【小説・キミと夏の終わり】第九話:友情よ永遠に

【小説・キミと夏の終わり】第九話:友情よ永遠に

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。土曜日は小説の日!」

 

※ 目次はこちら。

 

 




 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

第九話:友情よ永遠に

 

 

 

 

8月26日、火曜日。引越しの話を聞いた次の日。
昨日なかなか寝付けなかった私は、朝刊が家のポストに入れられる音を聞いてからようやく眠りに着いた。
そのせいで、目を覚ましたのは午後1時過ぎだった。
昨日のことは夢だったかもしれないと、ベッドの上で天井を見上げながら一人思う。
部屋の中は暑い。窓の外からセミたちが激しい大合唱を繰り広げていているのが聞こえる。
ふらついた足取りで階段を下りてリビングへ行くと、部屋中にたくさんの段ボール箱があった。
「おはよう葵。今日から順番に片付けていくから、葵も自分の荷物まとめてね」
私に気付いたお母さんが言った。私は返事をせずに洗面所へ向かう。
冷たい水で顔を洗うと意識が徐々にはっきりしてくる。そしてそれに比例するように、心の中は重たくなっていった。
昨日は家族がばらばらになるのがイヤで自分も一緒に引っ越すといったけれど、それは翼と離れるのを選ぶことになる。
でも私が下した決断を、ちゃんと知らせなくちゃいけない。タオルで顔を拭きながら私は決心した。
リビングで受話器を取り、今まで何度もかけてもう覚えてしまった翼のケータイの電話番号を私は一つずつ押していく。
最後の一つを押そうとした時、私は気付いた。
今日はサッカー部の練習がある日だから、今翼は電話に出られないだろう。
私はそう考えて、持っていた受話器を急いで元の位置に戻した。
「翼は部活中なんだもん、仕方ないよね」
私は自分にそう言い聞かせる。
・・・・・・嘘だ。
私は逃げている。
本当は怖いだけだ、翼に連絡するのが。
だから適当な理由をつけてそれを後回しにしているだけなんだ。
私はリビングを飛び出し階段を駆け上がった。
後ろでお母さんが「葵?」と呼ぶのが聞こえたけど私は無視して自分の部屋に入り、ベッドにうつぶせで倒れこむ。
・・・・・・自分が嫌いだ。
翼に連絡することができない臆病な自分が。
お父さんに着いていくと決めたことに後悔し始めている自分が。
そして何より、翼と離れることを選んだ自分が。
泣きたかった。でも私は耐える。
泣いたところで何も解決しないし、それに私はもう泣いてはいけないと昔決めたからだ。
7歳の誕生日以来、私は一度も泣いていない。昨日だって我慢した。
だから今だって。
ベッドに突っ伏したまま頭に浮かぶのは、この街で過ごしてきた一年半の思い出。
楽しかった。ホントに楽しかった。今まで過ごしてきた中で一番素敵な時間だった。
そして。
その思い出の中にはいつも翼が私の横にいた。
嬉しい時も悲しい時も。いっぱい話をしたし、時々ケンカもした。
もし翼がいなかったら、今の私はどうなっていたか想像もつかない。
・・・・・・翼と離れたら、私は一体どうなってしまうのだろう。
怖い。
私は不安と恐怖に押し潰されそうになる。
私は頭が痛くなりそうなくらい、思いっきり左右に振った。
そしてまたベッドに顔をうずめる。

 

 

 

いつまでそうしていただろう。日はすっかり傾いていた。
外から聞こえる音は昼のそれと違い、どこか寂しげな鳴き声のセミに代わっていた。ヒグラシ、だろうか。
「・・・・・・・・・」
私は無言で立ち上がった。頭が少しくらくらする。
そろそろ翼も部活が終わる頃だろう、電話をしなくちゃいけない。
ぼんやりとした頭でそう考えながら、ゆっくりと階段を下りてリビングに入る。
リビングは数時間前に見たときより物が少なくなっていた。いくらか段ボール箱に詰めたのだろう。
私は電話の子機を取る。その時
「葵、大丈夫?」
お母さんが後ろからやってきて私に尋ねた。私は無言を貫く。
「今からでも引っ越すのをやめていいのよ?」
優しい声で語りかけるお母さん。私は心臓が苦しくなった。そして
「・・・そんなこと言わないでよ!!」
私は叫んだ。今日、初めて声を出した。
お母さんが私の大声に驚く。私はいたたまれなくなって、その場から逃げだした。
また階段を駆け上がり、また自分のベッドに倒れこむ。
なんでお母さんの「大丈夫?」という問いに答えることができなかったんだろう。
私は自分自身で、お父さんに着いていくのを選んだのではなかったのか。
「なんで・・・・・・私は・・・・・・」
私は声にならない呻き声をあげる。
「引っ越すのをやめていいのよ?」と言われた時に、一瞬心が揺らいでしまった自分に腹が立つ。
そしてそれをお母さんに八つ当たりしてしまった自分に、更に腹が立つ。
「ボクは・・・・・・ボクは、お父さんについて行くんだ」
私は自分に言い聞かせる。と、同時に頭に浮かぶ大スキな人の顔。
そうだ、連絡しなきゃいけない。もう夕方、サッカー部の練習も終わっているだろう。私はリビングにいた時からずっと握り締めていた電話の子機を見る。
「・・・・・・まずは、みんなから」
私は翼にかける前に、いつも一緒だった3人のトモダチに電話をかけることにした。
携帯電話を持っていない私は、いつもこの子機から電話をかけている。
昨日肩ひもが切れてしまったかばんから手帳を取り出して、電話番号が書いてあるページを開いた。
「最初に、あやめちゃん」
手帳を見ながらあやめちゃんの携帯番号をプッシュする。
あやめちゃんはいつも明るい女の子で、一番たくさん遊んだトモダチだ。しばらくコール音がした後
「もしもし葵ちん? どした~?」
いつもと変わらないあやめちゃんの明るい声。私は今まで彼女からどれだけの元気をもらっただろう。
「あやめちゃん、あのね、実は・・・・・・」
「うん、なに~?」
「ボクね・・・・・・引っ越すことになったんだ」
一瞬の沈黙。
「にゃ!? 葵ちん、それ冗談でしょ?」
「ううん、ホントだよ。次の土曜日に引っ越すの」
「そ、そんな・・・・・・」
再び沈黙。私は彼女に感謝の気持ちを述べる。
「あやめちゃん、今までホントにありがとー! あやめちゃんといる時間はすっごく楽しかったよー」
「葵ちん・・・・・・。あ、あたしも楽しかったよ~! そうだ、明日とか空いてる? 引っ越す前にもう一回集まろうよ~! 美沙ちんと涼子ちんも呼んでお別れパーティーしよ~!」
あやめちゃんと美沙ちゃんと涼子ちゃん。私たちは4人でよく集まっていた。
「うん、空いてるよ。でも美沙ちゃんも涼子ちゃんも忙しいんじゃ・・・・・・」
美沙ちゃんは野球部のマネージャーだから、毎日学校に行っていると前に言っていた。
涼子ちゃんも弓道部に入っている上に、生徒会で体育祭の打ち合わせが大変らしい。
「葵ちんが引っ越すっていう時に忙しいもへったくれもないって~! 絶対あたしが説得するから!」
「あはは、ありがとー。あ、でも二人にはまだ電話してないからちょっと待って。引っ越すことは自分の口から伝えたいからさ」
「OK~、じゃあまた後で連絡するね~」
「うん、じゃあねー」
私は電話を切った。あやめちゃんの声を聞いて、少し気が楽になった気がする。ありがとう、あやめちゃん。
手帳のページを再び開いて、今度は美沙ちゃんに電話をかける。少し経って
「はい、神楽 美沙です。葵?」
美沙ちゃんが電話に出た。美沙ちゃんは私にとってお姉さんみたいな人で、いろんな相談事を聞いてもらったりした。
「うん。今時間ダイジョブ?」
「えぇ、部活が終わってさっき家に着いたところよ。どうしたの?」
「実は―――」
私が土曜日に引っ越すことを告げると、美沙ちゃんはとても驚いた。そして
「葵、引っ越すまでに空いている日はある? みんなでお別れ会しましょう」
あやめちゃんと同じ提案をする。
「あはは、あやめちゃんもそう言ってたー。でも野球部のマネージャーの仕事はいいのー?」
私が聞くと美沙ちゃんは強い口調で言う。
「当たり前よ、あなたが引っ越すっていうのに部活に行ってる場合じゃないわ。いくらでもサボるわよ」
真面目な美沙ちゃんから『サボる』なんて言葉を聞く日が来るとは思わなかったので、私は思わず笑ってしまった。
「ありがとー! まだ涼子ちゃんに連絡してないから、また後で連絡するね!」
「わかったわ。また後で」
「うん、バイバーイ」
自分の仕事よりも優先してくれるなんて。ありがとう、美沙ちゃん。
私は電話を切った。今度は涼子ちゃんの番号にかける。
「こちら本多です。葵か?」
涼子ちゃんにはテスト週間になるたびに勉強を教えてもらったりしてお世話になった。
私は先程の二人と同様、次の土曜日に引っ越すことを伝える。
「・・・・・・本当、なのか? いや、葵はそんな嘘をつく人間ではないな」
いつも冷静な涼子ちゃんの声が、少しうろたえているように聞こえた。けれどすぐに落ち着いた声に戻って、そして
「そうだ葵、ここを離れるまでに空いている日はないか? みんなで送別会をしよう」
あやめちゃんと美沙ちゃんと同じことを言ったので、私はついおかしくなって笑った。
忙しいのに時間を作ってくれるなんて。ありがとう、涼子ちゃん。
みんな、本当に優しい。
その後みんなと何度か連絡を取り合って、明日の午後からお別れ会をすることになった。
引越しの日まで、あと4日。

 

 

 

8月27日水曜日、つまり次の日の午後、私たち4人はあやめちゃんの家でお別れ会を開いた。
「うわー、おいしそう! これ全部作ったのー?」
「当たり前よ、3人とも腕によりをかけて朝から作ったんだから!」
スープにサラダ、ハンバーグなど色とりどりの手作り料理。そして
「スター夏味堂のケーキもあるよ~ん!」
よく4人で行ったケーキ屋、スター夏味堂のホールケーキ。たくさんのフルーツが載っている。菜摘さんが作ってくれたんだろうか。
ごちそうを食べながら、私たちはこの一年半の思い出話に花を咲かす。
「体育祭のリレー、みんなでガンバったよねー」
「葵はあの時転んだけど、すぐに立ち上がったものね」
「涼子ちん、前はあんなに料理が下手だったのに成長したね~」
「う、うるさいぞ、あやめ」
「最初のオリエンテーションの時にあやめが大量におやつを持ってきたことがあったわね」
「だっておやつのお金、300円以内って書いてなかったんだもん!」
「美沙が文化祭のミスコンテストで優勝した時は盛り上がったな」
「あの時もスター夏味堂で打ち上げしたんだっけー」
話は尽きない。たくさんおしゃべりをして、いっぱい笑って、そして楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「・・・・・・あ、もうこんな時間だわ」
美沙ちゃんが時計を見ていった。時間はもう9時を回っていた。
「む。門限がとうの昔に過ぎてしまった」
「え~、もう帰っちゃうの~。もっとしゃべろーよ~!」
しまったという顔をする涼子ちゃんを、あやめちゃんが引き留めようとする。
「名残惜しいけれどこのままじゃ際限ないし、そろそろお開きね」
美沙ちゃんが言う。あやめちゃんは不満そうな顔をしていた。もちろん私もまだみんなといたいけど、いつまでも一緒にいることはできない。
私はみんなにお礼を言った。
「今日はボクのためにこんなに素敵なお別れ会を開いてくれて、ホントにありがとー!」
「当たり前よ、私たち親友じゃない!」
「美沙ちんの言う通り! 葵ちんのためならえんやこら~」
「二人に同じだ。そして」
涼子ちゃんが私に紙袋を渡す。
「みんなからの餞別だ。受け取ってくれ」
「”せんべつ”って何ー?」
私が訊くと
「お別れのプレゼントのことよ。開けてみて、気に入ってくれるといいんだけど」
美沙ちゃんが苦笑しながら私に説明する。私は袋の中のものを取り出した。
透明なプラスチックケースに入っていたそれは、ヒマワリの花をモチーフにした写真立てだった。
「あまりにも急だったからこれくらいしか用意できなかったんだけど。どうかしら?」
「すごく嬉しー! ありがとー! ・・・・・・あれ? もう一つ入ってるー」
私は紙袋にもう一つ何かが入っていることに気がついた。それは色違いで同じデザインの写真立て。
「なんで二つあるのー?」
私が聞くとあやめちゃんがにやっと笑って言った。
「一個はあたし達との写真用、もう一個は翼っちとの写真用だよ~ん。せっかくあたし達があげた写真立てなのに翼っちとの写真を入れられてあたし達のこと忘れられたら困るもん。なんちって~」
「翼との写真用・・・・・・」
ズキン。
しばらく忘れていた翼のことを思い出して胸が痛んだ。
いや、忘れてたのではない。無意識のうちに頭が翼のことを思い出すのを拒否していたのだろう。
「・・・・・・葵、もしかして」
私の顔を見て美沙ちゃんが私に言う。
「もしかして中田君に引っ越すことまだ伝えてないの?」
さすが美沙ちゃんだ。私のことはなんでもお見通しだ。
「・・・・・・うん」
「え~! まだ言ってないの~!」
私が正直に答えると、あやめちゃんが目をまん丸くして驚いた。
「まさか葵、彼に何も言わないで引っ越すつもりではないだろうな」
涼子ちゃんの言葉に私は慌てて否定する。
「ち、違うよ! ただなんて言えばいいかわからなくてまだ言ってなかっただけ! ちゃんと言うよ!」
「ふむ、ならよいのだが」
「葵、約束して。絶対に伝えなくてはダメよ」
美沙ちゃんが私をまっすぐ見ていった。あやめちゃんが横槍を入れる。
「でも高校に入るまでさんざん女の子を傷つけてきた翼っちだから、一回くらい女の子に逃げられても仕方ないかもね~」
「「あやめ!!」」
美沙ちゃんと涼子ちゃんが同時に怒る。
「冗談だよ~、そんなに怖い目で見ないでってば~・・・・・・」
二人に睨まれて小さくなるあやめちゃん。私はそれを見てくすりと笑う。
「ダイジョブダイジョブ、約束する。ちゃんと翼に言うよー」
「そう、それならよかったわ」
ほっとする美沙ちゃん。すると今度は何かを思い出したような表情に変わった。
「そういえば、まだあなたに言ってなかったことがあるの」
「はへ? 何ー?」
「去年の夏休み明け、あやめからあなたと中田君が付き合ってるって聞いた時のことなんだけどね」
美沙ちゃんが話し始め
「ふむ、あのことか・・・・・。確かに私たちは葵に伝える義務があるな」
涼子ちゃんが頷いた。私は去年の夏休み明けのことを思い出す。
確か、あやめちゃんが夏祭りに私と翼が一緒に歩いているのを見つけたらしくて、2学期の始業式の日に
「葵ちん、夏祭りの日に中田君と歩いてたけど、もしかして付き合ってるの~?」
とあやめちゃんが私に聞いた。私が
「うん、そーだよー」
と答えたら、次の日にはクラス中がそのことを知っていたということがあったっけ。
別に私は隠すつもりじゃなかったから、みんなに知られてもよかったのだけども。
「それでね、中田君って中学時代の噂が悪かったから心配になって・・・・・・。私たち3人で中田君を放課後呼び出したの。そのこと、中田君から聞いてない?」
身に覚えのない私は首を横に振る。
「そう、じゃあきっと私たちの仲が悪くならないように気遣ってくれたのね。それでね、その時私は中田君に『あなたは本当に葵のことが好きなの? 遊んでるんじゃないの?』って聞いたのよ」
美沙ちゃんは私に申し訳なさそうに言った。涼子ちゃんが話す役目を受け継ぐ。
「しかし彼は『確かに疑われても仕方ない。けど今回は違う。俺はあいつのおかげで変わった。葵がマジでスキなんだ』と言い切った。彼の目は偽りを言う目ではなかった」
涼子ちゃんがそう話して、今度はあやめちゃんが口を開く。
「だからあたし達も翼っちを信じることにしたの。『もし葵ちんを傷つけたりしたら、絶対に許さないからね!』って脅したりもしたけどね~。でもその必要もなかったみたい!」
「葵が選んだ人だから私たちも信じたかったけど、もしかしたら騙されてるんじゃないかっていう気持ちも拭えなくて・・・・・・勝手な真似をして本当にごめんなさい」
「すまない、葵」
「ごめんね、葵ちん」
3人が頭を下げた。
「はわわ、ち、ちょっと、みんな頭上げてよー」
私は慌てて言う。ほっぺたを掻きながら
「もちろん今の話を聞いてびっくりはしたよー。でもみんなはボクのためを思ってやってくれたことなんだし、むしろ嬉しかったー!」
そう、私は3人の話を聞きながら思った。3人は私のことを心の底から心配してくれる、本当のトモダチなんだって。
「だから全然謝ることなんかないよ、ボクの方がお礼を言いたいくらい! ありがとー!」
私は笑顔で感謝の言葉を述べた。するとあやめちゃんが
「葵ちん・・・!」
「うわ!!」
私に急に飛びついてきた。あやめちゃんは、泣いていた。
「やだよ~! 葵ちんが転校しちゃうなんて、そんなのやだ~!!」
私の肩に顔を押しあてて泣き叫ぶ。
「こら、あやめ。そんなこと言って葵を困ら、せない、の・・・」
美沙ちゃんもそう言いながら、自分の目頭を押さえた。
「そうだが・・・・・・やっぱり寂しい。寂しいぞ、葵・・・・・・」
普段何があっても動じない涼子ちゃんまで、瞳に涙が溜まっている。
「あ~お~い~ち~~~ん!!」
大声で泣くあやめちゃん。私はそんな彼女を優しく抱きしめて頭を撫でた。
「あはは、そんなに泣かないでよー、一生会えなくなるわけじゃないんだからー。離れてたってずっとトモダチだよー!」
私は笑顔で言った。今まで私は3人にたくさん助けられてきた。だからせめて最後は、私が励ます側になりたいのだ。
「葵・・・!」
美沙ちゃんも私に抱きつく。
「ず、ずるいぞ二人とも。私だって」
そして涼子ちゃんも。笑顔の私を囲んで3人は泣いていた。
「もうみんな泣きすぎだよー! それに苦しいってばー!」

 

 

 

「それじゃあねー」
地下鉄の駅。駅まで来てくれたあやめちゃんとも、違う方面の列車に乗る美沙ちゃんと涼子ちゃんともここでお別れ。
「これで・・・・・・ホントにホントの最後なの?」
悲しそうにあやめちゃんが言う。美沙ちゃんが
「さっき決めたばかりでしょう。葵も引っ越しの作業で忙しいから、もう会うのは最後にするって」
「わかってるよ~。でも、でも最後なのかと思うと・・・・・・」
沈んでいるあやめちゃんに私は言う。
「・・・・・・最後じゃないよ」
「え?」
「最後なんかじゃない。ボクたちはずっとトモダチだから、また会えるよ!」
私がそう言うと、3人も微笑んだ。
「うむ、そうだな。私たちの友情は永遠だ。また会える」
「そだ、美沙ちんが雅志っちと結婚式を挙げる時とかにも会えるしね~」
「あ、あやめ!!」
「あ、美沙ちん顔が赤い~」
「うるさいわね、大体何で私なのよ」
「だって涼子ちんに彼氏ができても、お父さんにあいさつ行った時点で破談になっちゃうし~」
「・・・・・・父上のことは、触れないでくれ」
一緒にいられる残りわずかな時間まで、私たちの関係は変わらない。
これからもずっと、私たちの友情は続いていくだろう。
「ほら、それに同窓会だってあるしー!」
「同窓会? あぁ、古川先生の古希祝いを兼ねたやつだな」
私たちの去年の担任、古川先生は今年が60歳、定年退職の年だった。
だから10年後の8月(先生の誕生月だ)に、先生の70歳祝いを兼ねて同窓会を開くっていう計画があったんだっけ。
「10年後の8月・・・・・・随分遠いわね」
「あたしたち27歳だよ、おばさんだ~」
「27歳でおばさんは早すぎないか?」
「でもさー、みんな大人になってるんだろうなー」
10年後、私たちはどうなっているのだろう。
その時、構内に地下鉄がまもなく来るというアナウンスが流れた。
ついにお別れの時。私はみんなの方に向き直って口を開いた。
「今日はホントにありがとー! それじゃあ・・・またねー!」
「えぇ、また会いましょう!」
「葵ちん、じゃあね~ん!」
「次に会う時を楽しみにしてるぞ!」
お互い手を振る。私は最後に一言。

「10年後の8月に!」

 

引越しの日まで、あと3日。

 

 

続く

 

 



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