【小説・キミと夏の終わり】第六話:縮まらない距離

【小説・キミと夏の終わり】第六話:縮まらない距離

 

こんにちはなの!モロくんなの!

こっけ~:「モロのかいぬし、こっけ~ですー。土曜日は、小説の日!」

第一章もいよいよ佳境なの!

 

※ 目次はこちら。

 

 




 

 

 

キミと夏の終わり

 

 

 

 

第六話:縮まらない距離

 

 

 

 

最後の花火が上がってから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
私たちは神社の石段に座っていた。
私は伸ばした両足のサンダルをぶらぶら動かす。
「・・・・・・・・・」
翼もすぐ横で石段に腰掛けている。
私は前を向いたままだけど、翼も同じように前を向いているのがなんとなくわかった。
二人で花火をしている間は聞こえていた街の音も一切聞こえなくなった。もう夏祭りが終わったからだろう。
私は腕時計を見た。10時31分。本来ならもう家へ着いている時間だ。
瑞希だってとっくに家に帰っているだろう。お父さんが心配しているかもしれない。
帰らなくちゃ。私は重い口を開いた。
「・・・・・・帰ろっか」
私の口から出てきたのは蚊の鳴くような小さい声だった。もしかしたら少し震えていたかもしれない。
自分で言ったくせに、今の言葉が聞こえていなければいいな、と期待している自分がいた。しかし
「・・・・・・そうだな」
この静けさの中では十分に聞こえていたらしく、その期待はあっけなく消えた。
私は音もなく立ち上がって、お尻を手で軽くはたく。
そして石段を一歩ずつ、ゆっくりと降りていく。
翼の足音が少し後ろから聞こえ始めた。私が一段降りるたび、翼も一段降りている。
私が歩くスピードを緩めてみると、翼もそれに合わせた。
・・・・・・なんで隣に並んでくれないんだろう。
一定の距離を保ったまま、石段を鳴らす二人の足音が同じペースで林の中に響く。
私は沈黙に耐え切れなくなって
「翼」
後ろへ振り向いた。
「な、何?」
数段上で、同じく立ち止まる翼。私たちの距離は変わらない。
「どうしてさっきから後ろばっか歩いているの? なんで一緒に歩いてくれないの?」
「それは・・・・・・」
口を濁して私から目を逸らす翼。その歯切れの悪さに、私は今日ずっと気になっていたことを訊いてみた。
「今だけじゃないよ。今日は話しかけてもちゃんと答えてくれなかったり一人で何かつぶやいたりしてさ。今日の翼、なんか変だよ?」
私は石段を駆け登って、距離を詰めた。
すると翼は―――後ずさった。
「え・・・?」
翼は、私を、避けている・・・?

ショックだった。

今日、翼はずっと様子がおかしかった。それは、私なんかといたからだったんだ。
翼は優しいから、昨日私に夏祭りへ誘われたのを、断れなかったんだろう。
私なんて、翼にとってただのクラスメイトだったのだ。だからきっと、居心地が悪かったんだ。

悲しかった。

ついさっきまで翼に詰め寄っていた威勢のよさは消え去って、代わりに心の中にぽっかりと穴が開いたようだった。
私は視線を下に落とした。そして大きく深呼吸をする。心にできた隙間を埋めるように。
もちろんそんなことで隙間は埋まらなかったけれど、私は気力を振り絞り声を出した。
「ごめんね」
私がそう言うと、ずっと下を向いていた翼が顔を上げた。私は言葉を続ける。
「ボクなんかと夏祭り付き合わせちゃって、ごめんね。迷惑だったよね」
なんで「今日の翼は、なんか変だよ?」だなんて訊いちゃったんだろう、と思った。
でも、訊かなかったら翼はずっと迷惑してただろうから訊いてよかったのかな、とも思った。
今私にできることは、翼から離れることだけだ。
「ボクは一人で帰れるから、行くね。・・・・・・バイバイ」
私は石段を一人で降りていく。
翼の足音は、しない。
一歩ずつ、二人の距離が離れていく。
今までの出来事が、走馬灯のように思い浮かんできた。
この街へ引っ越してきて、青陽学園高校に入って、誰とも話すことができなかった私に翼は話しかけてくれた。
別れに傷付くことを恐れ、人と深く関わることを避けていた自分を、翼は変えてくれた。
いろんな話をたくさんして、私は翼のことをトモダチだと思ってた。
だけど、それも私の勝手な思い込みだったんだね。
私がそう結論付けた、その時だった。

「葵っ!!」

翼の大声が聞こえた。
私は翼に背を向けたまま立ち止まった。後ろから翼がまた叫ぶ。
「葵がどう考えたのかわかんねぇけど、俺はちっとも迷惑だなんて思ってない! いや、むしろ葵と夏祭りに来れて、マジでよかったと思ってる!」
私は振り返って翼の方を見た。数メートルほど上にいる翼。
「じゃあ、なんで?」
私は震えた声で聞く。
「なんで今日は、ボクのこと、避けたりしたの?」
「いや、避けたんじゃなくてさ・・・・・」
翼は一段ずつ石段を降りてきた。神社を出た時からずっと開いていた私との距離が、少しずつ埋まっていく。
そして、並んだ。翼の目は真っ直ぐ私を見ていた。
「俺、わかったんだよ」
「わかった、って何が?」
私は首を傾げた。翼は一回深呼吸をすると、言いにくそうに話し始めた。
「葵は知らないかもしれないけどさ、俺って中学生の頃、女関係すっげぇ荒れてたんだ。女なんていくらでもいるし、モテることこそ一番だと思ってた」
翼の言葉を聞いて、私は美沙ちゃんの話を思い出した。中田 翼は女癖が悪い。それってホントのことだったんだ・・・・・・。
「でも、俺は高校で葵と出会って、話して、それでわかったんだ。そんなの間違ってるって」
私は翼の話を黙って聞く。
「裏表のない葵の笑顔を見てたらさ、俺が今までやってきたことってすっげぇひどかったんだなぁって思ったんだ」
今さらだけどな、と付け加えて後ろ髪をがしがしと掻く翼。
迷惑だなんて思ってないと言われ胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は翼の話すことに頭がついていかない。
「・・・・・・で、でも、どうしてボクにそんな話をするの?」
「それは・・・・・・葵には本当の俺を知ってもらいたいんだ。じゃなきゃ俺には言う資格がないから・・・・・・」
「資格・・・?」
翼が何のことを言っているのか全然わからない。しかし翼は話を続ける。
「もし、今日の俺の態度で傷付けてしまったのなら、ごめん。ただ、今日の夏祭りは決心して来たからさ」
私にはなんとなく、翼の話し方には何か信念のようなものが感じられた。
「夏祭りを葵と一緒に過ごして、確信が持てたよ」
その信念が何なのか、私にはちっともわからないけれど。
「綿菓子で喜んでるところとかさ、金魚すくいに夢中になって浴衣の袖を濡らしちゃうところとかさ・・・・・・」
翼が夏祭りのことを話したその時、私の頭の中に一つの言葉が引っ掛かった。金魚すくい・・・・・・。ん、金魚?
「俺、そういう葵が」
「あー! 金魚忘れたー!」
私は叫んだ。
「・・・へ?」
「ほら、屋台のおじさんに貰った金魚、神社の欄干にかけっぱなし!」
私は金魚を神社に忘れてきてしまったことに気付いたのだった。
「えっと・・・あのー・・・・・・」
「ごめんね翼、ボク取ってくる!」
私は今降りてきた石段を急いで駆け上がる。後ろで翼がため息をついた気がした。

 

 

 

「あったー!」
神社の裏に戻ると、欄干には金魚の袋がかかったままだった。私は走って近付く。
「ごめんねー、ダイジョブだった?」
袋を目の前にぶら下げて中を見ると、三匹の金魚が恨めしそうに私を睨んでいた。
ごめんなさい、反省してます・・・・・・。
「金魚、無事だったか?」
「あ、翼も戻ってきてくれたの? わざわざごめんねー」
翼がげんなりしているように見える。やっぱりサッカー部の練習とかで疲れているのかもしれない。
「じゃあ金魚も見つかったことだし、今度こそ帰ろっかー」
「・・・・・・おぅ」
私たちは神社を離れ、再び石段を歩き出した。金魚を挟み、今度は同じ段で。
「この子たちの名前、何にしよーかなー」
私がふと呟くと
「金魚に名前付けんのか?」
翼が驚いた顔をして私を見る。
「もちろん! ペットは家族だもん」
「・・・・・・どんな名前にするんだ?」
そうだなー、と私はつぶやいて、一つ閃いたものを言ってみる。
「『つーくん』と『ばーくん』と『さーくん』っていうのは」
「やめてくれ」
言い終わっていないのに翼に却下されてしまった。
「むー。いい名前だと思うけどなー」
「どこがだよ」
明るい口調で苦笑する翼。それを見て改めて、翼が私のことを迷惑だと思っていなくて、ホントによかったと思う。
「あ、そういえばさー、さっきの翼の話ってなんだったの?」
私がそう言った瞬間、翼は石段を踏み外し転びそうになった。
「つ、翼! ダイジョブ?」
「ゲホ、ゲホッ!」
翼はしばらくむせていた。ようやくそれが収まると
「葵さ、ここでその話をまた持ち出すのかよ・・・・・・」
呆れたようにそう言う。
「はへ? ボク何か変なこと言ったー?」
「・・・・・・葵、今まで『にぶい』って言われたことないか?」
「よく言われる。美沙ちゃんにも言われた」
なんでわかったんだろう。私が正直に答えると、翼はがっくりとうなだれて膝に手をついた。
「どーしたの?」
「・・・・・・・・・」
翼は無言で固まっている。
会話が止まったせいか、辺りが急に静かに感じられた。
林はざわめき、風が時間と共に流れる。
「えっと・・・・・・翼?」
膝に手を当てたまま動かない翼に、私は声をかける。
すると翼はゆっくりと、顔を上げた。
「!」
私はどきっとした。翼の表情が、目が、今までに見たこと無いほど真剣だったから。
「葵」
「は、はい!」
私はなんだか緊張して声が裏返ってしまった。自分でもなんでこんなに緊張しているのかわからない。
翼は石段を三段降りると、私の正面で振り返った。
段差で目の高さが同じになる。
「俺は」
「う、うん」
その真っ直ぐな翼の瞳に、私は目を逸らすことができない。

 

 

 

「葵のことが、スキだ」

 

 

 

 

 

続く

 

 



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