【小説・キミと夏の終わり】第十三話:キミがいない夏

【小説・キミと夏の終わり】第十三話:キミがいない夏

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今回は小説ですー」

いよいよこの小説もあと少しなの!

 

※ 目次はこちら。

 

 

 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

第十三話:キミがいない夏

 

 

 

 

スター夏味堂を出た後、私は駅前商店街を抜け、そして
「次はやっぱりここかなー」
1年半通った青陽学園高校へ来た。
校門をくぐり、並木道を歩いて校舎へと向かう。
幾度となく通ったこの並木道。だけど、私服でここにいることに違和感を感じる。
この校門から校舎へとまっすぐ伸びる並木道は、この学校の名物の一つだ。
春になると満開の桜が、とても美しい。
今は8月末だから当然桜は咲いてないけれど、それでも葉っぱが青々と茂っている今の状態もまた綺麗だった。
並木道の両側はグラウンドになっていて、校舎に向かって左側のグラウンドでは土曜日だけれど野球部が練習している。
もしかしたら野球部のマネージャーである美沙ちゃんに見つかってしまうかもしれないと思って、私は早足で歩いた。
ちなみに翼が入っているサッカー部は右側のグラウンドで練習を行うが、土日は練習がないので誰もいなかった。
昇降口で来賓用のスリッパに履き替え、慣れ親しんだ廊下を通って教室へ向かう。
数年前に建て替えたばかりの校舎は、高校とは思えないほど綺麗だ。
教室に着いて、私はドアを開けた。
「誰もいないやー・・・・・・」
少しがっかりした。夏休みだから誰もいなくて当たり前なのだけど。
私は自分の席に着くと、机に伏せた。この街で過ごした1年半の思い出が頭の中を駆け巡る。

入学式の次の日、クラスの誰とも話せていなかった私に、帰り道の交差点で翼が話しかけてくれたこと。
放課後、あやめちゃんや美沙ちゃん、涼子ちゃんたちや翼と一緒にスター夏味堂へ行ってケーキを食べたこと。
去年の保穂夏祭りに翼と、神社の裏の”秘密基地”で花火を見て、そして付き合い始めたこと。
体育祭の最後の競技、男女混合リレーで私は転んでしまったけど、アンカーの翼が逆転して私たちのクラスが優勝したこと。
バレンタインデーの前の日、美沙ちゃんに手作りチョコレートを作るのを手伝ってもらったこと。
私たちの担任である古川先生が今年60歳で定年を迎えるから10年後、先生が70歳になったらみんなで70歳祝いの同窓会を開こうと盛り上がったこと。

数え切れないほどのたくさんの思い出。そして
「翼・・・・・・」
その思い出の中にはいつも翼がいた。私の横にはずっと翼がいた。
思い出せば思い出すほど、苦しくなる。
教室にいればいるほど、辛くなる。
私は逃げるように教室を後にした。

 

 

 

頭に浮かぶ思いを振り払いたくて廊下を走ったけど、断ち切ることはできなかった。
サイズの大きいスリッパが何度か脱げそうになったりしたけど、私は走った。
誰もいない夏休みの学校の廊下に、ぱたぱたと気の抜けた音が響く。
廊下の角を曲がろうとしたその時、私は人とぶつかった。
「うわ!!」
「おっと!」
あまりスピードが出ていなかったおかげで、その人も私も倒れずにすんだ。すぐに私はぶつかった相手へ謝る。
「ご、ごめんなさい・・・!」
「おや、日向君ではありませんか」
「え?」
名前を呼ばれて、私は頭を上げてその人を見る。
「あ、古川先生!」
ぶつかった相手は、担任の古川 裕次郎先生だった。
「なんで先生がここにいるんですかー?」
「ふふ、教師は夏休みといえどもこうやって学校に来ないといけない日もあるんですよ」
にこやかな古川先生。そして逆に尋ねてきた。
「ところで日向君こそどうしてまだ学校に? 2学期から引っ越すという連絡がありましたが」
そう訊かれて私は、引っ越し先には明日向かい、今は思い出の場所を見て回っているのだと言った。
「そうですか・・・・・・」
「はい。先生には、ホントにお世話になりました」
「去年の春、日向君は人と打ち解けるのが苦手な生徒でした。だけど次の学校はもう大丈夫でしょう。あなたは1年間で大きく変わりました」
古川先生は生徒のことをよくわかっている教師と言われている。私もそう思った。
「ところで、中田君とはこれからもうまくやっていけそうですか?」
「え・・・・・・」
急にそんなことを訊かれて、私は答えに困った。
私と翼との仲は周知の事実だったから、古川先生が知っていることになんら不思議はない。ただ、今の私はその問いに答えにくかった。
「あの、その、もう引っ越すので・・・・・・」
「ふむ、私には引っ越すくらいで別れる二人ではないと思いましたがね」
言いあぐねる私をじっと見る古川先生。その目には見透かされている感じがした。
「・・・・・・ボクが、ひどいことを言ったんです。翼を・・・・・・裏切ったんです」
私がそう言うと、古川先生は眼鏡の奥の目を細めた。
「それで?」
「・・・・・・え?」
「それで、そのままなのですか?」
先生は咎めるでもなく、叱るでもなく、いつものホームルームの時と同じように穏やかな口調で言った。
「でも、もうどうしようもないんです! ボクが全部悪いんだから・・・・・・」
「日向君がそれでいいというのなら、何の問題もありません。でも、それでいいとは思ってないのでしょう?」
私は思った。古川先生はきっと私以上に、私の気持ちをわかっているんだ。
「・・・・・・先生、ボクはどうすればいいのでしょう?」
私は尋ねてみた。古川先生ならきっと正しい道を教えてくれると思ったから。
「それは簡単なことです。自分が悪いことをしたと思うのなら謝ればいい、それだけのことです」
「だ、だけど、もう翼と会うことはないんです」
「日向君は明日この街を離れるそうですね。明日は今日が終わった後にやってきます。まだ今日は終わってないですよ」
悪いことをしたと思うのなら謝ればいい。
明日は今日が終わった後にやってくる。
古川先生が言うことはどれも当たり前のことだ。でも私は、その当たり前のことをわかっていなかった。いや、わかっていたのに逃げていた。
「先生、ボクは許してもらえるでしょうか? ひどいことを言ってしまったのに・・・・・・」
「それはわかりません。ただ一つ言えることは、何かを為した後にする後悔よりも、為さなかった時の後悔の方が大きいということです」
為さなかった時の後悔の方が大きい。その言葉は私の心に深く染みた。
「先生、もう一つ聞いてもいいですか?」
“後悔”という言葉を聞いて、私は気になったことを尋ねてみた。
「私に答えられることならなんでも」
「先生は、為さなかったから後悔していることってあるんですか?」
私の問いに、古川先生は珍しく少し悩んだ。そして
「・・・・・・あります。当時は正しいと思っていたのに、今思い出すと悔やんでも悔やみきれないことが」
苦しそうにそう言った。
「私が相手のことを考えようとしなかったせいで、一つの絆を失いました。もうあの人は私の顔も見たくないことでしょう」
私は確信した。これはきっと菜摘さんのことだ。古川先生も菜摘さんと同じく後悔している。
古川先生は立派な先生だと思う。でも先生もやっぱり、人間なんだね。
私はスター夏味堂で菜摘さんが言った言葉を思い出す。

「今はもう『お父さん、お店に来て』って言う、その勇気もないんだ」

菜摘さんは古川先生に、お店へ来てもらいたいと思っているけど、それを伝える勇気がない。
古川先生は菜摘さんを応援してあげられなかったことを今でも後悔していて、会いに行く勇気がない。
二人とも後悔している。今のままではだめだと思っている。お互いがそれをわかっているのに、踏み出せない。
二人に足りないのは、そして私に足りないのは、一歩踏み出す勇気。
「先生、ボク勇気を出してみます。翼に、謝りに行きます」
菜摘さんから口止めされているので全ては言えない。けど私には黙って見過ごすことなんてできなかった。
「だから先生も、後悔しないように踏み出してください!」
言い終わって、そして私は自分の言ったことに恥ずかしくなった。
「はわわ、ごごごめんなさい! ボクったら先生に向かって何言ってるんだろ・・・・・・」
慌てる私。古川先生は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの柔らかい表情に戻った。
「ふふ、生徒に『悪いことをしたと思うのなら謝ればいい』と言っておいて自分が実践しないのもおかしいですね」
「あ、いや、その、生意気言っちゃってごめんなさい・・・・・・」
「いいえ、教師もまた人間です。お互い成長し合う存在なのです。私も一歩踏み出してみることにしますよ」
古川先生は言った。私ができるのはここまでだろう。後は古川先生と菜摘さんの問題だ。
私はスリッパを今一度履き直して、そして
「それじゃあボク、行きますね! 1年半、ありがとうございました!」
「はい。日向君の新しい街での飛躍を期待していますよ」
古川先生に向かって礼をした。次に先生に会うのはいつになるだろうか。先生の70歳祝いを兼ねた、10年後の同窓会だろうか。
「あなたは本当に真っ直ぐな人ですね。・・・・・・娘たちにそっくりです」
後ろで古川先生が何かをつぶやいたような気がするけど、なんて言ったか聞き取れなかった。

 

 

 

私は学校を飛び出した。並木道を駆け抜け、横断歩道を渡る。
菜摘さんと、古川先生が教えてくれた答え。それは今、私がしなければいけないこと。
「・・・・・・あった!」
私は公衆電話ボックスを見つけた。中に入る。
「えーっと10円、10円・・・・・・」
財布を取り出すためにかばんを開ける。昨日翼がプレゼントしてくれた、クリーム色で少し大きなかばん。
焦る心を必死に抑え財布を取り出した。幸い10円玉はいっぱいあったので、その一つを投入口へ入れる。
私は翼の携帯電話の番号を押した。もう何度もかけて、指が覚えてしまったその番号。
11桁の数字を押して、しばらくの静寂。そして
「現在この電話は電波の届かない所にいるか、電源が入っていないため・・・・・・」
感情のこもっていない女性の声。私は受話器をフックに戻した。10円玉は返ってこない。
私は再び10円玉を入れて、今度は翼の家の電話にかけることにした。
自宅の電話番号は覚えていないので、かばんから手帳を取り出して「な」のページを開く。
『中田 翼』の欄にあったのは翼の携帯の電話番号と住所、誕生日、その他いろいろ。でも
「あれ・・・? ない・・・・・・」
家の電話番号は書かれていなかった。そういえば翼の携帯電話には何度もかけたことがあるけど、自宅にかけたことは一度もない。
「なんでないかな・・・・・・。やっぱりもう、ダメなのかな・・・・・・」
思うようにいかなくて、苛立ちが募る。だけど
「いや、こんなところで諦めちゃダメだ!」
私は考えた。どうやったら翼に会えるだろうか。そして思い付く。
「翼の家に行こう!」

 

 

 

翼の家には何度も行ったことがあった。
学校から電車で30分くらいにある波野駅から、徒歩10分。
土曜日の昼間の車内は、席はだいたい埋まっているけど立っている人はほとんどいない、といった混み具合だった。
部活があるのか、大きなスポーツバッグを持ったジャージ姿の高校生の3人組。
色鮮やかな服を着て、今からの遊ぶ予定を話している女の子たち。
たくさん陣取った席で、高らかに笑い声をあげているいるおばさん達のグループ。
さまざまな人たちがいる中で、私は一人だった。
おばさん達の横に人一人分がぎりぎり座れそうなスペースがあったけれど、私は座らなかった。
いや、座れなかった。今は落ち着いて座っていられる状態じゃない。そして考える。
『何かを為した後にする後悔よりも、為さなかった時の後悔の方が大きい』
古川先生は、私にそう言った。
私は昨日、大きな過ちを犯した。
私から引っ越すことを伝えると信じて待っていた翼のことを、裏切ってしまったのだ。
ひどいことをしたと思っている。
最初はどうせ離れ離れになるのだから、もうこれでいいと思った。
だけど途中で気付いた。それは逃げでしかないということに。
私は謝らなくてはいけない。翼が信じてくれたのに裏切ってしまったこと。
そして今度こそ自分の口から伝えなくてはいけない。私は、引っ越すと。
波野駅のホームに電車が着く。ドアが開くと同時に私は電車を飛び出し、翼の家へと急ぐ。
そして。
翼の家に着いた。団地の6階、一番奥から2番目の部屋。
私は翼に会うために、翼の家までやってきた。
不安は心の中にたくさんある。翼は私に会ってくれるだろうか。もう嫌いになって会ってくれないんじゃないだろうか。
もし会っても、私はちゃんと伝えることはできるんだろうか。
「ダイジョブダイジョブ・・・・・・」
私はドアの前で小さく唱えた。昔、私を助けてくれたお姉さんが教えてくれた魔法の呪文。
気持ちをなんとか落ち着かせて、私は翼の家の呼び鈴を押す。私は逃げ出したくなるのを必死に耐えながら待った。
しばらくの静寂の後、ドアの向こうからばたばたと人が近付いてくる音がする。緊張感が高まる。
その足跡はドアのすぐ向こうで止まり、鍵を開ける音がする。そして―――

ガチャ。

ドアが開いた。
「つば・・・!」
「葵さん! なんでここに?」
ドアの向こうから現れたのは翼ではなかった。そこにいたのは翼の妹の美咲ちゃん。
「美咲ちゃん・・・・・・」
「あれ、今日はお兄ちゃんと一緒に夏祭りに行くんじゃなかったんですか・・・?」
予想外の展開に私は困った。ひとまず翼がいないか尋ねてみる。
「えっと、翼は今家にいないの?」
「え? お兄ちゃんは朝から出てきましたよ。てっきり葵さんと会うからだと思ってたんですが・・・・・・」
「そ、そっかー。わかったー」
私がその場を去ろうとすると、美咲ちゃんが訝しげに訊く。
「あの、何かあったんですか?」
いやちょっとね、約束の時間を間違えちゃって。
私はそう誤魔化そうとして、でも思い直した。
もうこれ以上嘘を重ねるのはダメだ。美咲ちゃんには、本当のことを話そう。
「実はね、美咲ちゃん―――」
私は全てを話した。
昨日、私が翼に『別れよう』と言ったこと。
翼がそれに怒って、帰ってしまったこと。
だけど私は最後にどうしても翼に謝りたいこと。
美咲ちゃんは目を見開いて私の話を聞いていた。私が全て話し終えると
「やっぱり、私が葵さんより先にお兄ちゃんに引っ越すことを伝えたせいで・・・・・・」
美咲ちゃんは俯き、自分を責める。だから私は
「それは違うよ!」
しっかりと言い切った。美咲ちゃんのせいではないことは、はっきりさせておかないといけない。
「美咲ちゃんは何も悪くない。悪いのは全てボクなんだ。ボクがもっと早く、ううん、例え遅くても自分から引っ越すことを伝えていればよかったんだ。美咲ちゃんは全く悪くない」
そして付け加える。
「美咲ちゃんに一つお願いがあるんだ。翼の携帯電話に電話してくれないかな? さっき一回試してみたけど繋がらなくてー」
「は、はい。そんなことでよければ」
美咲ちゃんはポケットから携帯電話を取り出すと、手早く操作して耳にあてた。しかし、首を横に振る。
「・・・・・・ダメです、ケータイの電源切ってるみたいです。ごめんなさい、力になれなくて・・・・・・」
「ううん、ありがとう。それじゃあボクは翼を探しに行くよ」
私は翼の家を後にしようとした。美咲ちゃんが私に声をかける。
「あの、葵さん!」
「どーしたの?」
「私もお兄ちゃんを探すのを手伝います! 葵さんがそうは言っても、やっぱり私にも責任はありますし・・・・・・」
両手をぎゅっと握りしめて言う美咲ちゃん。その申し出はありがたい。だけど
「ありがとう、その気持ちは嬉しいよ。でもね、これはボクがやらないといけないことなんだ。ボク自身の手で翼を見つけないと意味がないんだ」
そう、これは自分でやらないといけないことだ。自分の力でやらないと意味がない。
「だから美咲ちゃんは手伝わなくていいよ。ありがとう」
私はそう言って翼の家を離れようとした。しかし美咲ちゃんがもう一度引き留める。
「あ、あの!」
「ん?」
「今日家を出る時、お兄ちゃん寂しそうだったんです。その時はてっきり葵さんと会うのが最後だからだと思ってたんです。でも違いました。きっとお兄ちゃんも、葵さんに会いたがってるんだと思います」
翼が私に会いたがってる? そんなことありえるのだろうか。私は翼に嫌われてもおかしくないことを言ったのに。
「お兄ちゃんを、絶対に見つけてくださいね!」
美咲ちゃんは私をまっすぐ見据えて言った。私は力強く答える。
「ダイジョブダイジョブ♪ 絶対に見つけてみせるよ!」
私は美咲ちゃんに手を振ると、翼の家を後にした。

 

 

 

とは言ったものの。
私はどうやって翼を見つければいいのか、皆目見当もつかなかった。
少しでも心当たりがある場所をしらみつぶしに当たっていったが、翼は見つからない。
私は空を見上げた。太陽もずいぶん傾いている。時間は着実に、刻一刻と過ぎていた。
「翼・・・・・・。どこにいるの・・・・・・?」
私は近くにあったベンチに座りながら、一人こぼした。
目の前をたくさんの人が通り過ぎていく。こんなに広い街の中で、たった一人を見つけるのは至難の業だ。不可能に近い。
ふと浴衣の人が目に入った。そうだ、今日は夏祭りの日だったんだっけ。
考えることが多すぎてすっかりそのことを忘れていた。もとはと言えば今日は翼と最後に花火を見たかったから、この街に一人だけ残ったのだった。
そういえば、翼と初めて一緒に出かけたのが、去年の夏祭りだっけ。
それを思い出して、私は閃いた。もしかしたら翼は去年と同じ待ち合わせ場所にいるかもしれない!
私は保穂公園前駅へ移動した。駅前は待ち合わせをしている人たちでごった返している。時刻は5時53分。
私は人混みの中から翼の姿を探した。何人か似ている人がいてどきっとしたけど、翼はどこにも見当たらない。
去年の待ち合わせの時間である6時になった。人の数は一向に減らない、というかどんどん増えている気がする。
そもそも翼がこの場所にいるなんて保証はどこにもない。むしろここにいない可能性の方が高いだろう。
今年は待ち合わせ場所や時間を決めていなかったのだ。こんなことならちゃんと約束しておけば――
約束?
頭の中にその単語がひっかかった。
“約束”。
その瞬間、1年前の出来事が脳裏にフラッシュバックする。

「来年の夏祭りも、一緒に花火見ような」
「うん、約束だよー!」

そう、二人で花火を見た後に約束したんだ。来年も一緒に花火を見ようって。
そしてその後。私の台詞。

「来年もまたあそこで見ようね!」

その瞬間、頭の中を電流が走った。
夏祭り、花火大会、約束。
私は走り出していた。約束の地へと。

 

 

 

私は道なき道を登っていた。
保穂公園から少し離れた、小さな山の斜面に私はいる。
あの場所に翼がいなければ、もう私は探しようがない。
翼がそこにいるという確証はない。でもあの場所が、私に残された最後の望みだ。
おそらく去年も通ったであろうこの森の中を数分ほど進み、ついに私は頂上にたどり着いた。
古びたぼろぼろの神社が、向こうからの夕日をバックに輝いている。
私は神社の裏側へと回った。
傾いた西日が目を射して、私は思わず目を閉じた。その時。

ざっ。

人が砂利を踏む音がした。私は手を顔にかざしながら、目をうっすら開ける。
逆光で眩しくてよく見えないが、人がいるのがぼんやりとわかった。
目が慣れてくるにつれて、その人のシルエットがしだいにはっきりしてきたけど、陰になっていて相手の顔は見えない。
でも私には確信があった。
だってこの場所を、この”秘密基地”を知っているのは私と、そしてもう一人しかいないのだから。
「やっと・・・・・・、やっと会えた・・・・・・」

 

 

 

続く

 

 



また「もろたび。」を読んでくれたら嬉しいです。
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