【小説・キミと夏の終わり】第十四話:secret base

【小説・キミと夏の終わり】第十四話:secret base

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。8月終わりだから、今日もこの小説を載せるよー」

2日連続更新なの!

 

※ 目次はこちら。

 

 




 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

第十四話:secret base

 

 

 

 

大きく西に傾いた太陽が、世界を橙色に染めていた。
風が時折この小山の上にある神社へと吹き上げられ、木々をざわめかせる。
まるでサラウンド音声のように、ヒグラシの鳴き声があらゆる方向から聞こえていた。
私の目線の先には人が一人いて、こっちを見ている。
そして私とその人は向かい合った状態のまま、時間だけが流れていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
私も、その人も何も言わない。
入れ替わり立ち替わりずっと鳴き続けていたヒグラシたちが、図ったかのように突然鳴き声をやめた。
神社の裏に、静寂が訪れる。
そしてついに、向こうに立っている人が沈黙を破った。
「・・・・・・こんな所で何してるんだ?」
少し離れた私のところにも届く、男の人の声。
何を考えているかわからない、抑揚のない言い方で彼が言って、どこかでヒグラシが一匹だけ小さな声で鳴いた。
私は彼に聞こえるように、少し声を大きめに返す。
「ボクは、どうしてもやらないといけないことがあって」
そう言ってまた沈黙の時間が流れる。今度は私から彼に問いかけた。
「キミこそ、こんなところで何してるの?」
私の口を衝いて出た言葉は、自分の考えと違うものだった。
私が言いたいのはこんなことじゃないのに。たとえ許されなくても、私は彼に謝り続けなければいけないのに。私の質問に彼は
「・・・別に、何も」
ぶっきらぼうに、そう答えた。
・・・・・・やっぱりもう私の顔なんて見たくないんだろう。あれだけひどいことを言ったのだから、嫌われて当然だ。
耐えきれないほどの空気の重さに、私は今すぐこの場から逃げたかった。だけど一つ、私にはやらないといけないことがある。
許してもらえるなんて思ってない。それでも、私は言わないといけないんだ。
「あのね、翼」
彼に―――翼に。
相槌もうたずに黙っている翼に向って、私は意を決して口を開いた。

 

 

「ごめん!」

 

 

言い終わった瞬間、ヒグラシが一斉に鳴き出した。
大音量のヒグラシの鳴き声を背に、夕暮れの神社の裏でたたずむ二人の人間。
真剣な目の翼と、驚いた顔の私。
「え・・・?」
ごめん、と言ったのは私ではなかった。
翼だ。
あっけにとられている私へ
「昨日は、本当にごめん。葵の気持ち、全然考えずにひどいこと言って・・・・・・」
翼がそう話し出して、私はようやく我に返る。
「え、な、なんで翼が」
「最後まで聞いてくれ」
私の言葉を遮って翼が続ける。
「俺、自分のことしか考えてなかった。自分が被害者面していた。一番辛い思いをしているのは葵なのに」
「・・・・・・」
「葵は言い出しにくかったんだと思う。この引っ越しは、葵がお父さんに着いていくと自分から言い出したものって美咲から聞いた」
翼の言う通り、本来なら私はこの街を離れる必要はなかった。だけど私はお父さんに単身赴任をさせて、また家族ばらばらになるのがイヤだった。
だから私は一緒に引っ越す道を選んだ。しかしそれは、翼と離れるのを自分で選ぶということでもあった。
それが、私が翼に引っ越すことを言い出しづらかった一番の理由だった。
「だからこそ、俺は葵を気遣わなければいけなかった。なのに俺は」
「違う!」
私は叫んだ。
「ボクが、ボクがいけなかったんだ。ボクにもっと勇気があれば。ボクがもっとしっかりしていれば・・・!」
自分で引っ越すことを選んだのだから、私は自分で翼に伝えないといけなかった。なのに私はホントのことを言わないで逃げた。
「ボクが・・・・・・ボ、ボクが言わなかったのが悪いんだ。ボクが・・・・・・」
私は泣きそうになった。だけど必死にこらえる。泣いたってなんの解決にもならない。だけど
「翼、ホントに、ホン、トに、ぐすっ」
引っ越すといわれた日から、ずっと我慢していた涙。
「ごめんなさい!!」
私はその場に力なく座り込んでしまった。涙を流しているところを見られたくなくて、私は両手で顔を覆う。
じゃり、じゃり、と翼が砂を踏んで近付いてくる音が聞こえた。私のすぐ前で音が止まる。そして。
私は抱きしめられた。それはとても優しくて、温かくて。
「つ、翼・・・・・・ご、ごめ・・・・・・」
私の口から耐えきれない声がこぼれ出た。涙を止めようとするけど、止まらない。翼が耳元でささやく。
「もういい。もう、謝らなくていいから・・・」
「ぐすっ、で、でも・・・」
「前に話してくれたよな。葵のお母さんが初めて入院した時、周りに心配かけないためにもう泣かないって決めたって。だから今回引っ越すことが決まった時からも、ずっと泣くの我慢してたんだろ?」
私は嗚咽をもらしながら翼の肩の上で頷く。私はずっと泣くのを我慢していた。
泣いても状況は変わらないないから。お父さんとお母さんに心配かけたくなかったから。
それに泣いてしまったら、平気なふりをしている自分が崩れ去ってしまいそうな気がしたから。
「でもな、無理することなんてないんだ。泣きたくなったら、泣けばいいんだ。我慢する必要なんてないんだぞ?」
翼の優しい声が、私の心の奥まで届く。私は翼の肩に顔を押し当てて、堰を切ったように思いっきり泣いた。

 

 

 

私たちの秘密基地で。
翼と私は神社の縁側に腰掛けて、沈む夕陽を見ていた。
私の右手の上には、翼の左手。
何年かぶりに思いっきり泣いたせいで、まだ少し頭が痛い。きっとまぶたはこの夕陽より真っ赤に腫れているだろう。
でも、すっきりした。涙と共に、心に溜まっていた辛さや悲しみも全て流れ出ていったようだ。
「夕陽、きれいだね」
「おぅ」
薄暗くなってきた神社の裏。
「この天気なら花火、きれいに見えそうだね」
「おぅ」
翼からさっきと同じ相槌が返ってくる。私には翼がなぜそうするのかわかっていた。
「・・・・・・夏休みも、あと少しで終わっちゃうね」
「・・・・・・おぅ」
翼は待っているのだ、私の言葉を。
私は、もう逃げない。

「ボク、明日・・・・・・引っ越すんだ」

ようやく、言えた。それはもっと早く言わないといけなかった言葉。そして、自分の口から伝えなくてはならなかった言葉。
「・・・・・・向こうでも、頑張れよ」
「うん、ダイジョブダイジョブ♪」
私は翼を向いて笑った。嘘のない、心からの笑顔で。
翼も私を見て笑った。偽りのない、心からの笑顔で。
翼の顔が私の顔に近付いてきた。私は少し上を向いて目を閉じる。
もしも今、後ろから私たちを見る人がいたら、それは一つのシルエットになっていただろう。
でも、それを見ることができる人はいない。だってここは、私たちだけの”秘密基地”なのだから。

 

 

夕陽を見てから、星を眺めて。
そして去年と同じ場所、神社の裏から打ち上げ花火を見た。
一緒にいるのは、去年と同じひと。
でも、去年は私のトモダチで、今年は世界で一番大切な私の恋人。
去年の夏祭りの後に交わした約束。

「来年の夏祭りも、一緒に花火見ような」
「うん、約束だよー!」

私はそれを守ることができて、本当に嬉しい。
「約束、守れたな」
不意に、翼がつぶやいた。私と同じことを考えていたようだ。
「そーだね!」
花火が終わった後も、神社の縁側に私たちは座っていた。遠くの方から街の喧騒が少しだけ聞こえる。
「約束守ることができて、本当によかった・・・・・・」
翼は静かな声でもう一度言った。私は翼の顔を見た。すぐに翼は私と反対の方を向く。
「あれ・・・?」
一瞬だけ見えた翼の頬に、光る筋が見えた気がした。
私に顔をそむけたまま、翼はごしごしと腕で顔をこする。
「翼、今のもしかして・・・涙?」
「・・・・・・お前なぁ」
翼はこっちを向いた。呆れた顔をしている。
「そういうのは気付いても言わないんだよ」
「そーなの?」
私が不思議に思って声を出して
「・・・・・・まぁ、それを口に出すのが葵らしいな」
翼は笑った。私も釣られて笑う。
「でも泣きたくなったら泣けばいいって言ってくれたの翼じゃんかー」
私がそう言うと
「ばーか。男はそう簡単に泣いちゃいけないんだよ」
翼は人差し指で私の頭を小突く。そういうものなんだろうか。
「男が泣くなんてかっこ悪いじゃん。さっきの忘れてくれよ」
「んー、無理かなー」
だって1年付き合ってたのに、翼の涙を見たのは初めてだ。私は翼の頬を流れた涙をずっと忘れないだろう。
「・・・・・・そういうのは思ってても無理だなんて言わないんだよ」
「そーなの?」
私が不思議に思って声を出した。
「・・・・・・最後まで葵は葵か」
「ん? ボクはいつでも日向 葵だけど・・・」
また翼は笑った。そして鼻から息をふん、と出すと
「よし! 泣くのはもう終わりだ。明日はお互い泣きっこなし、笑顔で別れようぜ!」
明るい口調で言う。
「うん、そーだね。ボクも泣くのはさっきので最後にする。・・・・・・あと」
「ん?」
「その『別れようぜ』って、その、そういう意味じゃないよね・・・?」
翼の「笑顔で別れようぜ」という言葉に不安になって私は訊いた。翼は一度私の顔をじっと見つめると
「ははは! 何心配そうな顔してるんだよ」
思いっきり笑い飛ばす。その様子を見て私は安堵した。
「別れると言えば、なんで昨日フードコートで『別れよう』なんて言ったんだ?」
首を捻りながら、思い出したように翼は言った。
「葵が本心から言ったわけじゃないのは見てわかったんだけど。なんでだ? 俺のこと、信じられなかったのか?」
不思議そうな翼。やっぱりホントの理由はわかっていなかったみたいだ。私は翼の問いに答える。
「その、逆だよ」
「ん?」
「ボクが引っ越しても翼はきっと連絡くれるし、ボクに会いに来てくれると思う。だからだよ」
私は説明しようとしたけど、うまくできなかった。
「どういうこと?」
「あの時、翼はボクにこのかばんをくれたよね?」
と言いながら私は手にそのかばんを持って示す。翼が付き合って1周年記念にと昨日買ってくれたかばん。翼は頷く。
「それでボクが『高かったでしょ?』って訊いたら翼はこう言った。『今日のために何回か日雇いのバイトやったからさ』って」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「その時に思ったんだ。翼は平日部活があって疲れてるのに、それなのに休みの日を使ってボクのためにバイトしてくれた。翼はボクのことを大切にしてくれるから、もし次の街に行ってもボクが会いたいって言ったら、翼はきっと駆けつけてくれると思う」
翼は無言で聞いている。私は一呼吸おいて、そして続けた。
「だから、迷惑かけちゃうと思ったんだ。翼は優しいから、ボクはきっとそれに甘えちゃうから」
私は説明を終えた。私は説明するのが苦手だけど、一生懸命伝えた。
翼はやや考えて、そして頷いた。私の説明は下手だったが、どうやらわかってくれたようだ。
そう言えば初めて出会った日も、私の拙い説明を理解してくれたんだっけ。
「なるほどな。でも葵は一つ間違ってる」
「え?」
私は聞き返した。
「確かに俺は葵にプレゼントを買うためにバイトをした。でもそれは俺がしたいと思ったからしたことだ」
真剣に話す翼。
「あの時も言ったろ? 『俺は葵から一言もらえれば、それで満足なんだ』って。俺は迷惑だなんて、これっぽっちも思ってない」
「で、でも・・・・・・」
「甘えられたって全然迷惑じゃない。いや、むしろ嬉しいぐらいだよ、好きなやつに頼られんのは」
翼は笑顔になった。夜風が吹き、神社の周りの木がさわさわと音を立てる。私はつぶやいた。
「スキなやつ・・・・・・」
「ん? 俺が葵のこと好きじゃないとでも思った?」
「昨日あんなひどいこと言ったからもう嫌われただろうな、って思ってたから・・・・・・」
私は膝の上で手を握る。翼は言った。
「俺が葵のこと、嫌いになるわけないだろ」
「・・・・・・」
驚きと、嬉しさと、その他いろんな感情が湧き上がってきて、私は何も言えなかった。
でも一つ言えるのは、それは幸せな感情だった。
「なんか言えよ、恥ずかしいじゃんか」
照れくさそうに頭をかく翼。私は自分の今の気持ちをうまく言葉にすることができなくて、だから
「翼!」
翼に思いっきり抱きついてそれを表現した。勢いが強すぎて翼がよろめく 。
「うわ! びっくりしただろ・・・・・・ほら暑いから離れろって」
そうは言うものの本気で引きはがそうとはしない翼。私は自分の気持ちを全て次の言葉に込めた。

 

 

 

「翼、大スキだよ!」

 

 

続く

 

 



ポチっと押してくれたら嬉しいです。


 

 

【連載小説】キミと夏の終わりカテゴリの最新記事