【小説・キミと夏の終わり】第五話:二人の花火大会

【小説・キミと夏の終わり】第五話:二人の花火大会

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。土曜日は小説の日~」

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キミと夏の終わり

 

 

 

 

第五話:二人の花火大会

 

 

 

 

赤、青、緑。
鮮やかに光を放つ巨大な花火が、夏の夜空に咲き誇っていた。
それらは眼下に広がる街を一瞬照らし、そしてまた次の花火が打ち上がって代わる代わる街を照らす。
花火が花開くのより幾分か遅れて、大きな破裂音がここ―――山の上の神社裏まで届いていた。
「きれいだねー!」
花火は開始から30分たった今も、とどまることを知らないかのごとく夜空にその存在を示していた。
「マジでここ、特等席だな!」
「うん、いいとこだねー!」

 

 

 

「あ、葵! ここ道じゃないぜ!」
保穂公園で花火をよく見える場所を探していた、あの後。
私たちは保穂公園から少し離れた所にあった山に登っていた。
暗い林の中を、街の明かりや花火の輝きを頼りにして進む。
「ダイジョブダイジョブ♪ 向きはこっちであってるからー」
私は道なき道を進みながら答える。小さい頃から外で遊んでいた私にとっては、こんな道へっちゃらだ。
さっき屋台のおじさんにもらった金魚の袋をあまり揺らさないように気をつけながら、山の斜面を登る。
「ってか一体どこ向かってるんだよ? 山に登ったって、公園と同じで木ばっかりだから花火見えねぇだろ?」
後ろから翼が悲鳴に近い声を上げる。
「うーん、もうそろそろだと思うんだけどなー・・・・・・。あ!」
大きな茂みをかき分けると視界が開けた。どうやら私が目指していた場所に着いたようだ。
「どうした? ・・・・・・ん? ここは・・・・・・神社?」
そう、ここが私が目指していた場所。私たちの目の前には古い神社があった。もう使われていないのだろうか、すごくボロボロだ。
「こんなとこに神社があるなんて知らなかった・・・・・・」
「ほら、翼! こっちこっち!」
私は神社の裏側へ回る。そこは―――
「すげぇ! めっちゃ花火がよく見えるじゃん!」
神社の裏側は、少しせり出した崖になっていた。そこだけは木がないので視界を遮るものは何もない。
その向こうには大きく広がる夜の街、そしてその上には花火の咲き乱れる夜空があった。
「ここなら花火がよく見える! やったね!」
私は飛び跳ねようとして、金魚の袋を持っているのを思い出し踏みとどまった。
金魚の袋を神社の欄干にかけていると、翼が不思議そうな顔をして私に訊く。
「でもどうしてこんな場所知ってんだ? 地元の俺でも知らなかったのに・・・・・・」
「ボクだって知らなかったよ。でも公園からここが見えたんだー」
「・・・・・・葵、視力すげぇな」
私の視力は2.0だ。
「それより花火見よーよ! ほら、ここ座って!」
私は神社の縁側に腰掛けて、自分の隣を叩いた。
「お、おぅ。・・・・・・失礼しまーす」
翼がそっと私の横に座った。これでようやくちゃんと花火が見える。
私は目の前に広がる世界を眺めた。
そして。

 

 

 

赤、青、緑。
鮮やかに光を放つ巨大な花火が、夏の夜空に咲き誇っていた。
それらは眼下に広がる街を一瞬照らし、そしてまた次の花火が打ち上がって代わる代わる街を照らす。
花火が花開くのより幾分か遅れて、大きな破裂音がここ―――山の上の神社裏まで届いていた。
「きれいだねー!」
花火は開始から30分たった今も、とどまることを知らないかのごとく夜空にその存在を示していた。
「マジでここ、特等席だな!」
「うん、いいとこだねー!」
ひと際大きな紫色の花火が上がって、上がり続けていた花火が止まって静かになった。
「あれ? もう終わりー?」
「いや、まだあるはずだ。多分次の花火の準備なんかじゃねぇかな」
翼が言い終わってまもなく、花火が再開した。
「あ、あの花火の形、土星みたい!」
中心の円に輪っかのような形の光がついた花火が上がった。
「そっか、次は仕掛け花火だな」
「仕掛け、花火?」
私が首を傾げると、翼は説明してくれた。
「さっきの土星の形の花火みたいに、普通のやつとは違った花火を打ち上げるんだよ」
翼の言う通り、その後も破裂した後にきらきらと光の粒が輝く花火や、くす玉のように光の糸が垂れ下がるものなど、変わった種類の花火が立て続けに上がる。
「きれいだなー! 翼は毎年この花火大会に来てるの?」
三色の光が花の形になる花火を見ながら、私は翼に尋ねた。
「あぁ、そうだな」
「いいなー、こんなにすごい花火を毎年見れてー。誰と来たの? 家族?」
翼の家はお父さんがいなくて、お母さんと妹と暮らしていると前に翼から聞いた。しかし
「・・・・・・・・・いや、友達」
翼が答えるとき一瞬少し暗い顔をしたように見えたので、私はこれ以上訊かないことにした。
ドーン。
また花火が上がる。
「あ! 今の花火、笑っている顔の形だったよ! さかさまだったけどー」
「おぅ、見たぜ。スマイリーだな」
光の円の中に目が二つと、弧を描く曲線が一本。笑顔の花火だ。
ドーン。
今度は右ななめに傾いているスマイリー。
「スマイリー、ガンバれー!」
私は拳を握り締めて応援する。
ドーン。
次は左奥に潰れたスマイリー。
「ガンバれー!」
私は花火に向かって声援を送る。そして
ドーン。
「わー・・・!」
夜空に綺麗に咲いた、大きな笑顔。
その笑顔はなんだかすごく優しくて、けれど一瞬で消えゆく自分の儚い運命を知っているようなちょっと切なく、穏やかな笑顔だった。
「翼、今の見たー? すごくかわいい笑顔だったねー!」
「おぅ。・・・・・・でも俺は、」
「ん?」
私が翼の方を向くと
「・・・・・・いや、なんでもねぇ」
翼はそう言ってむこうを向いてしまった。変な翼。

 

 

 

最後に数え切れないほどたくさんの花火が打ち上げられて(翼いわく、スターマインってゆーらしい)1時間半に及ぶ花火大会は幕を閉じた。
「楽しかったー! 今まで見た花火大会の中で一番よかったー!」
「おぅ。俺も、今までで一番楽しかった」
「一番って・・・今日の花火大会は今までのと違うのー?」
毎年来ているはずの翼も一番と言ったので、気になった私が訊いてみると
「そういう意味じゃないけど・・・・・・まぁ、今回のは特別だったな」
翼がどことなく真面目な表情で言う。今回の花火は特別だったのかな、そうだとしたらそれを見た私はとてもラッキーだ。
「そーなんだー。でもよかった、翼と来れて。一緒に来てくれてありがとー!」
こんなにいい花火大会を危うく見逃すところだったけど、翼のおかげでいい思い出ができた。
「いやいや、俺こそ葵と来れてよかったよ、マジで」
「ホント? よかったー。いきなり誘っちゃったりから迷惑だったらどうしようとかちょっぴり不安だったよー」
私がそういうと、翼は一つため息をついて、何事か呟いた。
「はへ? 何か言ったー?」
「あ、いや、別に・・・・・・」
またも歯切れの悪い翼。サッカー部の練習の疲れが残っているのかもしれない。
「さて、花火も終わったしそろそろ帰ろっかー」
私は立ち上がってお尻をはたいた。その時
「あ、葵っ!」
翼が私を呼び止める。
「ん? どーしたの?」
「あ、あのさ・・・・・・」
翼は自分のかばんの中に手を入れて何かを探している。そして
「花火持ってきたんだけど、やんない?」
翼が取り出したもの、それは手持ち花火の詰め合わせだった。
「花火! やるやるー!」

 

 

 

万が一神社に燃え移ったりしたら大変なので、私たちは石段まで移動して花火を始めた。
打ち上げ花火は綺麗だったけど、手で持つ花火もとっても楽しい。
「見て見てー、星型の残像!」
「じゃあ俺は二刀流!」
花火はどんどん減っていって、残りは線香花火だけとなった。
花火の詰め合わせについていたろうそくはもう溶けきってなくなってしまったので、翼はマッチを擦って火を点けてくれた。
神社の石段に腰掛けて、線香花火をしながら学校のこと、トモダチのこと、家族のことなどいろんなことを話す。
「へー、翼の妹も中2なんだー」
「おぅ。もしかしたら葵の妹と同じクラスだったりしてな」
翼の妹が私の妹と同い年らしい。意外な共通点があって、なんとなく嬉しい。
「もしそうだったらすごいよねー! ・・・あ」
私の線香花火の先から火の玉がぽとりと落ちた。すぐ横で翼のも落ちる。
「あ、俺のやつも落ちちゃった。残りは・・・・・・ちょうど二つか」
「じゃあこれで最後だねー」
「・・・・・・そうだな」
翼がマッチ箱からマッチを取り出す。私はそれを黙ってみていた。
車の音がかなり遠くの方からわずかに聞こえるだけで、神社は静寂に包まれている。
翼のマッチを擦る音がやけに大きく聞こえた。
「・・・・・・・・・」
翼は何も言わず私の線香花火に火を灯す。そして自分のにも。
こよりの先端の赤い玉が徐々に大きくなっていく。
「・・・・・・・・・」
私は、無言でそれを見つめる。
これが落ちた時、私たちは帰るのだろう。
楽しい時間というのは、なぜこんなにも早く過ぎ去ってしまうのだろうか。
翼といると、いつもすぐに時間が経っていく気がする。
今日はホントに楽しかった。翼も同じ気持ちだったらいいんだけど。
「・・・・・・・・・」
火花を散らしながら線香花火はさらに成長を続ける。赤い玉が震えだした。

 

―――落ちないで。

 

落ちたら今日はもう終わってしまう。そんなのイヤだよ。まだもう少しこのままで・・・・・・
翼は今、何を考えているのだろう。私と同じことを考えてたりするのかな。
私は何気なく翼を見た、すると
「!」
私を見ていた翼と目が合った。私はびっくりして肩が震えてしまった。そして。
はじけていた赤い火の玉は私の持つこよりの先から離れ、下へ下へと落ちていった。
その様子が、まるでスローモーションで見ているかのように、私の中でゆっくりと流れていく。
赤い火の玉が、私をここに留めておく理由が、私がまだ翼と一緒に居られる理由が、落ちていく。
それは音も無く地に着き―――そして、消えた。
最後の線香花火が、終わった。

 

 

続く

 

 



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