【小説・キミと夏の終わり】第十一話:キミと夏の終わり

【小説・キミと夏の終わり】第十一話:キミと夏の終わり

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今日は小説を載せるよー」

第十一話のタイトルは、小説のタイトルと同じ、大事なところなの!

 

※ 目次はこちら。

 

 

 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

第十一話:キミと夏の終わり

 

 

 

 

8月29日、金曜日。
つまり引越しの前日、私は翼を待っていた。
思えば私が翼を待つのは初めてのことかもしれない。
いつも翼は私よりも先に待ち合わせ場所に来ている。
そんな翼が今日は約束の時間である12時になっても現れないので、私は少し不安になっていた。
「翼、どうしたんだろ。事故とかじゃないよね・・・・・・」
今までに翼を待つことなどなかったので、私はどうすればいいかわからなかった。その時
「わりぃ! 待たせちゃったな!」
右から聞こえる、待ちわびていた人の声。
声の方を振り向くと、翼が私の方へ真っ直ぐ自転車に乗ってやってくるのが見える。
目の前でキキッとブレーキの音をたてて、いつもの見慣れた自転車が急停止した。
「遅れてごめん、ATMが思ったより混んでてさ・・・・・・マジでごめん!」
「全然気にしてないよー、3分しか遅れてないしねー」
両手を合わせて謝る翼に、私はおかしくなって笑みがこぼれる。
私の返答に、翼はほっとした表情をした。そして
「じゃあ後ろに乗って! 今日は買い物だったな!」
自転車の荷台を指し示す。私たちのデートはいつもこうだ。
待ち合わせをして、翼の自転車に乗って。
そして映画館や公園へ行って、翼の自転車に乗って帰ってくる。それが定番のパターンだった。
翼の自転車の後ろ。そこが私の指定席だ。
私は自転車の荷台に、私の指定席に座る。翼の背中に手を当てると、少し汗ばんでいた。
きっと遅れないようにと一生懸命こいできてくれたのだろう。そんな心遣いが嬉しい。
「よし、んじゃ行くか!」
翼が自転車をこぎ始めた。二人分の体を乗せた自転車がゆっくりと加速する。
ほどなくしてスピードがついてきて、自転車を切る風が涼しく感じられるようになった。
「・・・?」
ふと、私は違和感を感じた。何かがいつもと違う。
なぜだろう? いつものように私は自転車の荷台に座って、いつものように翼は自転車をこいで・・・・・・あ、そうか、わかった!
違和感の正体。それは会話が全くないことだった。
私から話しかけることもあるけれど、普段はもっぱら翼が話しかけてきてくれる。だけど今日はそれがない。
それに気付いた瞬間、話さないでいることがなんだか急に居心地が悪くなってきて、私は翼に話しかけることにした。
「あ、あのさ、翼」
「ん!?」
グラッ。
私が話しかけた直後、珍しく翼がバランスを崩した。
「うわ!!」
「ご、ごめん、ミスった。・・・・・・で、どうした?」
そう聞かれると、何で今日は会話がないの? と聞くのもなんか変な気がしたので
「いや、今日は買い物どこ行くのかなーって」
代わりにそう訊いた。
「・・・・・・あぁ、まだ言ってなかったっけ? 坂江に行こうかなって思ってるけど、どこか行きたいところあった?」
「いや、そういうわけじゃないよー。坂江ね、わかったー」
坂江はここから自転車で30分程の距離にある、若者向けの衣料品やアクセサリーのお店が集まったエリアだ。
あやめちゃんたちともよく行く。といっても私はたいていほとんど何も買わないけど。
「葵は何か欲しいものある?」
「え? うーん、そーだなー・・・・・・」
私はファッションに興味がない。お化粧もしたことないし、ブランド物を欲しいと思ったこともない。
いろいろと考えて、そしてひとつ欲しいものがあったことを思い出した。
「あ、そういえばー」
「ん? 何か思い付いた?」
「ボク、かばんが買いたいなー」
私は月曜日にかばんの肩紐が切れていたのを思い出した。だから今は瑞希に借りたかばんを代役にしている。
「へ、かばん?」
「うん、いつも使ってたやつが壊れちゃってねー」
「そっか、なるほどね」
いつものように会話が生まれて、いつものようにたわいもないおしゃべりをする。
このなんでもないようなやりとりが、今となってはすごく幸せな時間だったんなって思う。
それからしばらくして私たちは坂江に着いた。
ずらっと自転車が並ぶ道端の空いた所に自転車を止めて、二人でファッションビルの中へ入る。
洋服とか小物の雑貨などのお店をひやかしながら回って
「お、あそこにかばん売ってるお店があるぜ」
翼がかばん屋さんを見つけたので二人で入った。
「何かいいかばんはあるかなー」
「どんなかばんがいいんだ?」
「うーん、そーだなー・・・・・・。前みたいに肩から掛けるやつがいいかなー」
そう言って私は一つ手に取ってみる。
「ちょうどこんな感じの形のやつ。これはちょっと派手すぎるけど・・・・・・」
こんなにピンクのかばんはちょっと恥ずかしい。私は元の位置に戻した。
「なるほどな~。・・・・・・ん、これなんかどうだ?」
翼が一つ持ってきて私に見せる。
「どれどれー? ・・・あ、それいいかもー!」
そのかばんはクリーム色で少し大き目の肩に掛けるかばんで、隅に小さく入ったヒマワリの刺繍がかわいい。
「値段は・・・うわ、こんなにするのー!」
値札を見てびっくり、そのかばんは1万円以上した。財布の中には7000円くらいしかない。
「これはちょっとお金足りないや・・・・・・。他のにするー」
しかし私は買える値段のかばんをいろいろ探したけど、さっきのよりもいいかばんは見つからなかった。
「何も買わなくてよかったのか?」
「うーん、あのかばんはお金足りないし、だからって中途半端なやつを買うのももったいないしねー」
確かにあのかばんはよかったけれど、お金が足りないのだから仕方がない。
翼に借りようかな、とも思ったけれどやめた。
だっていつ返せるかわからない。私は、引っ越すのだ。
「なんか表情暗いな、大丈夫か?」
翼が私の顔を覗き込んで言った。どうやら表情に出てしまったようだ。私は慌てて取り繕う。
「そんなことないよ! あ、ちょっとおなか減っちゃったかもー」
「ならそろそろ飯にすっか」

 

 

 

「ごちそうさまでしたー」
空っぽになった器の前で手を合わせる。
かばん屋さんを出た後、私たちはレストランフロアを見て回ったが
「高っ!」
「たっけぇ!」
千円札一枚じゃ買えないご飯ばっかりだった。
私も翼も高いものは買わない人間だ。デートの時はいつもそうだった。
結局今日もレストランはやめにして、フードコートで翼はラーメンセットを、私はオムライスを買ってそれを食べた。
食べ終わり一段落して
「あ、俺トイレ行ってくるからちょっと荷物見ててくれない?」
「うん、いいよー」
翼が席を立った。私はセルフサービスの水をグラスに入れてきて、それを飲みながら考える。
「うー、どうやって切り出そー・・・・・・」
ここまでは話を切り出す機会がなかった。しかし今日という今日は翼に引っ越すことを伝えなくてはいけないのだ。
月曜日に引っ越す話を聞いたのに、先延ばしにしてついに金曜日になってしまった。
しかも引越しは明日。言うのは今日しかない。
頭ではわかっている。わかってはいるんだけど・・・・・・行動に移すことができない。
翼がどういう反応をするかが怖かった。だってもし翼が――
「お待たせ!」
「うわ!!」
私の後ろから翼の声がした。私はびっくりして体が飛び上がる。
「いくらなんでもびっくりしすぎだろ」
苦笑しながら私の前の席へ着く翼。そしてその手には見覚えのない大きな紙袋。
「あれ? その紙袋は何ー?」
私が尋ねると翼がそれを私に渡す。
「さてなんでしょう。開けてみて」
わけもわからないまま私は紙袋の中にあるものを取り出した。すると
「こ、これって、さっきのかばん!?」
紙袋の中に入っていたのはさっきのお店で見つけた、手が届かなくて買えなかったあのかばんだった。
「葵がこれだいぶ気に入ってたみたいだからさ。俺からのプレゼント」
にこにこ顔の翼。
「はわわ、で、でも、悪いよ・・・・・・」
「いや、1周年記念だからアクセサリーとかプレゼントしようかと思ったんだけど、それよりも葵の欲しいものをあげたかったしさ~」
「で、でも・・・・・・」
「だから俺は葵から一言もらえれば、それで満足なんだ」
翼はそう言って私をじっと見る。私は大きく息を吸い込んで
「翼・・・ホントにホントにホ~ントにありがとー!!」
心の底からお礼を言った。翼は私の言葉に満足そうな表情を浮かべる。
さっそく私はかばんを背負ってみた。少し大きめなのが、ゆったりしていてちょうどいい。
「似合う?」
「おぅ、可愛いな」
可愛いと言われて少し照れくさくなる。
「でも、これ高かったでしょ・・・?」
私は肩からかばんをおろして、改めてもう一度眺める。
「まぁ安くはないな。でも今日のために何回か日雇いのバイトやったからさ」
「バイト・・・?」
翼がバイトしてたなんて、そんなのまったく知らなかった。
「部活のない日にバイトしたんだ。けっこう頑張ったんだぜ」
そう言って笑う翼を見て、私は心を決めた。
言おう。

「翼・・・・・・」
「ん?」
「ボク、翼に言わなきゃいけないことがあるんだ」
「・・・・・・」
固い顔になる翼。そして私は言った。

 

 

「別れよう」

 

 

周囲の音が一切聞こえなくなった。
私たちがいる空間だけが周りから切り取られたかのような、そんな感覚。
翼は目を見開いて固まっている。
私は黙って俯いた。
時間が流れる。それはずいぶん長かったような気もするし、一瞬だったような気もする。
沈黙を打ち破ったのは、翼だった。
「別れよう、って冗談だよな・・・?」
私は顔を上げないまま首を横に振る。翼が言う。
「意味わかんねぇよ、なんでだよ・・・・・・。理由を言ってくれよ」
しかし私はその問いに答えず、黙って下を向いていた。
再び沈黙の時間が流れる。
「・・・・・・引越しをするってことさえ言ってくれないのか」
「え・・・?」
私は顔を上げた。なんで翼がそれを知っているのだろう。まだ翼には言っていなかったのに。
それを口に出さずとも、翼がその理由を答えた。
「おととい、美咲から聞いた。瑞希ちゃんから連絡があったって」
・・・・・・そうだった。
翼の妹の美咲ちゃんは私の妹の瑞希と同級生で、以前うちに泊まりに来たこともあったくらい仲がいい。
瑞希から美咲ちゃんに連絡が行くことは少し考えればわかることなのに、すっかり忘れていた。
「美咲は俺が、葵が引っ越すことを聞いてないのを知ってかなり驚いてたよ。俺は葵の・・・・ ・・彼氏なのにな」
そう言って翼は自嘲気味に笑った。
「そして俺も驚いた。なんで葵は教えてくれないんだろうって。だけど俺は待つことにした。葵が自分の口から言ってくれるのを信じて」
静かに言葉を紡ぐ翼。
「でも葵からは一向に連絡がなくて、もしかしたらこのままいなくなっちゃうんじゃないかって不安になって、だから昨日電話したんだ。そしたら今日の買い物に行くって答えたから、きっと今日言ってくれるんだろうって思った」
「・・・・・・あの、・・・・・・えっと」
私は何か口に出そうとするが言葉にならない。翼は続ける。
「それが・・・・・・その待っていた結果が・・・・・・『別れよう』だって・・・・・・?」
翼が下を向いた。肩が小刻みに震えている。
私は自分の声を絞り出して言った。
「・・・・・・あ、あのさ、つば」

「ふざけんな!!」

私の言葉を遮り、翼は立ち上がって大声を出した。私は固まる。
近くにいる人たちが私たちの方を見るのがわかった。
「俺たちって、所詮その程度の仲だったのかよ!!」
翼が叫んだ。
翼の顔は、今までに見たことないくらい怖い表情だった。
そして翼の目は―――今までに見たことないくらい、悲しい目だった。
「あ・・・・・・」
私は口をぱくぱくさせていた。頭の中が真っ白で、何も考えられなかった。
翼は立ったまま、大きく息を吸い込んだ。私は首をすくめる。しかし
「・・・・・・怒鳴って、悪かった」
翼は小さな声でそう言った。
私がおそるおそる目を合わせると、翼はすぐに視線を外した。
そして自分の荷物を乱暴にひっつかむと、向こうへと歩きだした。
呼び止めようと思ったけれど、できなかった。だって傷付けたのは、私だから。
追いかけようと思ったけれど、できなかった。だって傷付けたのは、私なんだから・・・!
私は去っていく翼の背中を、ただただ呆然と見ていた。
翼は振り返らない。振り返ったら私も何か言えるかなかと思ったけど、それもできなかった。 そして翼は見えなくなってしまった。
周りの人たちが何やら噂しているけれど、耳に入らない。
私の腕の中には、翼がバイトをして買ってくれた、クリーム色の少し大きなかばん。
私はそれをぎゅっと抱きしめた。新品特有のにおいがする。
悲しかった。だけど涙は出なかった。私は冷たい人間なのかもしれない。
私はしばらく呆然としていた。

 

 

 

「・・・・・・ただいま」
私はリビングのドアを開けた。
「おかえりなさい、葵。早かったわね」
お母さんが言った。時刻はまだ5時、当然日もまだ沈んでいない。きっと今日は夜まで出かけるのだと思っていたのだろう。
私もそのつもりだった。でも実際は、私は翼を怒らせてしまい一人で帰ってきたのだった。
「まぁお姉ちゃんは明日の夏祭りもあるからねー、お姉ちゃんばっかりいいなー」
瑞希が言った。そしてその隣には女の子がもう一人。
「お邪魔してます、葵さん。葵さんは明日、お兄ちゃんと夏祭りに行かれるんですね」
そこにいたのは翼の妹の美咲ちゃん。引っ越す前の日に、瑞希に会いに来たらしい。
「夏祭り・・・・・・」
私はつぶやいた。そうだ、夏祭り。
翼と夏祭りに行くために、私は一人この街に残ることを昨日お父さんとお母さんに頼み込んだのだった。
せっかく許してもらったのに、翼とはケンカ別れになってしまった。
「明日は夜遅くなるだろうから気をつけなさいね。もしできたら中田さんのおうちに泊めていただきなさい」
今さら翼とケンカしたから夏祭りに行かない、なんて言えない。私は曖昧に返事を返した。
「うちでしたら全然かまわないですよ。よかったら私のベッドを使ってください」
「美咲、明日は最後の夜だから翼さんの部屋で熱い一夜を過ごさないと!」
「わぁ、瑞希ったら!」
瑞希と美咲ちゃんはわいわい盛り上がっている。
「まったくこの子は誰に似たんだか・・・・・・」
お母さんはため息をついていた。私は居づらさを感じて、部屋に行くねと言い残しリビングを後にした。
自分の部屋のドアを開ける。引っ越し業者が全て持って行ったので、何一つ物が置いてない殺風景な部屋は、私の沈んだ気持ちをさらに煽る。
私はベッドが置いてあった場所に行くと、床の上で大の字になって寝転がった。
ベッドがない分、天井が以前より高い。
外でセミが鳴いているのが聞こえる。この鳴き声は、ヒグラシだっけ。
仰向けの体勢のまま窓の外を見ると、入道雲が夕方の空に湧き上がっていた。
この街の夏も、もうすぐ終わる。すぐに秋になって、学校の並木道の葉っぱは今年も綺麗に色づくだろう。
そして、私の高校2年生の夏ももうすぐ終わる。
季節が移り変わっていくように、人は常に変化してゆく。
年月がその歩みを止めることがないように、人は成長して大人になっていく。
この街での出来事も、翼との思い出も、その変化していく上での、成長していく上での一つの通過点なのかもしれない。
去年の夏に始まった私とキミとの関係は夏の終わりと共に、終わりを迎える。
キミと夏の終わり。
「これで、よかったんだよね・・・・・・」
私はつぶやく。その言葉に答えるかのように、ヒグラシが一匹鳴いた。
「翼、今までありがとう。それと」
一呼吸置く。

「さようなら」

ヒグラシの声が小さくなっていって、そして止んだ。

 

 

続く

 

 



また「もろたび。」を読んでくれたら嬉しいです。
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