【小説・キミと夏の終わり】第七話:約束

【小説・キミと夏の終わり】第七話:約束

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。土曜日は小説の日!」

いよいよ第一章、クライマックスなの!

 

※ 目次はこちら。

 

 




 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

第七話:約束

 

 

 

 

今度は私が翼の数段後ろを歩いていた。
今ならなぜ、さっき翼が私と距離を置いて歩いていたのか分かる気がする。
翼に詰め寄ってしまった自分が悔やまれた。
その翼は何も言わずに数歩先をゆっくりと歩いている。
私は3分前、そう、わずか3分前に起こったことを思い返した―――

 

 

 

「葵のことがスキだ」
「・・・・・・・・・・・・はへ?」
聞き間違いだろうか。いや、でもこの静けさで、この距離だ。そんなわけはない、と思う。
ということはつまり、翼は私のことがスキと言ったわけで、ということはつまり
「え!? はわわわわ・・・・・・あ、その、えっと・・・・・・」
自分が告白をされたとことを理解した瞬間、私の脳は大混乱をきたした。
「驚かせちゃってごめんな。だけど、どうしても伝えたかったんだ」
そんなに大きくない低い声なのに、私の耳に、そして私の心にしっかりと届く翼の言葉。
「俺は葵がスキだ。だから、もし葵がよければ俺と付き合ってほしい」
「あ、えっと・・・・・・」
まだ頭の中が真っ白の私。翼はそんな私を優しく見ていた。
「返事は今すぐじゃなくてもいいよ。俺、待ってるから」

 

 

 

翼は最後にそう言って、一人で歩き出してしまった。
私は慌てて着いていこうとしたが、隣に並ぶ勇気がなかった。
そして今に至る。
余裕のない私とは対照的に、翼は頭の後ろで手を組みながら悠々と歩いている。
そんな翼がなんだかちょっぴり恨めしい。
「はぁ・・・・・・」
私はため息をついた。
私にとって翼はトモダチであり、付き合うとかそういうのは考えたこともなかった。
翼も私のことを、友達の一人として見ているのだと思っていた。
それ以前にそもそも、恋だの彼氏だのは、私には全く関係ない世界だと思っていた。
「なのに、ねー・・・・・・」
翼にスキといわれたその瞬間まで、翼が私のことをそんな風に思っていたなんて全く気付かなかった。
これじゃあ回りに「にぶい」と言われても仕方ない。
「むー・・・・・・」
私は額に皺を寄せて考える。私は一体どうすればいいのだろう。
私は、翼のことをどう思っているのだろうか。
好きか嫌いかと訊かれたら、もちろん好きだ。
私が高校に入ってまだ誰とも話すことができていなかった時、最初に話しかけてくれたのが翼だった。
それをきっかけに仲良くなって、トモダチを作れるか不安だった私を、翼は励ましてくれた。
翼のおかげで私は少しずつ話せるようになって、トモダチができた。
翼は、引っ込み思案だった私を変えてくれた。
「えっとさー、葵」
いつの間にか、私を変えてくれたそのひとは石段を降りきっていた。
「もう遅いし、家まで送っていくよ」
数歩先から私に語りかける、今まで何度も私を助けてくれた声。
・・・・・・そっか。
「翼」
「ん?」
答えなんて、最初から決まってたんじゃん。

 

「ボクも、翼のことがスキだよ」
私は心の底から笑顔を浮かべて答えた。

 

「え・・・・・・」
目を見開いて固まっている翼。しばらくして、急に堰を切ったように早口で喋り出した。
「え!? ってことは俺と、つ、付き合ってくれんの?」
「そーだよ」
「だけど俺、女癖悪かったんだよ?」
「前はそうだったかもしれないけど、ボクの知ってる翼はそんな人じゃないし。それにもう変わったんでしょ?」
「そ、それはそうだけど・・・・・・。マジで俺なんかでいいの?」
自分が告白したのに、やたらと否定的な翼。
「うん。というか、翼だからいいんだよ」
私がそう答えると、ようやく翼の質問攻めが終わった。
私の返事に驚いていた翼の顔は、徐々にいつもの優しい笑顔に変わっていく。
それを見て、私もなんだか嬉しくなる。
自分のスキな人が、自分をスキでいてくれるということ。
それってホントに幸せなことだと思う。
「じゃあ葵、改めましてこれからよろしくお願いします」
翼はそういって、まだ石段を降り終わっていない私に手を伸ばす。
「・・・・・・うん!」
私はその手を握るため、一歩踏み出した。その瞬間
「うわ!!」
私は足がもつれてしまった。体が石段から浮く。
「・・・え?」
どすーん。
私は倒れてしまった。というか落ちた。いや、それよりも
「ダイジョブ!?」
「・・・おぅ、俺なら大じょ」
「あーよかったー、金魚生きてたー!」
私が左手にある袋を目の位置に掲げると、三匹の金魚は無事泳いでいた。私はほっと胸を撫で下ろす。すると
「あのー・・・・・・」
私の下の方から声がした。ん、下?
私は下を見て、自分の状況を理解するのに4秒。そして
「はわわわわ! ご、ごめん!!」
慌てて私は翼の上から飛びのいた。どうやら私は翼の上に落下したみたいだ。
「金魚の方が心配される俺の扱いって・・・・・・」
大の字で仰向けになったまま呟く翼。
「はわわ、えっと、翼もダイジョブだった?」
私が急いで翼に尋ねると、翼は目を閉じた。そして胸が小刻みに震えだす。
も、もしかしてあまりにも痛かったから翼は・・・・・・
「はははははは!」
「・・・・・・はへ?」
翼は突如大声で笑い出した。そして
「ははは! 葵らしいや。俺のことより金魚の心配をするなんて」
「ごごごごめんなさい!!」
私は顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。
翼は立ち上がって、服を軽く払うと
「いや、いいんだ。俺は葵のそういうところをスキになったんだから」
翼は笑いを噛み殺しながら言った。
よくわかんないけど翼がいいならそれでいいのかな?
でも改めて「スキになったんだから」という言葉を聞くと照れてくる。
きっと今の私の顔は真っ赤になっているに違いない。
「そ、そーなんだ」
「お、おぅ」
会話もなんだかぎこちない。翼が後ろ髪をがしがしと掻いて、私は頭を動かさず目だけをきょろきょろとあっちこっちへ動かす。
二人とも黙ってしまい、沈黙が続いた。私はそんな状態を打開しようと
「はい!」
右手を翼に差し出した。それを見て翼はきょとんとした顔をしたので
「ほら、さっき家まで送ってくれるって言ったじゃんかー? だから・・・・・・」
一つ呼吸を挟み、私は言う。私たちが出会った時の、最初の言葉を―――

「一緒に帰ろう」

それを聞いて、翼がふっと笑って左手を伸ばした。そして私が差し出していた手の平を、しっかりと掴む。
手の平に薄い汗と温もりを感じた。
この温もりを二度と手放したくなくて、私は握る手に力を込める。
「もう、離れて歩くなんてイヤだよ・・・・・・」
「・・・・・・おぅ。さっきは寂しい思いをさせちゃって、ごめんな」
私の顔のすぐ右で言う翼。なんだかとってもどきどきする。
そんな私に追い討ちをかけるように翼は言葉を続けた。
「約束する。これからはずっと一緒だ」
そう言って指を互い違いに絡ませる。
すごく恥ずかしかった。だけどその何倍も、何十倍も嬉しかった。
翼を見ると、自分で言ったくせに翼も恥ずかしそうな表情だった。変な翼。
「それじゃあ、行くか」
「うん!」
私たちは一緒に歩き出した。二人の間に距離は、もうない。
電灯の光によって作り出される、手をつないだ二つの長い影。
「来年の夏祭りも、一緒に花火見ような」
不意に翼がぽつりと言った。
「うん、約束だよー!」
「おぅ、約束だ。はは、今日は約束ばっかりだな」
これからはずっと一緒だという約束。
来年も一緒に花火を見るという約束。
私は信じている。翼は約束を破らない人だって。
そして私も、この約束を絶対に守ろうと思う。
「来年もまたあそこで見ようね!」
私は山の上にある神社の方向を指さしてそう言った。
「おぅ、あの場所は葵と俺だけの間の秘密な!」
「うわー! なんか秘密基地みたい!」
秘密基地。そう、あの場所は私たちだけの秘密基地だ。
高校1年生、8月25日、夏休み最後の土曜日の夜。
私に秘密基地と、大切なひとができた。

 

 

「―――というわけで去年の夏祭りの日に、ボクと翼は付き合うことになったんです」
新幹線の車内で、私は長い話に一区切りつけた。
私が話している間、おばあさんは笑顔で聞いてくれていた。
「それは素晴らしいお話だねぇ」
おばあさんは目を細める。
喋りっぱなしだったので喉が渇いた私は、お茶のペットボトル(今度は自分で買った)を開けて飲んだ。
「翼と一緒に居られる時間は、嬉しくって楽しくって・・・・・・」
夏祭りの日から、キミとはたくさんの話をしたし、冒険もいろいろしたね。
私はキミと居られて、ホントに幸せだった。いつまでもこの時間が続けばいいと思っていたのに。
「だけど、先週のことです」
あの日がやってきた。楽しかった時間に終わりを告げる日が。
「今から話すことが、ボクが今ここに居る理由です」
今まで話したことは、この話の導入部に過ぎない。そう、本題はここからなのだ。
「あら、一体何があったのかしら?」
私はすぐに答える事ができず、一つ深呼吸をする。
正直、この話をするのは辛い。だけど、私は現実と向き合わなければいけない。
「はい。ボクが今一人で新幹線に乗っている理由となった出来事。それは先週の月曜日、8月25日に突然起きました」
8月25日。その日は折しも翼と付き合ってちょうど一周年の日だった。
そしてその日から、私たちの運命は大きく狂いだす。
だけど私は運命を恨もうとは思わない。悲しかったけれど、でも、約束したから。
私が乗っているこの新幹線は、しばらくの間止まらない。私も前に進み続けないといけないんだ。

 

 

続く

 

 



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