【小説・キミと夏の終わり】幕間・弐 : 遠い夢の中

【小説・キミと夏の終わり】幕間・弐 : 遠い夢の中

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。日本代表、決勝トーナメント進出おめでとう!」

というコメントは全く関係なく、土曜日は小説の日なの!

 

※ 目次はこちら。

 

 




 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

幕間・弐 : 遠い夢の中

 

 

 

 

あれから。
葵が進むがままに俺たちは公園を出てビル街を通り過ぎ、そしてなぜか山へ登っていた。
もっとも山といっても、ほんの小さな丘程度のものだけど。
しかしここも山一体に木 が生えており、花火が見やすいとはとても思えなかった。
だが葵は何かを目指す所があるかのようにどんどん進んでいく。
「あ、葵! ここ道じゃないぜ!」
「ダイジョブダイジョブ♪ 向きはこっちであってるからー」
葵はついに林の中へと入っていった。林の中に電灯があるわけもなく、花火の光などでかろうじて地形が分かる程度だ。
「ってか一体どこ向かってるんだよ? 山に登ったって、公園と同じで木ばっかりだから花火見えねぇだろ?」
俺たちが探検家となって数分、俺は我慢できず葵に尋ねた。
「うーん、もうそろそろだと思うんだけどなー・・・・・・。あ!」
葵が何かを見つけたようだ。俺は葵の横に並ぶ。
「どうした? ・・・・・・ん? ここは・・・・・・神社?」
少し開けたその場所には木造の建物があった。おそらくは神社だろうがかなり古そうだ。
「こんなとこに神社があるなんて知らなかった・・・・・・」
「ほら、翼! こっちこっち!」
俺が立ちすくんでいると、既に神社の裏側へと歩き出していた葵が手招きをした。
言われた通り俺は神社の裏側へ回る。そこは―――
「すげぇ! めっちゃ花火がよく見えるじゃん!」
真正面に大きく広がる夜空のキャンパス。
そこに色とりどりの花火が描かれて、そして消えていた。
神社の裏側の場所は空き地になっていて、なおかつ山から少し突き出しているため、木に邪魔されることもない。
まさに花火を見るのにはうってつけの場所だった。
「ここなら花火がよく見える! やったね!」
嬉しそうに言う葵。しかし俺の頭に一つ疑問が浮かんだ。
「でもどうしてこんな場所知ってんだ? 地元の俺でも知らなかったのに・・・・・・」
すると葵は金魚の袋を欄干にかけながら
「ボクだって知らなかったよ。でも公園からここが見えたんだー」
とんでもないことをいってのける。
「・・・・・・葵、視力すげぇな」
「それより花火見よーよ! ほら、ここ座って!」
葵は神社の縁側に座って、自分の横を示す。
「お、おぅ」
えっと、こういう場合はどれくらい距離をとればいいんだろうか。ぴったりくっつくのもなんだし、かといって離れすぎるのもおかしい。俺はいろいろ悩んだ末
「・・・・・・失礼しまーす」
体半分ほどの距離を空けて静かに座った。葵は俺がそんなことを考えているなど思いもよらないだろう。花火に目が釘付けだ。
さて、やっと腰を下ろすことができた。これで思う存分花火が見れる。
そして。

 

 

 

赤、青、緑。
鮮やかに光を放つ巨大な花火が、夏の夜空に咲き誇っていた。
それらは眼下に広がる街を一瞬照らし、そしてまた次の花火が打ち上がって代わる代わる街を照らす。
花火が花開くのより幾分か遅れて、大きな破裂音がここ―――山の上の神社裏まで届いていた。
「きれいだねー!」
花火は開始から30分たった今も、とどまることを知らないかのごとく夜空にその存在を示していた。
「マジでここ、特等席だな!」
「うん、いいとこだねー!」
紫色の大きな花火が上がると、花火が止んで辺りが静かになった。
「あれ? もう終わり?」
「いや、まだあるはずだ。多分次の花火の準備なんかじゃねぇかな」
葵の疑問に、俺は今までの経験からそう答える。するとすぐに
「あ、あの花火の形、土星みたい!」
葵の形容する通り、まるで土星のような形をした花火が打ちあがった。
「そっか、次は仕掛け花火だな」
俺は呟く。
「仕掛け、花火?」
「さっきの土星の形の花火みたいに、普通のやつとは違った花火を打ち上げるんだよ」
始めて保穂夏祭りの花火大会を見る葵のために俺は説明した。花火大会にはいくつかプログラムがあって、その中の一つに、技巧をこらした花火が打ちあがる時間帯がある。
「きれいだなー! 翼は毎年この花火大会に来てるの?」
ふと葵がそう尋ねてきて、俺は何も考えずに答える。
「あぁ、そうだな」
「いいなー、こんなにすごい花火を毎年見れてー。誰と来たの? 家族?」
しかしこの質問にはすぐに答えることができなかった。俺が家族と最後にこの花火大会を見たのはかなり前のことだ。
そして小学生に上がると男友達と行くようになり、中学生の頃は・・・・・・
「・・・・・・・・・いや、友達」
俺は半分真実で、そして半分嘘の答えを言った。今の自分からしてみれば、あれは認めたくない過去。
幸い葵はこれ以上追及してこなかった。
また一つ仕掛け花火が上がる。今上がった花火の形は
「あ! 今の花火、笑っている顔の形だったよ! さかさまだったけどー」
「おぅ、見たぜ。スマイリーだな」
まるでにこっと笑った顔のような花火。ただし今のは残念ながら上下が逆だった。
またスマイリーの花火が上がる。しかし右ななめにずれていた。
「スマイリー、ガンバれー!」
花火を応援する葵。しかし次に上がったスマイリーの花火も、左奥に歪んでいた。
「ガンバれー!」
葵の声に熱が入る。花火を応援したところでうまくはいかないだろ、と俺が夢のないことを考えた直後
「わー・・・!」
夜空に大きな笑顔が咲いた。スマイリーが俺たちに、優しく微笑む。
葵の応援が、あのスマイリーを上手く打ち上げたのだろうか。ありえないとはわかっていながらも、そう信じてしまいたくなるようなタイミング。
「翼、今の見たー? すごくかわいい笑顔だったねー!」
葵はすごく嬉しそうな笑顔で俺の方を向いた。
「おぅ。・・・・・・でも俺は、」
お前の笑顔の方がずっと可愛いと思う。
「ん?」
「・・・・・・いや、なんでもねぇ」
言えなかった。だってそれは、俺が中学生の時、一緒に花火を見た相手に言った言葉だから。
だからどれだけ葵の笑顔が可愛くても、いや可愛いからこそ同じ言葉を葵には使いたくなかった。
俺は、もう変わったんだ!

 

 

 

大きな花火、小さな花火、丸く輝く花火、変な模様の花火。
たくさんの花火が打ち上がって、花火大会は終わった。
「楽しかったー! 今まで見た花火大会の中で一番よかったー!」
葵が幸せそうにそう言うもんだから
「おぅ。俺も、今までで一番楽しかった」
俺も釣られて本音が出てしまった。
「一番って・・・今日の花火大会は今までのと違うの?」
葵が鋭く質問してくる。確かに俺は毎年この花火大会へ来ている。しかし
「そういう意味じゃないけど・・・・・・まぁ、今回のは特別だったな」
そう。特別なんだ、今年の花火大会は。・・・・・・俺にとって。
「そうなんだー。でもよかった、翼と来れて。一緒に来てくれてありがとー!」
翼と来れて。葵がさらっといったその言葉に俺は嬉しさを隠せない。
「いやいや、俺こそ葵と来れてよかったよ、マジで」
「ホント? よかったー。いきなり誘っちゃったりから迷惑だったらどうしようとかちょっぴり不安だったよー」
「・・・・・・にぶいなぁ」
俺は小さく呟いた。すると
「はへ? 何か言ったー?」
予想外なことに聞こえてしまった。葵は目だけでなく耳もいいらしい。
「あ、いや、別に・・・・・・」
でも、その内容までは聞こえてこなかったらしく、俺ははぐらかす。
「さて、花火も終わったしそろそろ帰ろっかー」
葵はそう言って立ち上がった。花火大会は終わって時刻は9時。確かにもう帰る時間だ。しかし
「あ、葵っ!」
俺は葵を呼び止める。
「ん? どーしたの?」
振り返る葵。
「あ、あのさ・・・・・・」
俺は自分のリュックの中をガあさる。・・・あった!
「花火持ってきたんだけど、やんない?」
俺が取り出したもの、それは手持ち花火の詰め合わせだった。
「花火! やるやるー!」

 

 

 

木造の神社の近くで花火をやると危ないから、俺たちは石段へ移った。
花火の光に揺らめいて輝く葵の笑顔は本当に楽しそうで、やっぱり葵は純粋なやつだなぁと俺は思う。
それと同時に、汚れきっている自分に嫌気がさす。
いつの間にか花火は、最後に線香花火を残すだけとなった。
花火セットに付属していたろうそくは全て溶けてしまったので、俺はマッチで火を直接点けてやる。
俺たちは神社の石段に座り、線香花火をしながらいろんな話をした。さっきまでの勢いの強い花火と違い、線香花火は光が弱いので辺りがより暗く感じる。
「へー、翼の妹も中2なんだー」
お互いの家族の話題になった。葵には俺と同じく中2の妹がいるらしい。
「おぅ。もしかしたら葵の妹と同じクラスだったりしてな」
「もしそうだったらすごいよねー! ・・・あ」
葵の線香花火の火が落ちた。ほとんど同時に俺のも落ちる。
「あ、俺のやつも落ちちゃった。残りは・・・・・・ちょうど二つか」
「じゃあこれで最後だねー」
「・・・・・・そうだな」
“最後”という言葉が頭の中に悲しく響く。
ぼやっとした闇の中で、街のざわめきが少し遠くに聞こえた。
俺は無言で葵の、そして俺の線香花火にマッチにで火を点ける。
線香花火の先がゆっくりと、しかし着実にふくらんでいった。
「・・・・・・・・・」
俺はそれをじっと見つめながら考える。
これが、最後の花火だ。願わくばずっと続いていてほしい。
しかしそんなことはありえない。美しい物というのは儚い。それ故に美しいのだろう。
「・・・・・・・・・」
線香花火はどんどん大きくなり、パシパシっと閃光を走らせる。
俺は葵を見た。瞳が線香花火の光を映して輝いている。その時

「!」

葵と目が合った。驚いて動いてしまった俺の手先の花火から赤い火の玉が離れる。
これが落ちた時、俺は言わなければならない。
世界で最も伝えるのが大変な二文字の言葉を。
たとえ言わなくてもこれは俺の個人の取り決めであり、ペナルティーなどない。
だけど絶対に伝えなきゃいけない。これは俺の男としての誇りの問題だ。
そして火の玉は、地面に落ちて消えた。
いよいよ決戦のときだ―――

 

 

続く

 

 



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