【小説・キミと夏の終わり】幕間・参:Summer Festival

【小説・キミと夏の終わり】幕間・参:Summer Festival

 

今日は七夕なの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。土曜日だから小説を載せるよー」

 

※ 目次はこちら。

 

 




 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

幕間・参:Summer Festival

 

 

 

 

覚悟は決めた。・・・それなのに。
「・・・・・・・・・」
俺の口はまるで開く方法を忘れてしまったかのように全く動かない。
最後の花火が終わってからしばらく経つ。
俺たちはただただじっと、神社の石段に座って黙っていた。この口はさっきからずっと、堅く閉じたままだ。
葵の方を向くことすらためらわれて、俺は石段の先の方を見つめていた。
視界の隅に葵の伸ばした両足のサンダルが動くのが見える。
これ以上こいつのことを拘束するわけにはいかない。
早く、早く言わなくちゃ。
「・・・・・・帰ろっか」
今の台詞は俺のものではない。
長かった沈黙を先に破ったのは、葵の方だった。
俺は葵に言わなければいけないことがある。
その決意を胸に秘めて、俺は今日夏祭りに臨んだ。
しかし今すぐにそれを言う踏ん切りもつかず、かといって葵をこの場にこれ以上留め置くこともできず。
「・・・・・・そうだな」
心底自分は情けないと思う。俺は心を絞り出すようにして答えた。
葵は静かに立ち上がると石段を降り始める。
少し距離を空けて、俺も石段を降りていった。
早く言わないと。どうやって切り出そう。
頭の中がごちゃごちゃで考えがまとまらない俺に、葵のすぐ隣りを歩く勇気はなかった。
葵のペースに合わせて一定の距離を保ちながら、俺もまた一歩ずつ石段を降りていく。
「翼」
突然、葵は俺の方に振り返った。
「な、何?」
どうやって切り出そうか考えていた俺は動揺して立ち止まる。
「どうしてさっきから後ろばっか歩いているの? なんで一緒に歩いてくれないの?」
「それは・・・・・・」
なんと答えればいいかわからなくて俺は目線を外す。しかし葵は追及の手を緩めなかった。
「今だけじゃないよ。今日は話しかけてもちゃんと答えてくれなかったり一人で何かつぶやいたりしてさ! 今日の翼はなんか変だよ?」
そう言って葵は石段を駆け上がり俺のすぐ近くに立つ。
俺は思わずたじろいで一歩下がって下を向いた。
葵の次の言葉に俺は身構えるが、葵は「え・・・?」と言った後は黙ってしまった。少しの静寂。そして

「ごめんね」

予想もしなかった言葉を葵が言った。俺は驚いて顔を上げる。そこには悲しそうな目をした葵がいた。
「ボクなんかと夏祭り付き合わせちゃって、ごめんね。迷惑だったよね、やっぱり」
ん・・・? 葵は何を言ってるのだろう。
「ボクは一人で帰れるから、行くね。・・・・・・バイバイ」
そう言うと葵は一人で階段を降りていってしまった。
距離がどんどん開いてゆく。俺は馬鹿みたいにつっ立っていた。
葵が何をどう考えたかわからない。何か誤解しているみたいだけど、俺の態度が原因だったのは事実だ。
俺が意気地なしだったせいであいつを傷付けてしまった。俺はなんてダメな奴なんだろう。
こんな俺が、葵のそばにいる資格なんてないかもしれない。
だけどもしこのまま何も言わなかったら、俺はこの先ずっと後悔するだろう。
それだけは・・・・・・絶対に嫌だ!!

「葵っ!!」

俺はありったけの声を出した。
振り向かないまま立ち止まった葵の後ろ姿へ、俺は続ける。
「葵がどう考えたかわかんねぇけど、俺はちっとも迷惑だなんて思ってない! いや、むしろ葵と夏祭りに来れてマジでよかったと思ってる!」
もうかっこ悪くたってなんだって構わない。俺はなりふり構わず自分の気持ちを包み隠さずに叫んだ。
葵はようやくこっちを振り返ると、震えた声で訊く。
「じゃあなんで? なんで今日は、ボクのこと、避けたりしたの?」
俺は今度こそ決めた。もう何も誤魔化さないと。
「いや、避けたんじゃなくてさ・・・・・・」
俺は一歩ずつ葵との距離を詰めていく。
さっきから開いていた二人の距離を。離れかけてしまった二人の心の距離を。
俺たちの間の石段の数は減っていき、そしてなくなった。
「俺、わかったんだよ」
俺は葵を真っすぐ見て言う。
「わかった、って何が?」
葵が訊き返す。今から俺が話すことで葵は俺を軽蔑するかもしれない。だけど葵には真実を知ってもらいたい。俺はゆっくりと口を開く。
「葵は知らないかもしれないけどさ、俺って中学生の頃、女関係がすっげぇ荒れてたんだ。女なんていくらでもいるし、モテることこそ一番だと思ってた」
昔の俺は彼女を作っては浮気して、面倒になったら捨てて次の女へ行くという最低な奴だった。
自分の容姿には自信があったし、得意の”営業スマイル”を使って女を落とすことを楽しんでいた。
「でも、俺は高校で葵と出会って、話して、それでわかったんだ。そんなの間違ってるって」
帰り道の交差点で初めて話したあの日、俺は衝撃を受けた。
「裏表のない葵の笑顔を見てたらさ、俺が今までやってきたことってすっげぇひどかったんだなぁってあの時、思ったんだ」
作った笑顔の俺に向けた葵の笑顔は、曇り一つない心からの笑顔だった。
見た目だけではない。そんな葵の純粋で、真っすぐで、綺麗な心。
俺はそれを見て今までの自分を恥じると共に、俺にないものを持っている葵に強く惹かれていったのだ。
「・・・でも、どうしてボクにそんな話をするの?」
「それは・・・・・・葵には本当の俺を知ってもらいたいんだ。じゃなきゃ俺には言う資格がないから・・・・・・」
「資格・・・?」
口の中が異常なほど乾いてきた。全身が熱い。
「もし今日の俺の態度で傷付けてしまったのなら、ごめん。でも、今日の夏祭りは決心して来たからさ」
葵は黙って俺の話を聞いている。ようやく、あの言葉を言う準備が整った。
「夏祭りを葵と一緒に過ごして、俺確信が持てたよ」
俺は今日過ごした時間を思い返す。
「綿菓子で喜んでるところとかさ、金魚すくいに夢中になって浴衣の袖を濡らしちゃうところとかさ・・・・・・」
来た。言うなら今しかない・・・!
「俺、そういう葵が」
「金魚忘れたー!!」
そう、金魚・・・え?
「・・・へ?」
葵が急に叫んで、俺は間抜けな声を出してしまった。
「ほら、屋台のおじさんに貰った金魚、神社の欄干にかけっぱなし!」
さっきまでの緊迫した空気を見事なまでに一瞬で吹き飛ばす葵。
「ごめんね翼、ボク取ってくる!」
葵は神社の方へまた石段を上っていく。一人取り残される俺。
「・・・・・・・・・。はぁ~・・・・・・」
高まっていた緊張の糸が切れ、俺は深く息を吐きだした。

 

 

 

なんとか気を持ち直し(といっても精神的ダメージはかなり大きいが)、俺は石段を上っていった葵の後を追った。
さっき花火を見ていた神社の裏側へ行くと、葵が背を向けて立っている。
「金魚、無事だったか?」
俺が声をかけると
「あ、翼も戻ってきてくれたの? ごめんね、わざわざ・・・」
葵がこっちを向き俺をねぎらった。いや、謝られるとしたらそこじゃないんだけど。。
「じゃあ金魚も見つかったことだし今度こそ帰りますかー」
「・・・・・・おぅ」
さっきまでの出来事がまるでなかったかのようにしゃべる葵。
そんな葵に俺は諦めに似た感情を感じた。きっと俺はこいつに気持ちを伝えられない運命なのかもな・・・。
俺たちはまた石段へ引き返す。ある種の悟りを開いた俺は、今度は葵と同じ段で降りていく。
「この子たちの名前何にしよーかなー」
ふと金魚の袋を見ながらつぶやいた葵に、俺はびっくりして尋ねる。
「金魚に名前付けんのか?」
「もちろん! ペットは家族だもん」
堂々と言ってのける葵。俺は少し呆れつつも葵の話に乗る。
「・・・・・・どんな名前にするんだ?」
「そうだなー・・・。『つーくん』と『ばーくん』と『さーくん』っていうのは」
「やめてくれ」
葵の言葉を遮って却下する。ペットに、しかもよりによって金魚に自分の名前を付けられるなんて恥ずかしくてしょうがない。
「むー。いい名前だと思うけどなー」
「どこがだよ」
俺は軽く笑う。こういったバカ話ができる相手っていうのはすごい貴重だと思う。
でも今日は葵といろんなこと話したけれど、一番大切なことが言えなかったなぁ・・・。俺がそう考えていた、その時
「あ、そういえばさー、さっきの翼の話ってなんだったの?」
葵が爆弾を投下した。俺は石段を踏み外し危うく倒れかける。
「つ、翼! ダイジョブ?」
いきなりの葵の衝撃の言葉に俺はむせ返る。
「お前さ、今その話をまた持ち出すのかよ・・・・・・」
「あれ? ボク何か変なこと言った?」
時々あまりにも天然な葵に対して、本当は全て計算してやってるんじゃないかと思う時がある。
でも、すぐにそれはないなと思う。なぜなら葵の天然さはもはや演じられるレベルではないからだ。
「・・・・・・葵、今まで『にぶい』って言われたことないか?」
「よく言われる。美沙ちゃんにも言われた」
素直に答える葵。俺は息を吐き出して肩を落とし、膝に手をついた。
「どーしたの?」
「・・・・・・・・・」
俺は葵の問いには答えず、考えていた。
葵に気持ちを伝えられないのは運命だ、なんてさっきは思ってた。けど、それはただの逃げじゃないか。
俺の気持ちはすぐに諦められるようなちっぽけなもんじゃないはずだ。
一陣の風が吹いた。頬をなでる風が涼しくて気持ちいい。林がさわさわと音を奏でる。
「えっと・・・翼?」
ずっと硬直していた俺を不思議に思ったのか、葵が口を開いた。
俺は軽く一息つく。そして胸に決意を秘めてゆっくりと体を起こした。
不思議なことに緊張はなかった。落ち着いた声で俺は名前を呼ぶ。
「葵」
「は、はい!」
むしろ葵の方が緊張しているようだった。さすがの葵もこの雰囲気を察したのだろうか。
俺は三つ石段を降りた。そして葵の方に振り返る。
視線が段差によって同じ高さになった。
「俺は」
「う、うん」
葵の瞳をしっかりと見て、俺は言った。

「葵のことが、スキだ」

 

 

 

とても晴れやかな気分だった。
自分の気持ちを打ち明けた俺は、今は開放感に浸りながら石段を降りている。
俺は自分が言った言葉を思い返す。
「葵のことが、スキだ」
「いきなりで驚かせちゃってごめんな。だけど、どうしても伝えたかったんだ」
「俺は葵がスキだ。だから、もし葵がよければ俺と付き合ってほしい」
「返事は今すぐじゃなくてもいいよ。俺、待ってるから」
改めて考えると、よく言えたなぁと思う。自分を褒めてやりたい気分だ。
俺の気持ちに嘘や偽りは一切ない。
葵はさっきまでの俺のように、距離を開けて後ろを歩いている。
今頃きっと俺の言ったことの意味を必死に考えているんだろう。
それにしてもあの時の葵の驚いた顔といったら。やっぱり俺の気持ちに気付いていなかったに違いない。
けっこう、というかかなりわかりやすい態度を俺はとっていたと思うんだけど・・・・・・つくづく鈍感なやつだ。
「ふぅ」
俺は息を吐き出して前髪を揺らす。と、同時に少しずつ後悔の念が湧いてきた。
・・・・・・もう、今までのように話せなくなるんだろうな。
この告白は正直言って断られると思う。葵にとって俺はただの友達でしかないだろうし、しかも俺は女癖が悪かったって言った直後のことだ。
でも俺は自分の過去をちゃんと伝えてよかったと思う。知らせないまま告白するのは卑怯だと思うからだ。
そんな正々堂々とした手段にこだわって告白するほど、俺は葵のことがスキだ。
考えてみると今まで何度も告白を受けてきたけど、自分からするのは初めてだった。
俺に気持ちを伝えてきた人達も、今の俺のように悩んだり苦しんだりしてたんだろうな。
そんな気持ちを散々弄んだあげく踏みにじって・・・・・・本当に申し訳なく思う。
そしてそんな俺の初めての告白が失敗とは当然の報いかもしれない。
「あ」
ずっと考え事をしていて気付かなかったが、石段の終点まで来てしまっていた。
どうしようかとしばらく思案して、とりあえず俺は葵に声をかける。
「えっとさー、葵」
俺の言葉に葵は俺を見た。
「もう遅いし、家まで送っていくよ」
これはアピールでもなんでもない。夜遅くまで付き合わせてしまったからには当然の義務だろう。
数段上に葵は立っていた。俺のことをじっと見つめている。
たったそれだけのことだけど俺はなんだかドキドキしてしまう。
「翼」
「ん?」
俺の名前を呼ぶ葵の声。
葵はゆっくりと口を開いた。その顔に笑顔をたたえて。

「ボクも、翼のことがスキだよ」

「え・・・・・・」
俺は自分の耳を疑った。えっと・・・葵も俺がスキ?
しばらくしてこの状況の重大さがようやく理解できた俺は葵に慌てて尋ねる。
「え!? ってことは俺と、つ、付き合ってくれんの?」
「そーだよ」
「だけど俺、女癖悪かったんだよ?」
「前はそうだったかもしれないけどボクの知ってる翼はそんな人じゃないし。それにもう変わったんでしょ?」
「そ、それはそうだけど・・・・・・。マジで俺なんかでいいの?」
まさかOKをもらえるなんて思ってもいなかったからつい不安になって訊いてしまう。そんな俺に葵は
「うん。というか翼だからいいんだよ」
こんなことを言ってくれる。それを聞いて今さらながら嬉しさが込み上げてきた。
笑顔で俺を見つめる葵。そんな葵を見て、俺はこいつの笑顔を守っていかなくてはと思う。
・・・今まで傷付けてしまった人の分も。
「じゃあ葵、これからよろしくお願いします」
俺はまだ石段に立っている葵へと手を差し出す。
「・・・うん!」
葵も手を出しながら石段を降りようとした。その時
「うわ!!」
葵の体が宙に舞う。
「・・・え?」
どすーん。
俺の上に葵が落ちてきた。俺は受け止めたまま後ろ向きに倒れ、後頭部に痛みが走る。
「ダイジョブ!?」
葵が焦りながら言う。あんまり大丈夫じゃないけど心配をかけないように俺は
「・・・おぅ、俺なら大じょ」
「あーよかったー、金魚生きてたー!」
そう、金魚・・・え?
どうやらさっきの「ダイジョブ!?」という言葉は俺ではなく金魚たちに向けられたものだったらしい。
金魚の無事に安心している葵に水を差すようで悪いが、いつまでも下敷きになってるわけにもいかないのでおそるおそる声をかける。
「あのー・・・」
葵は目線を金魚の袋から俺に向けた。そして少しして
「はわわわわ! ご、ごめん!!」
慌てて俺の上からどいた。
「金魚の方が心配される俺の扱いって・・・」
地面に倒れたまま俺は嘆く。
「はわわ、えっと、翼もダイジョブだった?」
やっと俺の心配をしてくれる葵の声を聞きながら、俺は目を閉じた。そして
「はははははは!」
俺は大声を上げて笑った。とっても可笑しかった。
「はへ?」
葵は首を傾げている。
「ははは! 葵らしいや。俺のことより金魚の心配をするなんて」
「ごごごごめんなさい!!」
葵は慌てふためいて謝る。俺は立ち上がりジーンズを手ではたいて言った。
「いや、いいんだ。俺は葵のそういうところをスキになったんだから」
昔付き合っていた人たちは、いつも俺の機嫌ばかり伺っていた。
それがかえってなんか媚を売ってるみたいで俺は気に食わなかった。
でも葵は違う。俺を一人の対等の人間として見てくれていて、それが嬉しかった。
・・・・・・まぁ金魚の方を優先するのもちょっと考え物だけどな。
「そ、そうなんだ」
ふと見ると葵が顔を真っ赤にしている。それを見て俺もなんだかそわそわしてしまう。
「お、おぅ」
そして沈黙。お互い目を合わせられないまま静寂が続く。その時
「はい!」
葵は俺に向かって手を差し出した。俺はその意味がわからなくて葵を見ると
「ほら、さっき家まで送ってくれるって言ったよね? だから・・・・・・」

「一緒に帰ろう」

頭の中を葵の言葉が電流のように走る。
俺は左手を葵の右手へと伸ばした。二人の指が絡まる。
一緒に帰ろう―――それは俺たちが出会った日の、最初の言葉。
初めての言葉で、俺たちは始まる。
葵の手は温かかった。その温かさに俺は安心を覚える。
「もう、離れて歩くなんてイヤだよ・・・」
少し俯きながらか細い声で言う葵。そんな葵がとても愛おしい。
「・・・わかった。さっきは寂しい思いをさせちゃってごめんな」
葵の顔を見ながら俺は言った。そして誓う。
「約束する。これからはずっと一緒だ」
少しでもこいつを安心させてやりたくて、俺は葵に約束をした。
なんだかちょっと恥ずかしいけど、それもなんだか心地よい。
「それじゃあ行こうか」
「うん!」
嬉しそうな葵の顔を見て、俺も嬉しくなる。
俺たちは歩き出した。同じ歩幅で、同じペースで。
8月25日、夏祭りの夜。
俺たちはこれから二人の道を歩んでいく。

 

 

続く

 

 



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