【小説・キミと夏の終わり】第二話・キミからの電話

【小説・キミと夏の終わり】第二話・キミからの電話

 

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キミと夏の終わり

 

 

 

 

第二話:キミからの電話

 

 

 

 

太陽も見える角度まで昇ってきた。まだ新幹線が出るまで時間があるけれど、屋内にある待合室にいるのがなんとなく嫌で、私はホームで待つことにしたのだった。
とりあえず近くにあったベンチに腰掛けた。新幹線のホームは駅の一番端にあるので、朝の駅前の様子がよく見える。線路の向こうに見える高層ビル群が太陽の光に反射して輝いていた。
さすがに大都市の中心地だけあって、まだ午前6時過ぎだというのに車通りが多い。
この街には1年半近く住んだけど、結局この空気の悪さには慣れることができなかった。だけどそれを感じるのもあと少しだ。
思えばこの街での暮らしは、今までの中で一番楽しかったように思う。
私のお父さんは大手の証券会社の社員で、2年ぐらいごとに転勤になる。以前はお父さんが単身赴任して、私はお母さんと、妹の瑞希の3人で暮らしていた。
でも、私が7歳の時にお母さんが入院生活になってからは、幼い私と妹だけを家に置いておくわけにもいかないので、私はお父さんと一緒に暮らすようになった。
それ以来、お父さんが転勤になる度に引越しを繰り返し、幾度となく転校した。そんな短い期間の間に親友などできるはずもなかった。
・・・・・・いや、今思えば時間の問題ではなかったのかもしれない。別れに傷付くことを恐れるあまり、私は人と深く関わることを避けていたように思う。
そして段々と人見知りする性格になり、それが紛れもない去年までの私だった。
だけど去年の春、青陽学園高校に入学して、たくさんの優しい人たちと出会って、私は変わった。
今の私がいるのは紛れもなくみんなのおかげだ。ありがとう、私の初めての親友たち。
そして何より翼、キミに出会えて本当によかったよ。私は自信をもってそう言える。
私を変えたきっかけは、一本の電話からだったね―――

 

 

「あー、明日夏祭りかー」
あれは去年の8月24日、一学期も終わって夏休みも残り1週間という頃。私はベッドにごろんと寝転がりながら、壁にかかっているカレンダーを見て一人つぶやいていた。
私が住んでいる桜木町のある南区では、毎年8月の最後の土曜日に夏祭りが開かれる。屋台がたくさん並んだり、いろんなイベントもあるんだとか。
特に夜に行われる花火大会は大規模なもので、これを見て”夏の終わり”を感じるという、いわばこの街の風物詩らしい。
そして明日8月25日は夏祭りの開かれる、8月最後の土曜日だった。
私はこの街に引っ越してきてから最初の夏なので、その夏祭りへは行ったことがない。それどころか昨日妹の瑞希に聞くまで夏祭りがあることすら知らなかった。
中学2年生の瑞希は学校の友達と行くらしい。私もせっかくなので見に行きたかったけど、あいにく越してきて半年の私には地元の友達というものがいなかった。
中学校とは違い高校、特に私の通う青陽学園高校のような私立校は地元以外からの生徒が多い。美沙ちゃんも涼子ちゃんも市外に住んでいる。
あやめちゃんは豊徳市内に住んでいるけど、さっき電話してみたら既に他の人と夏祭りに行く約束をしてるらしい。
結局一緒に行く相手が見つからず、かといって一人で行くのもつまらないので、私は明日家にいようと決めた。
「そういえば夏休みの宿題もまだ終わってなかったしねー」
独り言が部屋の天井に吸い込まれる。私は一つため息をつき、夕飯を作ろうとベッドから起き上がった時だった。

Trrrrr・・・

電話のコール音が1階から聞こえた。今、家には私しかいないので急いで階段を駆け下りてリビングへ向かい、受話器を取る。
「はい、もしもしー?」
『うわ! ・・・・・・あ、えっと日向さんちのお宅ですかぁ?』
電話に出ただけなのになぜか驚かれてしまったが、聞き覚えのある男の人の声がした。若干上擦っているけど。
「はい、そーですー。・・・・・・えっと、翼?」
『ん、葵か? うん、俺だよ、久しぶり~』
「久しぶりだねー!」
翼と最後に会ったのは終業式の日だったから、翼の声を聞くのは実に1ヵ月半ぶりのことだ。
『いきなり電話かけてごめんな~、今大丈夫か?』
「うん、ダイジョブダイジョブ♪ でもびっくりしたよー、いきなりだもん!」
久しぶりに翼と話せたからか、私は自分の顔が自然と笑顔になるのを感じた。
立ちっぱなしだった私は、リビングのソファーに寝転がる(この受話器はコードレスだ)。
『そっか、元気そうでよかった』
「翼も元気そうだねー。それで、どーしたの?」
ソファーの上で天井を見上げながら、電話の用件を尋ねてみる。
『えっ!? あ、うん。あのさぁ・・・・・・』
翼にしては珍しく歯切れの悪い答えが返ってきた。一体どうしたのだろう。
『えっと・・・・・・、葵は明日って・・・・・・暇、だったりする?』
「明日? うん、暇だよー。・・・・・・あ、そーだ!」
私は名案を思い付き、ソファーから上半身だけ勢いよく起き上がった。
『ど、どうした?』
「翼、明日一緒に夏祭りに行かないー? 近くでやるんだよねー?」
私は翼が同じ南区である波野に住んでいたことを思い出したのだ。
『・・・・・・』
電話の向こうで翼が沈黙して、私は不安になって尋ねる。
「あ、もしかして他にもう予定あったー?」
『そ、そんなことない! 行く、絶対行く!!」
「やったー!」
私は夏祭りに行けるのが嬉しくて、ソファーの上で飛び跳ねた。
「よかったー! じゃあどこで待ち合わせしよっかー?」
『そうだな、じゃあ―――』
私たちは集合場所と時間を決めた。その後もいろいろと他愛もない話で盛り上がる。
「ホントにあれ面白かったよねー! ・・・あ! そういえばなんで翼が電話かけてきたのか聞いてなかったー」
元はといえば翼から私にかけてきた電話だったのに、私はすっかり用件を聞くのを忘れていた。
『えっ!? あ、そのさー、えっと・・・・・・あ、そう、宿題! 宿題終わったかなと思って!」
「宿題? ううん、まだ全然やってないよー」
「ただいまぁー」
その時、玄関の方からドアが開いた音と、瑞希の声がした。壁の時計を見るともう7時を回っている。随分長いこと電話していたみたいだ。
「あ、ごめん、妹が帰ってきたから電話切るねー」
『おぅ。じゃあ明日6時に保穂(やすほ)公園駅の前でな!』
「うん! じゃーねー!」
私は電話を切って、受話器を元の位置に戻した。それと同時に
「あ、お姉ちゃんいるんじゃん。玄関暗かったよ、電気つけときなよー」
瑞希が土まみれの体操服姿でリビングに入ってきた。ソフトボール部に入っている瑞希は、夏休みでもこうしてたまに練習があるらしい。
「ごめんごめん、忘れてたー・・・・・・」
「ま、いいや。そんなことよりおなか減ったー! 今日のご飯何?」
しまった! 私の背中を冷や汗が流れる。
「えっと、その・・・夕飯は・・・・・・」
私は瑞希の視線から逃れるように目を伏せる。
「ん? ・・・・・・まさかお姉ちゃん? 夕飯作ってないんじゃないでしょうね!?」
顔を見なくても瑞希の目尻が釣り上がっていく様子が頭に思い浮かぶ。
「その『まさか』・・・・・・」
「お姉ちゃんのバカー! 今日はお姉ちゃんが夕飯作る当番でしょー!」
瑞希がぽかぽかと私を叩いてくる。私は電話に夢中で夕飯を作るのをすっかり忘れてしまっていた。
「ごめんごめん! 今急いで作るから!」
頭を抱えながら私は台所へと急ぐ。
「早くしてよー、おなかペコペコでもう死にそうだよぉ・・・」
ホントに死にそうな瑞希の声を聞きながら冷蔵庫を開けた。しかし
「見事に空っぽ・・・・・・」
「えーー!?」

 

 

「隣に、座らせてもらってもいいかしら?」
突然話しかけられて私は我に返る。また昔の思い出の世界に入り込んでしまっていたみたいだ。
私に話しかけてきたのは、初老の女性だった。歳は古川先生と同じくらい、60歳前後だろうか。
おばあさんは私の座っているベンチの脇に立っていた。
「あ、はい! どうぞ!」
私は自分のかばんを膝の上に乗せて、おばあさんが座れるスペースを作る。
「ありがとね」
よっこいしょ、と言いながらおばあさんがベンチに腰を下ろした。
「お嬢ちゃん、一人なの?」
「はい。おばあさんもですかー?」
初対面の人とスムーズに話せるようになったのは大きな進歩だと思う。これもこの街でみんなと過ごして変われたおかげだ。
「えぇ。東京に住む娘夫婦に会いにね。久しぶりに会うものだから早起きしてしまったわ」
うふふ、と笑うおばあさん。私もつられて笑みをこぼした。
「それは楽しみですね! ボクは今から引越し先へ行くんです」
「引越し? ご家族と一緒じゃないのかしら?」
おばあさんが眉間にしわを寄せた。それもそうだろう、私のような歳なのに一人で引越しというのは不自然だ。
「はい。いろいろあって、ボクだけ後から行くことにしたんです」
ちょうどその時アナウンスがあって、新幹線がホームに着くことを知らせた。
「あ、新幹線来るみたいですね! ・・・・・・あの」
唐突に、私は思った。おばあさんに聞いてもらおう。私が一人で後から行く理由を。
「何かしら?」
「あの、もしよかったらボクと一緒に行きませんか? ボクが今ここにいる理由、聞いてほしいんです」
私が初対面の人に一緒に行こうと誘うなんて、1年半前の私からしたら考えられない。
私は本当に変わった。それも私が今ここにいる理由と深く関係がある。おばあさんは私の誘いに
「あら、それは嬉しいわ。旅は道連れといいますしね。私でよければいくらでも話を聞かせていただきますよ」
と快諾してくれた。新幹線がホームに滑り込んでくる。
「ありがとうございます! あ、荷物持ちますね!」
「あら、悪いわねぇ。じゃあご好意に甘えさせてもらうことにするわ」
私はおばあさんのバッグを持つと立ち上がった。おばあさんも、どっこいしょと言って立ち上がる。
「それじゃよろしくね、お嬢ちゃん」
「はい! あ、ボクのことは葵って呼んでください!」
プシュー、という音と共に新幹線のドアが開いた。
ついに、キミのいるこの街を離れることになる。そう考えて一瞬、寂しさが私を襲う。
「どうかしたの? 葵ちゃん」
おばあさんが心配そうな顔で私を見た。いつの間にか暗い顔になっていたようだ。
「あ、ダイジョブダイジョブ、です! 行きましょうか!」
心の中に渦巻く様々な想いを振り払って、私は一歩を踏み出す。
じゃあね、翼。約束だよ、必ずいつの日かまた会おう―――

 

 

続く

 

 



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