【小説・キミと夏の終わり】第三話:ヒマワリの浴衣

【小説・キミと夏の終わり】第三話:ヒマワリの浴衣

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。今回は先週掲載した小説の続きです」

今までのお話は、下のページから見ることができるなの!

 




 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

第三話:ヒマワリの浴衣

 

 

 

 

気付けば新幹線は駅を出ていて。
窓の外の景色は既に轟々と音を立てながら後ろに流れていた。
「あ・・・・・・」
私は辺りを見回した。新幹線の車内、そして隣の席に座っているおばあさん。
「あれ、ボク・・・・・・」
記憶がない。
おばあさんの荷物を持って、新幹線に乗ったところまでは覚えている。
でもその後の記憶、例えば席に座ったりだとか、新幹線が出発したりなどの記憶がないのだ。
「葵ちゃん、大丈夫? どこか具合でも悪いの?」
私がつぶやいたことに気付いたおばあさんが、私の顔を心配そうなに覗き込む。
どうやら私はしばらくの間ぼうっとしていたみたいだ。
「あ、はい、ダイジョブです。ごめんなさい、ボクから一緒に行きましょうって言っておきながらずっと黙ってて・・・・・・」
「気にしなくていいのよ。引っ越すんだもの、色々思うこともあるでしょうしね」
優しい目で私を見るおばあさん。話をしたからか、私の気持ちも落ち着いてきた。
「・・・・・・えっと、じゃあ、ボクの話を聞いてもらえますか?」
「えぇ、でも話すのが辛いなら無理して話してくれなくてもいいのよ」
私を気遣ってくれるおばあさん。しかし
「いえ、辛くなんかありません! どうしても、おばあさんに聞いてほしいんです」
私はどうしても聞いてもらいたかった。誰かに話すことで私は前へ進むことができる気がするから。
「そう? それなら、聞かせていただくわ」
「はい! じゃあ長くなると思いますけど、まずは・・・・・・」
まずは、一体何から話すべきだろうか。やっぱりキミと初めて会った時のことからだろう。
私はそう考えて、交差点で初めてキミと出会った時の話をした。
翼が「一緒に帰ろう」と話しかけてきてくれたこと。
危うく車にひかれそうになった私を、翼が助けてくれたこと。
悪いことをしていない時は「ごめんね」ではなく「ありがとう」ということ。
「へぇ、翼君ねぇ。とても優しい子だこと」
私がキミと出会った日の話を終えると、おばあさんはそう言った。
1時間前に始発電車で思い返したばかりだったけど、改めて声に出してみると記憶が鮮明に蘇る。
話していた間に新幹線は駅を一つ通過し、なおもものすごい速さで進んでいた。
「そうなんです、ホントに翼っていい人なんです! ボクの高校最初のトモダチなんです」
そう、最初のトモダチ。
あの出会いの日以来、私がまだ学校に馴染めずにいたときも、翼は何度も私に声をかけてくれた。
そのおかげで私は孤独を感じることもなかったし、他のクラスメイトととも徐々に話せるようになった。
「それで、一学期も終わって夏休みも残り少しのとき、一本の電話がかかってきたんです」
「翼君からかしら?」
「はい。それでボクは翼と一緒に夏祭りに行くことにしたんです――――」

 

 

「ねぇーお父さん、浴衣買ってー!」
高校1年生の夏休み。8月25日、夏祭り当日。いつもは土曜日も仕事があるお父さんが、その日は珍しく家にいた。
私が目を覚ましてリビングへ行くと、新聞を読んでいるお父さんの肩を後ろから瑞希が揺さぶっていたのだった。
「ん、浴衣? どうした急に?」
振り返って瑞希を見るお父さん。
「お父さん忘れたの? 今日夏祭りがあるから友達と行くって前に言ったじゃん!」
「あぁ、今日だったのか」
「そうなのー、だから浴衣買ってー! ・・・・・・あ、お姉ちゃんおはよっ!」
瑞希が私に気付いて、首だけこっちに向けて言った。
「おはよう瑞希、お父さん」
「おはよう、葵。・・・・・・わかったよ、買ってあげるよ、浴衣」
お父さんが瑞希の方を振り返って苦笑しながら言った。
「やったー! お父さん、あ・り・が・と! あ、ところでお姉ちゃんは夏祭りに行くんだっけ?」
瑞希がぴょんぴょん飛び跳ねながら尋ねる。瑞希の揺さぶり攻撃から解放されたお父さんはコーヒーのマグカップを口に運んだ。
「うん、行くよー。昨日トモダチから電話があってさ、行こうって言ったのー」
「えー、友達とか言って実は彼氏と行くんじゃないのー?」
お父さんがコーヒーをぶはっと吹き出した。
「そんなんじゃないよー、翼はただのトモダチだよー」
「翼ちゃんかー。なんだ、てっきり男の人と行くと思ったのに。つまんな~いの~」
瑞希が口を尖らせた。私が、翼は男の子なんだけど、と訂正しようとしたとき、吹き出したコーヒーをティッシュで拭いているお父さんが
「葵も夏祭りに行くのなら浴衣を買ってあげようか?」
私に提案する。
「浴衣、かー」
「お姉ちゃんもせっかくだし買ってもらいなよ!」
悩んでいる私に、瑞希が浴衣を勧める。
「んー・・・そーだね。そーする!」
せっかく夏祭りに行くんだし、久しぶりに浴衣を着るのも悪くないかもしれない。私がそう考えていると
「よーし決定! じゃあ早速買い物にしゅっぱぁーつ!」
瑞希が私の手を引っ張って玄関に行こうとした。
「え、ちょ、ちょっと瑞希! ボクまだパジャマのままなんだけど!」

 

「これでよし、っと」
私は自分の部屋の鏡の前で、ちゃんと浴衣を着れているかどうか確認した。
今日買ってもらったこの浴衣は、紺色をベースにたくさんのヒマワリが散りばめられていて、紅色の帯で留められている。
時計を見ると約束の時間20分前。そろそろ家を出た方がよさそうだ。
一階へ降りると、瑞希もちょうど家を出ようとしているところだった。
「わぁー! お姉ちゃんかわいい!」
「そ、そう? ありがとー! 瑞希もよく似合ってるよー!」
瑞希の浴衣は水色を基調としたもので、三日月の模様が入っている。
「へへー。でもせっかく浴衣着るなら彼氏と行きたかったなぁ―――なんて言ったら美咲が怒るか。・・・あ、もうこんな時間! お姉ちゃん、先行くね!」
「うん。気をつけてねー」
「お姉ちゃんこそ、そんなにかわいいんだから悪い男にのせられてホイホイ着いてっちゃダメだよ!」
瑞希はいたずらっぽい顔をして、家を出ていった。
「な・・・! まったく、生意気なこと言ってー。翼は悪い人じゃないもん」
私は翼が悪いことをする人じゃないと知っている。
「よし、じゃあボクも行こうかな」
私がそう言ってサンダルを履くと
「お、葵ももう行くのか」
お父さんがリビングのドアから頭を出して訊いた。
「うん、行ってくるねー!」
「あ、あぁ。その、なんだ、暗くなる前に帰ってこいよ」
「お父さん、ボク夏祭りに行くんだけどー・・・・・・」
既に5時40分。それに夏祭りの最後には花火大会もある。
「そ、そうだったな。でもあんまり遅くなるなよ、気をつけてな。夜はなにかと物騒だしな」
「ダイジョブダイジョブ♪ じゃあ行ってきまーす!」
私はお父さんに笑顔で手を振ると、玄関の扉を開けて外に出た。
「・・・・・・お父さん、きっと久しぶりの休みなのに二人とも家にいないから寂しいんだろうな。ごめんね」
家の中からお父さんのくしゃみが聞こえた、気がした。
待ち合わせ場所の保穂公園までは歩いて15分ほどだ。
「夏祭り、楽しみだなー!」
私はこれからの時間に胸を弾ませていた。

 

「へぇ、葵ちゃんは本当に翼君のことを信じているのね」
おばあさんが目尻に皺を寄せる。
新幹線の通路を、車内販売のカートが通過していった。
「はい! ・・・・・・でも」
「でも?」
私は不安をおばあさんに打ち明けた。
「でも、よくいろんな人に『葵は人を簡単に信じすぎ』って言われるんです」
「あらそうなの? 私も翼君はいい子だと思うけれど」
私も翼はいい人だと思っていた。しかし、当時私は一つの噂を聞いていたのだった。
「実は美沙・・・ボクのトモダチに『中田 翼って中学時代女癖が悪くて何股もしてたらしいわ。だから葵もあまり関わらない方がいいわよ』って言われたんです」
「それで葵ちゃんはどう思ったの?」
「ボクは・・・翼ならいい人だからダイジョブだって思いました」
「それはなぜ?」
「なぜ・・・・・・」
間髪入れず質問をしてくるおばあさんに、私は一瞬詰まりながらも答える。
「その話がホントだったとしても、ボクの知っている翼はそんな人じゃなかったからです。翼はいつもボクに優しくしてくれました。それが、ボクが翼を信じる理由です」
私は断言した。
おばあさんはそれを聞いてしばらく目を閉じて黙っていた。そして、微笑んだ。
「信じる、ね・・・・・・。あの人もそうしてくれていれば・・・・・・」
どことなく悲しい笑みで遠い目をしているおばあさん。そしてまた私の方に向き直った。
「あら、ごめんなさい、おかしなことを訊いて」
「いえ、全然! ・・・・・・何かボク、変なこといいました?」
私は少し不安になって尋ねる。
「違うのよ、ただちょっと別れた主人のことを思い出してしまっただけ」
おばあさんは少し上の方を見ながらそう言うと
「・・・・・・葵ちゃん」
急に真顔になる。
「は、はい」
私はおばあさんの真剣な瞳にちょっとびっくりしつつも返事をした。
「確かに人を簡単に信じるのは危ないことかもしれない。けれど、だからといって誰も、特に自分の身近にいる人を信じられないようではいけないわ」
おばあさんはしっかりとした声で更に続ける。
「人を信じるっていうのはとても大切なこと、素晴らしいことよ。だから葵ちゃん、これからも信じる心を大切にしなさい」
まっすぐ私を見据えておばあさんは言い切った。
「わかりました! ありがとうございます!」
「あら、私としたことが。ごめんなさいね、去年まで教師をやっていたものだから、どうしても説教臭くなってしまうわ」
口に手を当てていうおばあさん。瞳は優しい瞳に戻っていた。
「そんなことありません! むしろ・・・・・・ほっとしました」
私は本心からそう言った。
「いつも人を簡単に信用しすぎだ、って周りに言われてて。だからそれっていけないことなのかなってずっと不安に思っていたんです。でも、おばあさんの言葉で自信が持てました! ボクはこれからも、人を信じようと思います」
私は満面の笑みで言った。おばあさんもそれを聞いてとても嬉しそうな顔をした。
「よかったわ、私の言ったことでそう思ってもらえると。・・・・・・さて、話が逸れちゃいましたね。続きを聞かせてくれるかしら? 葵ちゃんのお話」
「もちろんです! えっと家を出たところまで話をしましたよね。じゃあそこから――」
私は信じてるよ、キミのこと。そしてこれからも、ずっと。

 

 

続く

 

 



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