【小説・キミと夏の終わり】第十話:一年前の約束

【小説・キミと夏の終わり】第十話:一年前の約束

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。土曜日に更新ができなかったけど、今日は小説でーす」

 

※ 目次はこちら。

 

 




 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

第十話:一年前の約束

 

 

 

 

8月28日、木曜日。
玄関の方が騒がしくて目が覚めた。
窓の外を見てみると家の前にトラックが一台とまっている。どうやら引っ越し業者らしい。
そういえば昨日の夜、お母さんが業者の人が来るとかそんなようなことを言っていたような気がする。
だけどその時も私は返事もせず自分の部屋に閉じこもったのだった。
お母さんには火曜日に大声で怒鳴って以来、一度も口をきいていない。
一体私は何をやっているんだろう。お母さんは何も悪くないのに。
「・・・・・・今からお母さんに謝ろう」
私はパジャマから着替えて、階段を下りる。
廊下で引っ越し業者の人とすれ違った。こんにちは、とあいさつを交わす。
今まで引っ越しをする実感がなかったけれど、改めて荷造りの作業を見ると現実に引き戻される。
おかしいな、引っ越しは今までに何度も経験してきたのに。
リビングにに入ると、お母さんは業者の人と話し合っていた。
お母さんが私に気付いて話しかける。
「おはよう、葵。葵も部屋の荷物今日中にまとめてね」
「あ、あのお母さ」
Trrrr・・・
私がお母さんに謝ろうとしたその時、私の言葉を遮って電話の音が部屋に響いた。お母さんがすまなそうに言う。
「悪いけど葵、電話に出てくれないかしら? 今ちょっと大事な話をしてるから」
「う、うん・・・・・・」
謝るのを切り出すタイミングを失った私は、仕方なく電話の子機を取った。
「はいもしもし、日向です」
『中田 翼ですけど・・・・・・葵か?』
ドクン。
心臓が口から飛び出そうなくらい私は驚いた。
いつもは一番聞きたくて、そして今は一番聞きたくなかった声。
「つ、翼!?」
私は思わず大声を出してしまい、お母さんと業者の人が私の方を向いた。私は恥ずかしくなって
「ちょっと待ってて!」
翼にそう伝えると子機を持ったまま自分の部屋へ戻った。後ろ手にドアを閉めて
「・・・・・・も、もしもし?」
『うん。今まずかった?』
「へ、平気だよー。・・・・・・それで、何か用?」
自分の不自然な態度を追及されないように、私は翼を促した。
『・・・・・・あぁ。明日のことなんだけどさ』
「明日・・・?」
明日は何かあったっけ。明日は8月29日、金曜日・・・あ!
『・・・・・・もしかして忘れてた?』
「わ、忘れてないよー! 一緒に買い物行く約束でしょー?」
正直、忘れていた。土曜日に引っ越すということでどたばたしていて、それどころではなかったからだ。
『おぅ。それで明日って・・・・・・行ける?』
私は考えた。明日は引っ越しの前日だからいろいろと片付けもあるだろう。
でも、だけど。
「・・・・・・ダイジョブダイジョブ。何時に待ち合わせする?」
私は、翼に会いたい。
『ん、そうだな・・・・・・』
待ち合わせの時間と場所を決める。すると翼が
『そういえばさ、あさっての夏祭りなんだけど・・・・・・』
そう切り出してきた。私の脳裏に去年の夏祭りの光景が浮かび上がる。
お父さんに買ってもらったヒマワリの柄の浴衣を着て、屋台をいろいろ見てまわって。
人が多い公園を抜けだして、近くの山の上にある神社の裏で一緒に花火を見た。
打ち上げ花火の後は二人で花火をして、そして――私たちは付き合うことになった。

「来年の夏祭りも、一緒に花火見ような」
「うん、約束だよー!」

そう約束した、夏祭りの夜。
『花火、一緒に見れそうか?』
受話器から聞こえる翼の言葉に私は考える。
夏祭りは土曜日の夜、私たち一家はその日の朝にこの家を出ることになっている。
だから私は花火を見ることはできないのだけど。
「・・・・・・うん。ダイジョブだよ」
去年翼と交わした約束。私は、それを守りたい。
私は決めた。お父さんとお母さんに相談して、私一人この街に残って花火大会を見させてもらおう。
花火大会の次の日は日曜日だから、引っ越し先には後で一人で行けばいい。
『ほ、ホントか!? そっか、よかった!』
喜ぶ翼に、私は言いかける。
「あ、あのさ、翼」
『・・・・・・どうした?』
今日こそ引っ越しをするって言わなくちゃ。
「えっとね・・・・・・」
『・・・・・・』
翼は何も言わない。私は息を吸い込んで、そして
「・・・・・・明日、楽しみにしてるね」
『お、おぅ。じゃあな』
ピッ。
私は電話を切った。結局言えずじまい、また逃げてしまった。
こうなったら直接言うしかない。明日、絶対に言う。
それが私に残された、最後のチャンスだ。

 

 

 

引っ越し業者の人は実にてきぱきと荷物をまとめていった。
私も自分の部屋の荷物を箱に詰める。
夕方には、引っ越し業者の人は残りの生活に必要な最低限の物だけを残し、梱包した荷物を運んで帰って行った。
「なんかすっきりしたね~」
瑞希がリビングを見渡して言う。ソファーもテレビもない部屋は広々として見えた。
「そうね。さて、じゃあご飯にしましょうか。といってもコンビニのお弁当だけど」
お母さんがそう言ってビニール袋から取り出す。
冷蔵庫はもちろん、調理器具や食器も全て詰めてしまったので料理のしようがない。
「家の中でコンビニ弁当食べるなんて変な感じ~」
「悪いわねぇ、瑞希。葵もどれか選んでね」
お母さんが私に話を振る。そういえば結局謝る機会を逸したまま夜を迎えてしまった。
「お、お母さん」
「何かしら?」
普段通り私に接するお母さんの姿に、私は今までの罪悪感が一気に噴き出した。
「ごめんなさい!!」
「え?」
お母さんは、いきなり私が大声を出したので驚いていた。頭を下げたまま私は続ける。
「お母さんはちっとも悪くなんかないのに、なのにあたったりしてごめんなさい! 怒鳴ったり無視したりしてごめんなさい!」
下を向いたままの私の視界に、お母さんの足が近付いてくるのが見えた。そして両肩にそっと手を置かれる。
「葵、そんなに自分を責めないで。ほら頭をあげて」
私が前を向くと、そこにはいつもと変わらないお母さんの優しい笑顔。
「いきなり引っ越しが決まって、大好きなみんなとも離れ離れになっちゃうんだから葵が混乱するのも当然よ。お母さんは気にしないからなんでも言いなさい。子供の言うことをなんでも聞くのが親の仕事だから」
「・・・お母さん!」
私はお母さんに抱きついた。お母さんはしっかりと受け止めてくれて、温もりが伝わってくる。
「辛い思いをさせちゃってごめんね。私が病弱な体じゃなかったらよかったんだけど」
「ううん、お母さんは何にも悪くないよ」
お母さんの温もりで、ずっと心につっかえていたものがとれていったような気がした。
「素晴らしい親子愛だこと。このハンバーグ弁当いっただき~」
瑞希がからかうようにそう言って、私はおなかが減っていたことを思い出した。
「あ、私もハンバーグ弁当がいいのにー!」
「へへーん、早い者勝ちだよーだ」
「またそれー!?」
「こらこら食べ物でケンカしないの、もうこの子たちったら」
あと2日しかいれらないこの家に、久しぶりの笑い声が響く。
「やっぱり日向家は明るくなくちゃねー」
とハンバーグを口に運びながら瑞希。結局私はから揚げ弁当になった。
「そうよ、笑う門には福が来るんだから」
微笑むお母さん。その時一つ私は思い出した。朝、翼と電話した時に考えたこと。
「お母さん、お願いがあるんだけど」
「あら、何かしら?」
「お母さんのお弁当の海老天がほしいんじゃないの?」
瑞希の言葉を無視して私は続ける。
「土曜日に・・・・・・ボクをこっちに残らせてほしいの」
お母さんは少し考える。そして
「翼君と一緒に夏祭りへ行きたい、ってこと?」
「うん」
私は正直に答える。
「そうね、この家の鍵は土曜日の朝に返しちゃうからここには泊まれないけど、どうするの?」
「わかんない。翼の部屋に泊めてもらうかもしれない」
「わぉ! お姉ちゃんついに大人になっちゃうのかー!?」
「瑞希」
「・・・ごめんなさい」
瑞希を一瞥した後お母さんがまた私を向き直り言った。
「葵ももう大人だものね、自分のことくらいできるわよね。わかりました、お父さんには私からも一緒にお願いします」
「え、ホントに?」
あっさりとOKをもらえたのでびっくりした。
「お父さんの仕事の都合であなたを引っ越しさせるわけだし、これくらい大目に見ないとね」
「お姉ちゃんいいなー、私も花火見たかったー」
弁当を完食した瑞希が言う。
「・・・って食べ終わるの早っ!」
「そう? まぁ食べ盛りだからー」

 

 

 

夜、お父さんが帰ってきた後、お母さんと一緒に引っ越しの日に一人だけ残らせてもらうお願いをした。最初はお父さんも
「年頃の娘を残しておくわけにはいかん!」
と反対していたけど、お母さんが
「あなたの仕事の都合で引っ越しさせるんですよ。それくらい了承してあげてください」
と言ってからはお父さんも答えに窮するようになった。
最終的にはお母さんの「この子はもう大人なんだから大丈夫です」という声でお父さんはついに折れた。
ややしょげているお父さんがお風呂に入りにリビングを離れて
「お母さん、ボクのことを応援してくれてホントにありがとー!」
私はお母さんにお礼を言った。
「ふふふ、私にできることはこれくらいしかないから。翼君によろしくね」
「うん!」
「いいなーお姉ちゃんばっかりー」
瑞希が口を尖らせて言って
「でも瑞希、彼氏いないじゃん」
私は何気なく一言。
「な!? お姉ちゃんひどいよ・・・・・・」
「はへ? ボク何か悪いこと言ったー?」
「・・・お姉ちゃんの天然にも困ったものだわ」
「・・・・・・はへ?」

 

 

 

私は部屋に戻ってふとん(ベッドは引越しの人に片付けられた)の上に寝転がった。
土曜日の夜、夏祭りへ行く許可も貰った。明日翼と会う時にそれを伝えよう。
でも何よりも。
「引っ越すってことちゃんと伝えなきゃなー・・・」
そう、それが一番重要なことだ。明日会って、直接伝える。
「ボクが自分で引っ越すことを選んだって聞いたら、翼怒るかなー・・・?」
私が翼に引っ越すことを言い出しにくい一番の理由は、そこにある。
お父さんは私たちを気遣って単身赴任すると言ってくれた。
けれど家族がばらばらになるのがイヤだった私は、一緒についていくことを決めた。
そしてそれは、翼と離れることを選ぶということでもあった。
「うー、緊張するなー・・・・・・」
翼はなんて言うだろう。笑って見送ってくれるのだろうか、それとも――
一瞬、頭の中を最悪のシナリオがよぎって、私は頭を振ってそれをすぐにかき消した。
引越しの日まで、あと2日。

 

 

続く

 

 



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