【小説・キミと夏の終わり】幕間・壱 君がいた夏は

【小説・キミと夏の終わり】幕間・壱 君がいた夏は

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。土曜日は小説の日だよー」

今回は、別目線からのお話なの!

 

※ 目次はこちら。

 

 




 

 

 

「ちょっと早く着きすぎちゃったかな?」
俺は待ち合わせ時刻の30分前を指している腕時計を見ながら一人つぶやく。
穂保公園駅前は、これから始まるイベントに期待で胸を膨らましている人たちでごった返していた。
子供を連れた家族、楽しそうに談笑しているグループ、手をつないで歩くカップル―――
俺はこれからの時間のことを考えると、少し緊張してしまった。
けど、決めたんだ。俺は今日、あいつに・・・・・・
中田 翼、高校1年生の夏、8月最後の土曜日。
今日は、夏祭りだ。

 

 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

幕間・壱 : 君がいた夏は

 

 

 

 

現在時刻、6時10分。いつもはたいして時間なんて気にしないで生きているのに、さっきから俺は腕時計を何度も何度も繰り返し見ている。
俺は駅の柱にもたれながら待ち合わせの相手を待っていた。
約束の時間は6時。道に迷っているんだろうか、もしかしたら今日のこと忘れてるんじゃないだろうかと、俺の頭の中をたくさんの不安がよぎる。
「もしかして、誰かに騙されてついてってんじゃないだろうな・・・・・・」
思わず不安が口から出てしまう。
いくらなんでもそれは・・・・・・いや、あいつならありえる。何しろあいつは―――葵は超がつくほどの天然だ。
しかも本人は自覚してないくせにものすっごく可愛いもんだから、ナンパ男に言葉巧みに誘われて、騙されてついていってるかもしれない。
そう、俺が待っているのは日向 葵(ひゅうが あおい)、女だ。
ひとまず葵に連絡を取るか、と考えて、俺は葵がケータイを持っていないことを思い出した。
くそっ、どうすりゃいいんだ。葵は大丈夫だろうか。
今日が夏祭りの日じゃなかったら、挙動不審で職務質問されそうなほど俺は辺りを見回していた。
「つーばーさー!」
不意に俺を呼ぶ声が聞こえた。俺は声がした方向へ振り向く。
そこには一本のヒマワリが咲いていた。
・・・・・・おい、そこ。クサいっていうなよ。俺にはマジでそう見えたんだから。
俺の待ち合わせの相手、葵が笑顔で俺の方へ走ってきたのだ。
うわぁ、可愛い・・・・・・。
俺は思わず見とれてしまう。
今日の葵は浴衣を着ていた。紺色をベースにしてヒマワリの模様がところどころに入っている。紅の帯が全体の色彩のバランスを更に美しくしていた。
しかし何よりも葵の笑顔が、大きな瞳をきらきらさせて笑っていて、ものすごく輝いていた。
葵の浴衣姿が眩しすぎてしばらく固まっていた俺だが、すぐに平静を装い葵に手を振る。
「遅れてごめんね!・・・・・・うわ!!」
「おっと!!」
がしっ。
咄嗟に俺は、俺に向かって倒れこんできた葵を受け止めた。
葵の頭がすっぽりと胸の中に収まる。
「だ、大丈夫か・・・?」
俺はおそるおそる声をかけた。
顔のすぐ下にある葵の髪からほのかなシャンプーの香りがはじけて、俺の心臓がいつもの倍速でテンポを刻む。
こんなに葵と接近したのは初めてだろう。事故とはいえ、俺は胸が騒いだ。
「はわわわわ! ご、ごめん!!」
ワンテンポ置いて、自分の状況を理解した葵がさっと俺の体から離れた。
一種の名残惜しいような感情が湧いてきたけど、それを俺は頭を掻いて誤魔化す。
「え、あ、いや、別に俺はいいけど・・・・・・。びっくりした~」
「ホントにごめんねこういう時も『ありがとう』なのかなでもぶつかっちゃったのは悪いし・・・・・・」
葵は頭を抱えてあたふたとしている。こういった葵の動作一つ一つに、俺は微笑ましさを感じてしまう。
あぁ、俺も相当重症だな・・・・・・。そんなことを考える余裕もできるぐらいまで落ち着いてきたので
「んなこと気にしなくていいから! それより、行こうぜ!」
俺は葵をこれ以上心配させないように、この話を切り上げた。葵は足元に気を配りながら俺の横に並ぶ。

 

 

 

 

保穂公園はものすごい人込みだった。
歩くのもやっとというほど道は人、人、人で埋まっている。
「すごい人数だねー!」
「まぁこの街の夏の一大イベントだからな。・・・おっと」
目の前にでかいおっさんが現れたので、俺は体を捻ってかわす。
ふぅ、これじゃ並んで歩くのも一苦労だ。下手すると葵とはぐれてしまいそうだ。
その時、俺の頭の中に『手をつなぐ』という案がパッと浮かんだ。
確かにそうすればはぐれることはないだろう。だけど、なんて切り出せばいいのか・・・・・・
俺が葵の方に手を伸ばそうとしたその瞬間
「こんなに人多いと、はぐれちゃいそうだねー」
「え!? あ、そ、そうだな」
葵が絶妙なタイミングでそんなことを言うもんだから、俺は自分の考えが読まれていたようでびっくりしてしまった。
付き合ってるわけでもないのに、手をつなぐなんて行き過ぎなのかもしれない。と、葵に嫌われたくない防衛本能が働く。
でも、はぐれないようにするためには有効な手段だ。と、実益を立て前に手をつなぐのを正当化しようとする自分もいる。
俺は行き先を失って中途半端に出したままだった右手を一度見た。
・・・・・・ここは勇気を出して言うしかない。離れるな、と。
「あ、じゃあさ、葵」
「なにー?」
葵が返事をする。すると先程の決意はどこへやら、俺の右手は意思とは裏腹にポケットの中へ潜り込んでしまった。
「えっと、そのさ・・・・・・ゆ、浴衣、すっごく似合ってるな!」
俺は違う話題を持ち出して無理やり会話を繋ぐ。それと同時に、臆病な自分に腹が立って、ポケットの中で拳を握り締めていた。
「え、ホント? ありがとー!」
しかし、会話を繋ぐためと言いつつも、浴衣が似合っているというのは正直な感想だった。
改めて見るとまた一段と浴衣姿が眩しい。いつもは何もおしゃれをしない葵の黒いショートヘアーにも、かんざしが一本刺さっている。
「翼の服もかっこいいね! そういえば翼の私服見るの初めてかもー」
葵が俺の服装を見てそう言った。家が少々貧乏な俺は、ファッション誌に載っているような高い服は買えないので、古着屋などで買った安い服を自分なりに組み合わせて着ている。
だから俺はなんだか自分のセンスが褒められたようで嬉しかった。
「おぅ、サンキュー! まぁ確かに今まで学校以外の場所で会ったことなかったからなぁ」
「電話かかってきたのも昨日が初めてだよねー、翼に電話番号教えたの5月だったのにー」
確かに俺は電話番号をだいぶ前に聞いた。だけどそれは、ケータイの番号ではなかった。
「番号つったって家のやつだろ? 葵もケータイ持てばいいのに」
家に電話をかけるというのがどれだけ緊張することか。
ケータイに電話をかければまず本人が出る。だが家の電話の場合はそうとは言えない。
男の友達にかけるのだったら、もし家族が出ても「あいつに代わってください」と言えばいい。だが異性にかけるときは・・・・・・なぁ?
「ケータイかー。今まであんまり必要だと思わなかったからなー」
なのに、なのに・・・! 昨日の夕方、俺が葵を花火大会に誘おうと勇気を振りしぼって電話をかけたら、逆に葵の方から誘われてしまった。
もちろん誘われたことは嬉しいし、結果としては同じことだ。だけど、やっぱりそこは男のプライドってものがある。
「そういえば花火大会っていつから始まるのー?」
俺がスマートボールの屋台を眺めていると葵が質問した。
「あぁ、7時半からだよ。1時間半かけて1万発の花火を打ち上げるんだ」
その質問に俺は淀みなく答えた。お祭りの情報を事前に頭に入れてきたのだ。
「へー、翼詳しいんだねー!」
「え!? そ、そうか?」
また葵に自分の考えを見透かされた気がして慌ててしまう。だってさ、ちゃんと準備してました、なんて恥ずかしいじゃん!
「ねー、翼。今日の翼なんかちょっと変じゃない? どーかしたの?」
俺が焦ってるのに気付いたのか、葵が詰め寄る。葵っていつもは鈍感なくせに、妙なところで鋭いんだよなぁ・・・・・・
でも、ここで打ち明けるのはまだ早過ぎる。
俺がどうやってけむに巻こうか考えていると、ちょうど葵の向こう側に金魚すくいの屋台が見えた。
「そ、そんなことないって。お、あそこに金魚すくいがあるぜ!」
「はへ? 金魚すくい? やりたいやりたい!」
俺の指差した方へ振り返ると一目散に向かう葵。どうやら誤魔化せたみたいだ。
「ふぅ・・・・・・」
俺は思わず息を吐く。今日は完全に葵にペースを持っていかれている。昔の俺ならこんなことはなかったのに・・・・・・
昔の俺。
その言葉が自分の頭に浮かび、俺はすぐにその考えを頭の隅に追いやった。
今の俺は、もう過去の自分とは違うんだ。昔のことなんて考えるな。
俺は自分にそう言い聞かして、金魚すくいに向かった葵を追う。

 

 

 

 

「おじさん、一回やりまーす!」
「はい、お嬢ちゃん。頑張りな」
葵は代金を渡し、屋台のおじさんから網をもらう。
網といっても金魚すくいでおなじみの、虫眼鏡みたいな形をしたプラスチックの輪に紙の膜が張ってあるやつだ。
「よーし!」
葵は金魚が泳いでいる台を一通り眺めると、腰を下ろして標的を探す。目は真剣そのものだ。
そして、獲物が決まったのか、網を水中にゆっくりと沈めた。
「・・・・・・今だ!」
金魚が網の方へ近付いてきたのを見計らって、葵は網を金魚の下へと動かす。
しかし、すくおうとした瞬間、金魚は危機を察知して見事回避した。
「むー」
ほっぺたを膨らます葵。今度は一番手前にいる金魚を狙って網を動かす。
逃げられる。
「うー」
追う。
かわされる。
「んー!」
葵は本気になって金魚と戦っていた。その時俺は気付いた。
「葵! 袖が水の中に入ってる!」
「え!!」
金魚すくいに熱中しすぎて、浴衣の袖が水の中に垂れてしまったのだ。
「ははは。金魚すくいに夢中になって袖を濡らすなんて子供みたいだな」
「むー、どうせボクは子供だよー!」
すねた葵は金魚を無理やりすくおうとする。その時
「わ!」
金魚を真ん中で捕らえた網は、今までの戦いですでに力を失っていたのか、金魚の重みに耐え切れずあっけなく破れてしまった。
「あー! 破れちゃったー・・・・・・」
心底がっかりした声を出す葵。おじさんがそんな葵を見て笑いをか噛み殺しながら
「残念だったね、お嬢ちゃん。しょうがないな、ほれ」
網(これはネットが丈夫な繊維でできている一般的な「網」だ)で金魚を三匹すくうと、水の入った透明な袋に入れた。
「はい、おまけだよ。毎度あり!」
金魚の入った袋を受け取ると、葵は心の底から嬉しそうに
「ありがとー! おじさん!」
笑顔で礼を言った。おじさんもおまけであげた金魚でここまで喜ばれたことはないだろう。
そんな葵の無邪気な横顔がとても可愛くて、俺はつい微笑んでしまった。
「見てみて翼ー! ほら! 金魚もらったよー!」
葵は立ち上がると、俺にまっすぐ手を突き出して袋を見せる。
「おぅ、よかったなー」
「うん!」
葵は袋をしっかり持ち、俺たちは再び歩き出す。
いやー優しいおじさんだった、いい人だったなー、と何度もつぶやく葵を見て
「・・・・・・・・・」
俺はおじさんに軽く嫉妬した。

 

 

 

 

いろんな屋台に顔を出し、俺は焼きそばといか焼きを、葵はチョコバナナと
「んー、おいしー!」
「たかだか綿菓子で・・・・・・喜びすぎだろ」
綿菓子を買っていた。おごってあげたかったけど、万年金欠の俺にはとても厳しい。
母子家庭だからあんまりお金もないし、サッカー部で毎日忙しくてバイトもできないしな。
「だってボク、スキなんだもん、綿菓子!」
そう言ってまた一口運ぶ。そして満面の笑み。
「それにしても葵ってすげぇうまそうに食べるよな」
俺は思ったことをそのまま述べる。
「だってホントにおいしいんだもん! ・・・・・・あ」
「どうした?」
葵が急に立ち止まったので、俺もそれに合わせて止まった。
「あそこ・・・・・・」
葵が右奥の方を指差す。その先をたどっていくと、りんごあめの屋台があった。
「ん? ・・・・・・あぁ、あれは同じクラスの、真田と上田だっけ?」
葵は首を縦に振る。屋台の前に立っていた一組の男女。それはクラスメイトの真田と上田だった。
真田は背の高い真面目そうな男(話したことがないからよくわからない)で、上田は逆に背がかなり小さい。確か葵と仲がよかった気がする。
二人の様子を見るに、どうも上田はりんごあめを真田にねだっているらしい。
「はは、真田も大変だな。そういえば、上田って葵の友達だろ、あいさつしてく?」
立ち止まったままだった葵の方を向いて俺は尋ねた。すると葵は
「・・・・・・いい」
なぜか急に歩き出した。後ろを振り返らずどんどん歩いていく。
「お、おい葵? どうしたんだよ?」
俺は慌てて後を追いかける。葵は返事をせず、ただ前へと進んでいった。
りんごあめの屋台からはかなり遠ざかって、葵はようやく立ち止まって後ろを振り返った。
「どうしたんだよ葵、いきなり歩き出して」
追いついた俺は、葵に訳を訊く。葵は
「だって」
そう言いかけて止まってしまった。
「だって、何?」
気になった俺は続きを促す。すると
「なんか・・・・・・なんか、見つかっちゃいけないような気がしたんだもん」
葵はそう答えた。
見つかっちゃいけないような気がした。
それはどういうことだろう、俺と並んで歩いているところを友達に見られたくなかったということか。
俺たちは付き合っているわけでもない。だから勘違いされたくなかったのだろうか。
そう考えたら、俺はなんだかあまりよくない気分になった。なんか俺だけ浮かれていたみたいで、虚しい。
「・・・・・・ふーん、そう」
俺は葵から視線を外した。二人の間に微妙な空気が流れる。
<まもなく、第49回保穂夏祭り、花火大会を行います>
その時、公園に設置してあるスピーカーから、花火大会を始める放送が流れた。
「あ、花火もうすぐだって! 楽しみだねー!」
葵が明るい声で俺に話しかける。きっと葵なりに、この空気を打開しようとしたのだろう。
「・・・・・・あぁ、そうだな。よし、花火見やすいとこ探すとすっか!」
俺は気持ちを切り替える。こんなことで機嫌悪くなってる場合じゃない。
せっかく花火大会が始まるんだ。今からが本番じゃないか。
夏祭りに来ている人達のボルテージが高まっているのを肌で感じながら、俺たちは移動を開始した。

 

 

 

 

ドーン。
花火の打ち上がる音がする。しかしその音の発信源を見ることはできない。
理由は簡単。花火を見るのに適した場所はどこも混雑しており、俺たちが落ち着いて見られる場所が未だ見つからないからだ。
「んー、ここも人でいっぱいかー・・・・・・」
ビニールシートで覆い尽くされた広場を目にして葵がつぶやく。
「なかなかいいとこ見つかんないねー」
残念そうな声の葵に
「そうだなぁ・・・・・・」
俺はため息と一緒に言葉を吐き出す。
混むことは分かっていたが、まさかここまでだとは思わなかった。
「ごめんな、こんなことだったら場所取りでもしときゃよかったな」
葵を歩かせてしまうのが申し訳なくて俺が謝ると
「ううん、翼のせいじゃないよ! みんな花火が見たいんだもん、しょうがないってー」
葵は本心からか、気遣いからかは分からないが、いつもの笑顔を返してくれて俺はなんだか救われる。
「そっか、サンキュ。う~ん、それにしても花火が見える場所ねぇかなぁ・・・・・・」
「どこも木が邪魔して花火が見えないからねー」
今歩いている道の両脇に沿って木はある。
誘導員が赤い光る棒を振りながらしきりに「止まらないで下さい!」と大声を出しているので、おちおち空を見上げて立ち止まることもできない。
「だよなぁ、どっか高いとこがあればいいんだけど」
しかし口には出してみたものの、この公園は平坦で、そんな所はない。
俺は半ば諦めかけた、その時だった。
「翼、こっちこっち!」
葵の声がするのと同時に俺の左手に温かな感触。
そして引っ張られていく俺の体。
「お、おい葵! いきなりまたどうしたんだよ?」
「ダイジョブダイジョブ♪ ボクに任せてー!」
葵のお決まり文句。だがそれが本当に”ダイジョブ”であるとは限らないので、俺は不安になる。
花火の音を背中に聞きながら、俺たちは公園を出た。
それにしても。
なんで葵はなんのためらいもなく手を繋げるんだ・・・・・・。

 

 

 

 

続く

 

 



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