ」
席を譲ったお姉さんが私に話しかけてきた。改めて見ると、すごく綺麗な人だ。でもどこかで見た事があるような・・・・・・。
「あ、はい」
「もし間違っていたら申し訳ないんだけど、あなたもしかして妹・・・美沙のお友達?」
「美沙ちゃん? ・・・あ! もしかして美沙ちゃんのお姉さんですか?」
「えぇ、神楽 里紗よ。どこかであなたのこと見た事あると思ったから。いつも妹がお世話になってます」
綺麗なお姉さんの正体は、私の親友の美沙ちゃんのお姉さんだった。体育祭のリレーで戦ったこともある。
「そそそそんな、お世話だなんて。いつも美沙ちゃんにはお世話になりまくりっぱなしです!」
「そう? でも美沙が素敵な友達を持っているみたいでよかったわ」
素敵だなんて言われて、こそばゆい気持ちになる。
「ぼ、ボクは素敵なんかじゃ、ないです!」
「あら、おばあさんに席を譲るだなんて、すごく素敵だと思うわ」
「でも結局譲れませんでしたし・・・・・・」
私が少し俯くと、里紗さんは優しい声で言う。
「実を言うと私、あなたが譲ろうとするまでおばあさんに気付いていなかったの。気付くだけで十分素敵よ」
「えっと、あの、その・・・・・・ありがとうございます!」
褒められるとやっぱり嬉しい。その後も私たちは美沙ちゃんの話などをしていると、地下鉄が減速していった。
「あ、私この駅で降りなきゃ」
「今日はお買い物とかですか?」
「ふふ、今日は彼氏とデートなのよ」
「そうなんですか! 実はボクもなんですー」
「あら、素敵ね。お互い楽しみましょう、それじゃあね」
「はい!」
ドアが開いて里紗さんは降りて行った。美沙ちゃんに似て、美人でいい人だ。(順番的に美沙ちゃんが里紗さんに似てるのかな?)
里紗さんの彼氏さんってどんな人なんだろう。里紗さんが選んだくらいだから素敵な人なのかも。やっぱり翼みたいに優しい人なのかな。
ん? 翼? ・・・・・・えっと。
「あ!」
目の前でドアが閉まった瞬間、私は叫んでしまった。電車内の人が一斉に私を見る。
「はわわ、あ、何でもないです。すいません・・・・・・」
私は周りにぺこぺこ頭を下げる。そう、翼。私は今日、翼とデートだったのに。
(坂江に行くための乗り換えの駅、さっきのとこだったー!)
私は乗り過ごしてしまったのだった。これじゃあ今日も遅刻だ・・・・・・

 

 

 

次の駅で急いで逆方向の地下鉄に乗り、今度はちゃんと乗り換えの駅で降りて、ようやく坂江駅に着いた。
既に待ち合わせの時間に10分遅れている。急いでツリーのところへ行かなくちゃ!
「えっと、ツリー、ツリー・・・・・・」
地下鉄の駅は地下街に直結している。ツリーは地上にあったから、私はひとまず地上に上がった。
あれだけ大きなツリーだからすぐに見つかるだろう、と思っていたのだけど。
「どーこー・・・・・・?」
いくらツリーが大きくても、豊徳市の中心地である坂江の地上は高層ビルだらけなので見えるはずもなかった。
誰かに場所を訊こうと思ったけれど、みんな早足で歩いているのでなかなか話しかけられない。
「ど、どうしよう・・・・・・」
すると、少し向こうの交差点前で立ち止まっているスーツ姿の男性を見つけた。あの人なら立ち止まっているから話しかけてもダイジョブかもしれない。
その人に急ぎ足で近付く。
「・・・・・・あ、あのー」
「・・・はい?」
スーツ姿の男性に話しかけると、怪訝そうな顔をされた。頭が真っ白になる。
「はわわ、えっと、その、つつつツリー、クリスマスのなんですけど・・・・・・」
「えっと、何かな?」
その時、周りの人が一斉に歩きだした。交差点の信号が青になったようだ。
「あ、その・・・・・・」
「すまないが、急いでいるので、失礼」
男性は歩き始めてしまった。
「あ、あ、えっと、すいません・・・・・・」
私は訊くのを諦めて俯く。すると
ぽとり。
目の前に手袋が落ちた。私はすぐに顔を上げる。
どうやらあのベージュのロングコートを着た女性が落としたようだ。私は急いで手袋を拾い上げる。
「あ、手袋、落と――」
私が駆け出したその時、ロングコートの女の人のかばんの中から、もう片方の手袋も落ちた。私はそれも拾う。
立ち上がると、ロングコートの女性はだいぶ前に行ってしまっていた。私は慌てて追いかける。
しかし、横断歩道は通行者が多く、人混みの中を歩くことに慣れていない私は思うように進むことができない。
そうこうしているうちに歩行者用信号が点滅を始めた。
「はわわ、早く渡らなきゃ・・・!」
しかしその思いもむなしく、横断歩道のど真ん中で信号は赤になってしまった。右折してきたタクシーが猛スピードで通り過ぎる。
「うわ!!」
私は足を止めた。今度は左から直進する車がどんどんやって来る。どうやら渡るのは無理なようだ。
仕方なく私は中央分離帯のブロックの上で信号が青になるのを待つ。ロングコートの女性の姿はすっかり見失ってしまった。私の手には手袋が二つ。
「うー、どうしたらいいんだろう・・・・・・」
都会の信号は長い。私は道路のど真ん中で途方に暮れた。

 

 

 

続く

 

 



また「もろたび。」を読んでくれたら嬉しいです。
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